いち
とあるカフェに、冴えない男が入ってきた。男の名は鈴木亮という。亮は長い前髪が特徴的で、似合わないメガネを掛けている。セーターにジャンパーという厚着をしていても、痩せているのがよくわかる。
前髪から覗く目をキョロキョロと動かして、人を探しているよだ。どうやら、待ち合わせをしているらしい。その待ち合わせの相手を見つけたのか早足でテーブルに向かった。
「五百合...
ごめん、遅刻して...」
亮に五百合と呼ばれた女は、芸能人なのではないかと思う程顔が綺麗で、スタイルが良い。小さい顔に大きな瞳をしていて、ショートカットが良く似合う。
「ううん、急に呼び出したのは私だから」
誰がみても、2人には接点があるように見えなかった。
「その...話っていうのは?」
亮が、か細い声で訪ねる。
「急に、なんだけどさ...」
五百合が気まずそうな顔をする。
「あのさ...、私のこと本当に好き?
なんか亮くん、いつも優しいけど、1回も意見なんて言ってくれないし、恋人じゃなくてまるで友達みたいだし...
なんだか、私だけ浮かれてるみたいで...
だからさ、別れない?
...
ごめん自己中すぎて...
私から無理矢理告白しておいて...」
五百合は泣くのを必死にこらえていたようだが、糸が切れたように涙が溢れ出してきた。
「えっ、ちょっ...」
亮は、五百合の普段見慣れない取り乱しように驚いてオロオロし始めた。
「ご、ごめん、僕そういうの気付けなくて...」
2人の間に重い沈黙が流れる。
「ごめん...」
五百合はこの沈黙に耐えかねたのか、席を立ち、この場を去った。
残された亮は俯き、しばらくこのカフェに居座っていた。