武将といえば、みつなり!!
忠義の人、三成です。
『長浜ものがたり』 歴史探訪、石田三成編
三度目の正直という。
今日は三日目だ。
今日こそは、ビシッときめよう。
よく考えたら、俺いつもグダグダだよな。
そう思い、約束の時間の30分前に噴水前にスタンバイした。
人を待つというのも、案外いいものだ。
缶コーヒ片手に、噴水のほとりをぶらぶらする。
「ゴメ~ン待った?」
俺の姿を見つけて、ねねが慌てて駆け寄ってくる。
「いや、全然。今来た所だよ」
そういって、にこやかに微笑み返した。
(これよこれ、これがやりたかったんだよな~)
「うっわ~、べたべたやな」
「ええっ」
ねねの背後にいた女の子が、関西人のような発言をした。
「ごめん、お友達に捕まっちゃった!」
シュンと項垂れ、いかにも申し訳なさそうなねね。
「人聞き悪いわ~、元から今日は私と遊ぶ約束してたやん」
いかにも活発そうな女の子が、ねねの後ろから肩に手を置き頬を寄せている。
あからさまな、仲良しアピールだ。
「む~」
さも心外です! といわんばかりに頬を膨らます、ねね。
「おばさんから、『ねねに彼氏が出来たみたい』って聞いたんやけど、ホンマやな」
彼氏といわれて、思わず顔がほころぶ俺。
「由美子~」
「ごめんごめん」
「え~っと」
「ああ私? 私は国友由美子。ねねの無二の親友ってヤツ」
ねねから手を離し、胸をそらして大威張りって感じで応える。
国友さんは、ずいぶんとくだけた感じで俺でも話しやすそうである。
「小谷長政です、よろしく」
「うんうん礼儀正しいイケメンやん。 名前もねね好みだし」
親友の彼氏を値踏みするような視線が、俺に纏わり付く。
「う~」
ねねが、幼児化している。
「それで、国友さん今日は?」
とりあえず、話題をそらそう。
「ああ、うちの事?別に気にせんでええよ!」
左手を口元にやりながら、右手をぶんぶん左右に振る。
お構いなく。といったところであろうか?
正直助かった!
「そうですか?」
とりあえずホッとした。
ついて来られてはかなわんからな。
「空気やと思っといて」
「「どっひゃ~」」
ついて来る気満々ですよ! この人。
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三成のまち
長浜で武将といえば、『石田三成』 だそうだ。
(ちなみに豊臣秀吉は、『太閤さん』 らしい。)
「長浜の人は、三成が好きなのかな?」
俺の、素朴な疑問だ。
「やはり、忠誠心が違うよね。三成様が、忠誠心1番よ!」
すかさず、国友さんが反応してくれた。
「……」
「駅前にも像があったでしょ」
「ああ、あれね」
もちろん覚えている。なんてったって、俺とねねの、出会いの場所でもある。
駅のガード下をくぐり、ラパンは、信号を左折。
これから、駅前通りを東に向かう。
正面には、もはや見慣れた『伊吹山』が見える。
「見えてきた、この像!」
大げさに指を指す、国友さん。
右手には、『三献の茶という有名な逸話』をモチーフにした銅像がある。
だから、わかってますって。
さて、今から目指すは、観音寺と石田町。
そのままズバリ、石田町である。
石田三成が、生まれ育った町だそうだ。
聞いた話によると、国友さんは石田三成の大ファンらしい。
ねねとも話が合うんだろうな。
とはいえ、ねねはさっきから魂が抜けてしまったかの様におとなしい。
会話には加わらず、黙々とクルマを走らせている。
さすがに国友さんも、少しばかり気まずいようだ。
俺は一体、どうすればいいのだろう?
……そうだ!!
「はい、あ~ん」
ねねの為に買っておいたミルキーを取り出す。
彼女が甘いものに目がないのは、リサーチ済みである。
袋を開け、包み紙を解き、彼女の口に放り込んだ。
「む~」
顔を赤らめほっぺたを膨らませているが、ねねの表情が少しばかり和らいだ。
運転に集中していますよ。とばかり、こちらを無視するねね。
「あ~あついあつい、今日は暑いな~」
国友さん、あなたどんだけベタなんですか?
小学生ですか、そうですか。
車内は、ふたたび別の意味で居心地の悪い空間に戻ってしまった。
(ああ、あつい)
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『観音寺』
しばらく進むと、山のどてっ腹をつらぬく立派なトンネルが見えてきた。
税金の無駄遣いでは? と、思ったのは内緒である。
トンネルを抜けると、さらに緑が濃くなった気がする。
山間の里の奥に、お目当てがある。
『大原観音寺』、秀吉と三成との出会いの地として有名だ。
三献の茶の逸話がある、有名なお寺である。
古色蒼然として、静かなたたずまいを見せる古刹だ。
静かな雰囲気とは真逆に、ここでは蝉の鳴き声が耳が痛いくらいに聞こえる。
まあ、夏休みだもんな。
池には、かえるが悠々と泳いでいる。
「残念ながら、ここは長浜じゃないんだよね」
いささか不満そうな、ねね。
彼女によると、ギリ米原市だそうだ。
「いいじゃん別に!」
と、国友さんが興味なさそうに、なだめる。
俺も、由美子さんに同意見である。
「観音寺は、長浜に編入するべきよ」
ねねが、超個人的な意見をのべた。
「それは、やり過ぎでしょ!!」
すかさず、突っ込む国友さん。
いいコンビだ。
うんうん、俺もかなり強引な意見だと思う。
「いいじゃん別に~ぃ! 長浜の人は皆そう思っているわよ!!」
ねねが愚痴る。
放っておいたら、宝くじが当たりしだい土地を買い占めて長浜に献上しそうだ。
まあ、長浜の市街地からの距離は、小谷城よりもかなり近いからな。
気持ちは、判らんでもない。
平成の大合併が失敗だったといわれるのは、こういう所なんだろうな?
