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「私にはね、大事な人がいるのです。心に思い描く度に暖かくなるような、くすぐったいような気持ちにさせてくれる。」
おだやかな表情を浮かべて、今まで見たことのない優しい雰囲気で話す彼は、すぐ横にいる私の方なんか見ずに話続ける。
「ふとした時に思い出して、似合いそうだとか、好きそうだとか、そんな瞬間があの人につながっている気がして。そんな時間が私の幸せな時間です。」
そんな風に言われてしまってはもうここから入ってくるなと線を引かれたようで、もうこの人には近づいてはいけないのだと言われたようで・・・。
やっぱり、この人とは結婚できないのかと思う。彼の思い人は婚約者の私ではないのだから。
始まりは6年前。私が10歳の時、3つ上のハンス兄様につれられてきたジークリオン様は私を見て眉間にシワを寄せた。大体みな私を見て一言目には褒め言葉が出るのでそんな態度をとられたことがなかった。
---この人、なんなのかしら。いくらハンス兄様の友人だからって失礼にもほどがあるわ。
「おいで、リリアン。友人を紹介するよ。ジークリオンだよ。」
「ジークリオンです。よろしく。」
「リリアンです。よろしくお願いします。」
「ああ~僕のお姫様、もっとよく顔を見せておくれ。」
「ハンス兄様、お客様の前ですよ。おやめになってください。」
「何をツンツンしてるんだい?おいで。リリアンの好きなお菓子をお土産に買ってきたよ。機嫌を直しておくれ。」
「お菓子ですか?ありがとう~ハンス兄様大好き!」
うれしさのあまりにハンス兄様ににっこりと笑って飛びついてしまった。そんな様子を見たジークリオン様は顔の表情をひどく歪めて鼻で笑った。
「淑女のすることではないな。」
「いいんだよ。リリアンは可愛いんだから。」
その頃の私は父と母、二人の兄や周りの人たちに甘やかされ、ちやほやされていた私には初めて会ったちやほやしない人だった。
それからよく我が家に訪れるようになったジークリオン様はいつも難しい顔をしていた。
顔を合わせるたびに眉間に深くなってゆくしわを見るとこちらも段々と嫌われていることが分かってくる。
なるべく顔を合わせない方が互いに気まずい思いをしなくていいだろうと思って部屋に閉じこもっていようとするのだが、ついついハンス兄様の甘い言葉につられてしまう。
「リリアン、僕の妖精さん。いい天気だよ。テラスで一緒にお茶しよう。」
「ええ、せっかくのお誘いですが、今日はやめ・・・」
「君の好きな『ベアール菓子店』の蜜がけ菓子を買ってきたよ。」
「~~~。ご一緒いたします。」
にっこりと笑うハンス兄様と蜜がけ菓子はとても素敵だけれど、テラスに向かうとそこには眉間にしわのジークリオン様がいて・・・。
「ごきげんよう。ジークリオン様。」
「ああ。」
やっぱり盛り上がることなく話しているのはもっぱらお兄様と私だけ。ただ、その日はいつもと違っていた。
置物みたいなジークリオン様が一言だけ言葉を発したのだ。
「そのドレス、きれいな色だな。」
初めて言われた非難以外の言葉。何だかその言葉が忘れられなくてその日から部屋に紺色のものが増えていった。
それから3年たったある日、訪問しているジークリオン様を避けるために敷地内にある森の小さな池のほとりで私は読書をしていた。もうそろそろ家庭教師の先生がいらっしゃる時間だと思い本にしおりを挟もうとした時だった。
「きゃっ!」
急に強い風が吹いてしおりが飛ばされてしまった。普通のしおりならそのままあきらめるのだが、飛ばされてしまったしおりはジークリオン様に唯一褒めて?いただいたドレスのリボンで作ったしおりだ。
池に落ちていないかと身を乗り出して覗くと池の真ん中あたりに漂っているしおりを見つけた。木の根元に落ちている棒をつかんで手繰り寄せようとしたがうまくいかない。仕方ないか、と、じゃぶじゃぶ池の中に入っていくと波紋でまたしおりが池の中央へと動いていく。
ひざ下あたりまで水につかって、もう少しで届く、というあたりになったとき、がくんと足元の感触が消え、一気に頭まで沈んでしまった。
---しまった!中央の深い部分に・・・
ぶくぶくと自分の吹いた泡で視界が悪くなる。もがけばもがくほどドレスがまとわりついて動けない。
息が苦しくなってきた。酸素が足りないせいで幻覚が見えてきた。眉間にこれでもかとしわを寄せているジークリオン様だ。
---幻覚でも眉間のしわがあるんですね。ふふ。おかしいわ。
思わずジークリオン様の見える方へ手を伸ばそうとして・・・
ふわっとした感覚とともに意識が途絶えた。
ストックが切れるまで3日おきの投稿になります。
よろしくお願いします。




