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「聞いていないのか?俺との婚約のこと。」
思いっきり首を横にふります。突然婚約なんて言われても、なんでこんなことになっているのかわからないし、私のことが嫌いなジークリオン様がなぜ私との婚約を了承したのかわかりません。混乱しているのでもう『わかりません』しか考えられなくなっています。
そんな私の様子を見たジークリオン様は困ったような様子で、眉間にいつものようにシワを作ってしまいました。
--- ああ、残念。もう少し笑顔が見たかったな。
「残念だったな。俺みたいなのが相手で。君には申し訳ないが婚約に関してはもう決定した事なので撤回はできない。」
「え?なにを・・・。」
とっさになんて言おうか迷っていると、そのまま背を向けてテラスを出て行ってしまいました。
ジークリオン様のことを引き留めようとしましたが、ジークリオン様の歩くスピードが速すぎて追いつきません。もたもたしているうちにジークリオン様は帰られてしまいました。
いつもなら必ずいるハンス兄様がいなかったことも、突然の婚約のことも、とにかくどういうことなのか知りたくてお父様の執務室へと急ぎます。
「お父様!どういうことなのかきちんと説明なさってください!」
勢いよく執務室の扉を開けて中に踏み込むと、中にはびっくりしたお父様とハンス兄様、冷静な執事のロイドがいました。
「「ジークリオン(くん)はどうした?」」
お父様とハンス兄様が同時に話します。
これはもう言い逃れはできませんよ。私とジークリオン様をわざと二人きりにしましたね!!
私が何で怒っているのかわからないようで、二人とも困惑の表情を浮かべています。
「ジークリオン君はどうしたんだい?」
「帰られましたわ。」
「帰った?ここに寄らずにか?」
「ええ。婚約は撤回できないっておっしゃって、そのまま帰られました。」
ハンス兄様はチッ!と、舌打ちして怒りの表情になりましたが、先に説明してください!
お父様も怒ったような表情ですが、私の方が怒っているんですのよ!!
「婚約って何ですの?」
「アイゼンバルー家とフリューゲルス家の昔からの約束なんだもん。」
「せ つ め い お ね が い し ま す 。 」
私が本気で怒っているのが分かってきたのか、青ざめて見える二人に丁寧に説明をいていただけるようにお願いをしましたところ、何故かお父様もハンス兄様も正座をしてちゃんと説明していただけました。
「ひいおじい様のころから二家の間に男児と女児が生まれたら婚姻しようねって言ってたのに、両家ともにおじい様、お父様と二代続けて男児しか生まれずにいたと。」
「「はい。」」
「そしてアイゼンバルー家にジークリオン様がお生まれになって、フリューゲルス家に兄様二人が生まれ、今代も約束が果たせなかったと思っていた時にわたくしが生まれたと。」
「「はい。」」
「それで、やっと約束が果たせる、と、今回の婚約になった。ということでよろしいのですか?」
「「はい。」」
「あの、リリアン。お父様、足がそろそろ痛くなってきたから崩した・・・りはしないです。」
「ワタシはリリーを絶対に怒らせないようにスル・・・」
何ですか、シルフィ? もっと大きい声で話してください。
「リリアンちゃん、どうしたのかしら?あんまり淑女らしくないわよ?」
ロイドが呼びに行ったのか、お母様が執務室に入ってきました。
さっと部屋の中を見回して状況が分かったのか、小さくため息をついて私に向かって言いました。
「このままじゃ話が終わらないわね。私のお部屋へいらっしゃい。」