遠藤家へご招待
長浜の観光案内は、一応ここまでです。
ようやく、話が動き出します!
『長浜ものがたり』 遠藤家訪門編
国友さんを見送り、長浜散策を再開した。
まずは、先日話に出た 『長浜鉄道スクエアー』 に行くことにした。
外観はレンガ調の建物で、内部は鹿鳴館の香りがした。
展示を見るが、米原-大津間を差し置いて、汽船が走っていたんだな。
明治政府の目の付け所が、半端ないぜ。
用地の取得の困難さや、鉄道の建設のコストと工期を完璧に読んでいたんだ。
そして、長浜に誘致した町衆もスゴい。
お次は、D51(デゴイチ)だ。
すげぇ!
俺、SLとかの本物、生まれて初めて見たよ。
他にも希少な車両がある。
いかん、ワクワクしてきた。
季節によっては、観光で C-56 『SL北琵琶湖号』が、走っているらしい。
やるな、長浜! 是非乗ってみたい。
鉄道クイズにもトライした。
「こどもね~」
ねねは、あきれ顔で俺を見ている。
「男はいつまでたっても、童心を忘れないのさ」
子供に交じってクイズに興じていたのは、少々気恥ずかしい。が、こういうノリも悪くはない。
「子供って事じゃん」
大げさに、肩をすくめヤレヤレといった感じだ。
「確かに」
SLで妙にテンションが上がってしまったのは、認めよう。
流石に、ねねにあきれられてしまったかな。
よ~し、ここから挽回しよう。
このあとは、大人っぽく美術館を冷やかすつもりだ。
すでに、『成田美術館』という所にめぼしを付けている。
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~ 昼下がりの出来事 ~
大人っぽいデートを目論んでいた。
長浜の情緒あふれる町並みのおかげで、半ば成功しつつあった……。
”プルルル……”
ねねの携帯に着信が入った。
「はい、ねねです。おかあさん。え、なに? え……ええっ!!」
「……」
家からかな?
「……そんないきなり、ん~ちょっと待ってて。 聞くだけ聞いてみる」
ねねは、かなり慌てている。
なにやら、母親とやりとりをしているようだ。
「電話、何だったの?」
もしかして急用かな? 気になるな。
「あのね、毎晩宿をとるの大変だろうから、今晩うちに連れて来なさいって」
「ふ~ん、ええっ」
「ど、どうかな」
携帯を電話の受話器のように手でおおい、音を遮って小声で話す、ねね。
只今、返事待ちらしい。
「ど、ど、ど、どうしよう?!」
いきなりの事態に、あせる俺!
「男らしく、返事して!!」
そう言って、ねねから携帯を渡されてしまった。
かすかに声が聞こえる……。
「もしもぉ~し」
しかたがない、俺が話すしかないな。
「スミマセン、お電話変わりました小谷長政です。いつもお世話になっています」
「ねねのこと、よろしくお願いしますね。 じゃあ、今晩待ってますから。 すき焼きでいいですね」
「え?」
一方的にそう告げると、切れてしまった……。
「……」
「どうなったの?」
なぜか、その場にしゃがみ込んで耳をふさぎ目を閉じていた、”ねね” が薄目を開けて俺を見つめる。
(爆弾処理か?)
「今晩、すき焼きだって」
「なにそれ」
その後は、はっきり言ってあまり覚えていない。
俺だって、いきなりの展開に頭がついていかないのだ。
着たきり雀では、格好がつかないので、あわてて服を買いに行ったな。
ねねにシャツを選んでもらった、気がする。
とりあえず、夕方までの時間をつかい遠藤家訪問に備えた。
気が重い。
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夕方
ねねの車の後をついて、愛車を走らせる。
少し細い路地を入り、目的地が見えてきた。
電動シャッターのガレージだ。
ガレージの屋根には、ソーラーパネルが付いている。
エコ発電の何とかまである。
やはり、新しいモノ好きなのだろうか?
車庫にラパンとSR400を止める。
庭がある。
鹿威しとかいう、”かこ-ん”となるヤツが、俺を脅す。
玄関の方には冠木門というのか、門がある。
「お、お屋敷じゃないか」
俺、場違い感半端無いよ。アウェーだよ。
「こっちよ」
「おう」
ねねに導かれ、玄関へ向かう。
格子が入ったサッシの扉を開く。
「「いらっしゃ~い」」
品の良い初老のご婦人と、ご婦人が着物姿で出迎えてくれた。
(旅館かっ!!)
まさか、お手伝いさんというわけではないだろう。
どう見てもテレビで見る、『高級旅館の女将』 よりスゴイ。
ほんと、もう言葉が出ない。
多分 『浜ちりめん』 のなんかとかじゃないのか? 知らんけど。
「長政くん、おかえりなさい」
「ふたりとも遅かったわねぇ」
別々の内容で、ハモってるし。
もう俺が来るの前提どころか、「おかえり」とか言われちゃったよ。
靴を脱ぎ、おそるおそるおじゃまする。
廊下には……。
居た……。
着物の袖に腕を入れ仁王立ちで迎える、たぶん祖父さん?