ちなみに。
境界線は、すぐそばに見える山の付近であるらしい。
「直線であと300m長浜に近かったらなぁ~」
(国土地理院地図で計測済みらしい。)
「近っ!」
余談ではあるが。境界線のある山のあたりが、『横山城』だそうだ。
横山城って、昨日読んだ太閤記に載っていた。
物語りに出てくる場所が見れるなんて。
◯◯が良く言っている聖地巡礼みたいだな。
昔も今も変わらないって事かな?
古びた池を横目に、山門をくぐり抜ける。
お寺では、お茶をいただいた。
玉露と抹茶のブレンドだそうで、風味が良くとても美味しかった。
国友さんがシャレでお替りをしようとするのを、ねねが必死になって止めていた。
もしかして、2杯目3杯目とだんだん熱くなるのかな?
そういえば、いささかぬるかったような気がする。
いかん俺まで、興味が出てきた。
5杯目あたり沸騰していたりして、ぐつぐつ煮えたぎるお茶を想像してしまった。
暴走しそうな心を鎮め、お寺を後にした。
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『石田三成会館』
駐車場には、すでに 『みつなりタクシー』 が止まっていた。
きっと、コアなファンが訪れているのだろう。
国友さんは、大喜びである。
館内には様々な資料があって興味深かった。
いまなお、地元の人から敬愛されているのが伝わってくる。
とくに目を引いたのが……
『大一大万大吉』(だいいちだいまんだいきち)
「万民が一人のため、一人が万民のために尽くせば太平の世が訪れる」だそうだ。
(まるでラグビーの言葉「みんなは一人のために、一人はみんなのために」のようだな。)
「いい言葉だな」
石田三成は、良い領主だったに違いない。
関ヶ原で負けなければ、豊臣秀吉と肩を並べる名声だったであろう。
総ては、結果次第、勝てば官軍とはいえ。
敗者目線で歴史を見ると、少々虚しく感じる。
ねねによると。
彼は、関ヶ原の敗軍の将であるだけに故意に貶められたそうだ。
石田家先祖代々のお墓すら、打ち壊されたらしい。
むごいな。
歴史を正当に評価できない時点で、徳川は三流であるといえる。
まあ狸だしな。
(意外にも水戸藩では、きちんとして評価ができている。)
江戸時代は、三成のことをまともに口にできなかったらしい。
陰で、ひっそりと供養していたそうだ。
ねねに話を振ろうと、俺の知っている三成の情報を口にした。
「石田三成といえば、西軍の総大将だね」
「西軍の総大将は、毛利輝元よ! あの役立たずが……まあ初めから員数外、だったんだろうけれどね」
「うっ」
「明治になって外国から来た軍人が布陣を見て、西軍の勝利といったんだよね。さすが三成さま」
国友さんがフォローしてくれた。
「裏切り者さえいなければねぇ。小早川秀秋、脇坂安治、赤座直保、小川祐忠、朽木元綱。覚えておきなさい、卑劣な行いは末代までその汚名が伝えられるの」
「「……」」
ねねの三成愛は深い、深すぎるっ!!
ねねに、賤ヶ岳の七本槍を聞いても、六人しか出てこない。
ただし、『 脇坂 』は除くだそうだ。
「福島正則や山内一豊も、狸親父の東軍について憎いけど、裏切り者よりはまだマシよ」
「そ、そうだね」
「三成くん可哀想!!」
「でも、大谷吉継が『義』を通したわ」
「みつ×よし、三成の強気攻めね」
「どうでもいいけれど、由美子腐っているわょ」
「……(せめて、擬態しろよ!)」
女同士の難しい話になったので、俺は沈黙した。
資料を興味深く拝見させてもらい、会館を後にした。
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「ばいび~」
三成の話に堪能したのか、国友さんは長浜の市街地までくると途中下車した。
元気に手を振りながら、去っていく。
「このすぐ近くが彼女のお家よ」
いささか、げんなりした様子の、ねねである。
「家まで送ったんだね」
(は~やれやれ。)
残りの時間、長浜の町を散策することにした。
観光マップを片手に、まだ行っていないところを廻るとしよう。
※石田会館(通称:三成会館)は、三成ファン必見。マジオススメです!
三成が嫌いな方は、来なくてけっこうです。
好きになってから来てください。
会館以外にも神社や供養塔がございます。
ぜひ、お参りください。
『長浜ものがたり』 歴史探訪、石田三成編 おしまい
追伸
島左近を4万石のうち、3万9千4百90石で、召し抱える三成って見てみたいですか?
(ちなみに500石は、大家さんの渡辺勘兵衛の取り分です。)
島左近に4万石全て渡そうとした剛毅なおとこ、その名は三成。
※長浜の人は、『観音寺』が長浜にあると思っております。
ですから、『長浜に編入すべし』と言うねねの意見は、フィクションです。
ひさまさも、つい最近になって知りました。 驚愕の事実です。
米原もいい所ですよ~。
観音寺にまで来たら、三島池に寄るのがオススメです。
感想ないですかね~。
戦国編もおたのしみに。
そうそう、石田三成祭2016は、11月6日だそうです。
講演会もあります。