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お待たせいたしました。よろしくお願いします。
お母様に『マリアンナになりなさい』と言われ、私のいない間に何かあったのか、と、シルフィ様の方を見ましたが、シルフィ様も何のことか分かっていないようで、困惑顔のまま私を見ています。
「待ってください、お母様。なぜ、今からマリアンナにならないといけないのですか? 」
うんうん、と頷いているシルフィ様の横で、侍女さんたちがてきぱきとマリアンナに変身する準備をしています。お母様は肝心なことを隠したまま色々と強引に進めていきますから、そのまま流されてしまわないように、ここできちんと聞いておかないといけません。
「ええとね、フリューゲルス家にリリアンが籠っているという事が大事なの。」
「・・・お母様、その言葉ではいろいろと説明が足りません。」
「あら? そうかしら? 」
「はい。『マリアンナ』に変装してリリアンが籠っている間、『マリアンナ』は何をすればいいのですか? 」
「そうね、求婚者たちを見極めることかしら。」
どんどんふるい落としてちょうだいね。あ、お母様は細マッチョが好みよ~。お母様が扇を広げながらおほほほほ~と、笑っています。えーと、きゅうこんしゃ、ですか?
急に言われた『きゅうこんしゃ』の意味が分からないまま『マリアンナ』に着々と変装しています。あら? 今回の衣装は侍女さんの制服ですのね。我が家の侍女さんたちの制服はかわいらしいと評判の服なのです。深みのある濡羽色のくるぶしまであるワンピースの上に、白いウエストエプロンを付けます。足元の部分と袖口の部分にお母様特選のレースが使われており、全体はシンプルなのにポイントでかわいらしく飾られています。少しパニエでスカートを膨らませて頭にホワイトブリムをのせて、胸元に白色の小ぶりのリボンを結べば完成です。
「さあ、マリアンナ。あなたはリリアン付きの侍女として求婚者たちをふるい落としてね。」
「お母様、説明がまだ足りません。『きゅうこんしゃ』とは、何のことですか? 『ふるい落とす』とはどういうことですの? 」
「そうだぞ、カトリーナ。リリーに害があるならほっとくわけにいかナイ。ワタシがちょいと吹き飛ばして・・・」
「あら? それもいい考えですわ、シルフィ様。リリアンが困っていたら是非ともお願いします。」
にっこりと笑いあうお母様とシルフィ様。そんなことになったらシルフィ様の事が広まってしまいます。
「ああ、その辺は宰相様が上手くやってくれると思うわ。」
そうなんですか?
「だってね、この騒ぎを起こしたのは宰相様なのよ。もう! 予定が全部狂ってしまったわ。」
怒りだしたお母様に追い出されて、家令さんに案内された場所は来賓室でした。
来賓室は訪れたお客様を案内して、お話を聞いたりおもてなしお部屋なのですが、何故かもう一つの来賓室がざわざわと騒がしいことになっています。私の目線に気づいた家令さんは、少し困った顔で微笑みながら言いました。
「あまりにたくさんの方がいらしたのでこちらを控室にさせていただきました。」
「たくさんお客様がいらしたのですか? この時間に? 」
「はい。さようでございます。お昼あたりからだんだんと増えてきまして、お帰りにならずにずっとリリアン様を待っていらっしゃっております。」
なにそれ、少し怖いのですけども・・・。
少し怖がっているのがわかったのか、安心させるように家令さんは続けて言います。
「大丈夫ですよ。私が先にお話をしてから『マリアンナ』に登場していただきます。常に私ともう一人の護衛がいますので安心してふるい落としてくださいませ。」
やっぱり我が家の家令だけあって、言っていることがお母様と同じです。それで私の心が落ち着いてくるのも、やはりフリューゲルスの人間なのだからでしょうか。それに、家令さんにここまで言っていただいているのに怖じ気ついているのも駄目ですわね。両手を握りしめて、心を決めます。
「わかりました。では、よろしくお願いしますね。」
足を一歩前に踏み出します。いざ、来賓室の中へ!
コンコン
家令さんのノックの音が来賓室に響きます。そのまま扉を開けるとそれまでささやかれていた音も止み、颯爽と部屋に踏み込んだ家令さんに部屋の中にいた人たちの意識が集中します。
「皆さま、お待たせいたしました。残念ながらリリアン様は体調が思わしくなく、今現在、お部屋の方でお休みされていらっしゃいます。今回の面会は出来かねます、と言付かってまいりました。」
ここまで家令さんのお話を真剣に聞いていらっしゃった皆様は、落胆のため息や、文句を口に出しました。
今、文句を吐き捨てたのはあの方と、こちらのお二方ですね。顔が余裕なさ気の三人はしきりに周りをきょろきょろと見まわしています。少し嫌な感じですね。ほかの方々も予定が狂った、や、家名を振りかざして不快な発言を繰り返し怒鳴っている方もいます。
「それで、リリアン様が、わざわざこちらにいらしていただいたのに申し訳ない、と、おっしゃりまして、こちらのリリアン様おつきの侍女と、従僕を派遣なさいました。」
従僕? そんな方いらしたかしら? と、振り返ってみると、そこにはマリアンナと同じ黒髪の男性がすぐ側に立っていました。その従僕さんは私が見ていることに気付いてニヤリと笑います。
「 !! 」
あれはリンゼイ兄様!! 特徴的な赤髪を隠して茶色の髪のかつらをつけているだけでこんなに印象が変わるとは・・・。
「失礼いたします。私が紹介されましたリリアン様付き、従僕兼護衛のリンディーと申します。こちらのマリアンナとともに皆様の様子をリリアン様に包み隠さず、微に入り、細に入り、ご報告させていただきたく思います。」
リンゼイ兄様が眼光鋭く態度の悪い方々を一瞥します。そこにはいつものチャラ騎士の面影はなく、流石は炎の騎士だという気迫がみえます。かっこいいですわ! リンゼイ兄様。
「それと、申し訳ありませんが、マリアンナは私の恋人ですので、どうか戯れに手をお出しされないようお願いいたします。もし、どうしても、と、おっしゃる方がいらっしゃるようでしたらフリューゲルス伯爵を立会人にしての決闘を申し込ませていただきますのでよろしくお願いいたします。」
全然お願いする態度ではない態度で、部屋の中にいる方々に平等に、まんべんなくにらみを利かせ、目が笑ってない笑顔で言い切るリンゼイ兄様・・・。
やっぱり・・・、なんだか・・・。さっきの褒めたのは無しにします。