「ねね、少し遅かったな」
「おじい様、ただいま戻りました。 お待たせしてしまい申し訳ありません」
丁寧に正座をして、帰宅の挨拶をするねね。
いささか時代がかっている。
(まさしく良家のお嬢さんだよ、オレ絶対場違いだよ。)
「うむ。 長政くんもよく来てくれた」
笑顔で迎えられた。
「お、お邪魔します」
とりあえずお辞儀をした。
というか、名前が割れている?
「こっちだ」
廊下を抜け、広間だろうか?
部屋に通された。
ねねは、別行動だ。
居心地悪いし、場違いだよね。
いちおうシャツだけは、さっき新しいの買ったんだけど……。
宴会のような席がしつらえてあった……。
「長政くんは、鮒鮨が好きかね?」
渋い声で聞いてくる、おじいさん。
「ええ、先日頂きました。美味しかったです」
俺は、何とかご機嫌を取ろうと”美味しかった”ことをアピールした。
「そうかそうか」
にこやかに、別膳に箸をつける、ねねのおじいさん。
別膳って、まさに家長という雰囲気だ。
日本の古きよき男、という感じ。
「はい、近江の伝統を感じました」
鮒鮨は、湖国の味と聞いた。ほんと、食べられてよかった。
「お酒は飲めるのかい?」
お猪口を片手に問われる。
まさに、絶滅危惧種、『日本男児』の”ありし日の姿”である。
こええ~。
「ええ、たしなむ程度に」
「ふむふむ」
なぜだか、”ねね”のおじいさんは上機嫌だった。
かくして、着替えを済ませたねねと、ご家族を交え食事が始まった。
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~ ねねの知らない裏側 ~
とある夕食の席
「それでね、長政君たら長浜ラーメンを探していたの。笑えるでしょ」
楽しげに話すねね。
「そうなの」
そんな、彼女の話に耳を傾ける。母。
「で、案内してあげたの」
「あらあら」
孫がいつになく、男の子に対して積極的で驚く祖母。
次の日も
「カーディガンをね、とってくれたの。すごい偶然ね」
まるで物語みたいと、気合いを入れて家族に話すねね。
「まあ、・・・・・・」
「ロマンチックねぇ」
脈ありかしらと、この後いろいろさぐりをいれる母と祖母。
「鮒鮨を、ペろって食べてくれたの」
鮒鮨ファイト、を思いだし。感激するねね。
「おおそうか」
最近は不遇を通り越して、ネタにされている湖国の味。
それを、正当に評価できるとは関心な若者だ。と、よろこぶ祖父。
と言う具合に、今日一日あった出来事を家族に楽しそうに話すねねがいた。
”小谷長政の情報”は、筒抜けだった。
普段男っ気のないねねが楽しそうに話すのだ、長政君に家族が興味を持ったのは云うまでもない。
『小谷長政君』は、どんな男の子なのか?
それが重要だった。
とりあえず悪い子ではなさそうだ。
ねねの母。ゆかりは、ねねの親友である国友由美子に連絡を取った。
由美子は、長政の人となりと、ねねの反応をつぶさに報告した。
報酬は、ジズニーリゾートの宿泊付きチケットである。
(3枚あるので、ねねと千尋ちゃんとで行きなさい。)
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とある工作員の報告
由美子は、緊張した面持ちである。
当然である。白か黒かを、はっきり付けなければならないのだ。
小谷長政は、どっちなのだ?
遠藤家の皆さんが、固唾をのんで見守るなか答えを出す。
『パターンホワイト、白(し○)です!!』
「なにぃ、し○だと?」
「○ろなのかい?」
「ええっ、し○ですって?」
「どうやら、問題はなさそうだねぇ」
ねねの親友の由美子をよく知る祖母の松子は、一安心した。
「何かあったら、儂がたたっ斬ってやるわい!!」
物騒なことを言いつつも。
もはや、家に招く気満々の祖父の久雅である。
賛成3 反対0。満場一致で『長政君の招待』が、可決された。
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ゆかりは満を持して、ねねに連絡をした。
家の電話機に手を伸ばす。
”カチャ”
「毎晩宿をとるの大変だろうから、今晩うちに連れて来なさい」
かくして、長政君の長い夜が始まるのであった。
『長浜ものがたり』 遠藤家訪門編 おしまい
長浜には、『海洋堂ミュージアム』がございます。
ゴヅラ対エヴォのジオラマが展示中。
ですので、遠藤家の皆さんもみんな知っています。
由美子のネタに乗っかかるくらいは朝飯前です。