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縮まるとき

 居候生活を始めてからまだ二日しか経っていないミナは、やっぱりまだ慣れないのか、普段よりも早く目が覚めてしまった。ここ最近になって色々なことが立て続けにあったせいもあるのだろうが、それよりもなによりも一番の原因は、やはり知らない二人との共同生活にあるのだろう。

 日が昇ったばかりという時間に起きたミナは、昨日と同じようにキッチンへと向かい、昨日の夕方に買っておいた食材で自分とカズの分の朝食を用意した。用意といってもただ食パンを焼いて、オムレツを一つずつ作っただけである。それ以上の料理技術は残念ながら持ち合わせていない。

 ちょうど朝食が完成したタイミングで、カズが部屋の扉を開けて出てきた。


「あ、おはよ」

「……あぁ」


 挨拶もそこそこにキッチンへとやってきたカズは、ミナが作っていた朝食をチラリと見て、冷蔵庫を開けて、中からお茶のペットボトルを取り出して、コップに注いでそれを飲んだ。

 ミナは何か言われるかと思って少しドキドキしたが、結局何も言われずにキッチンから離れていったカズを見て、少し残念に思った。しかしここで諦めてはいけないと思い、その背中に声をかける。


「朝ごはん作ったんだけど、食べる?」


 カズは何か言いたそうに口を開いたが、そこからは何も発せられず、代わりに小さなため息が漏れた。そして再び開かれた口からは『あぁ』とだけ短い言葉が発せられた。

 ミナは正直少し嬉しかった。

 リビングのテーブルの上に二人分の朝食を並べ、並んでソファに座った。ミナが『いただきます』と言うと、隣のカズもそう言って朝食を食べ始めた。


「…………」

「……なんだよ」


 横顔をじっと見られていたカズはミナに尋ねた。


「おいしい?」

「アホか。食パンに美味いもマズイもないだろ」

「そっか。よかった」

「変なやつだな」


 それから二人でテレビでニュースを見ながら黙々と食べ続け、早食いなのかパパッとカズのほうが食べ終わってしまった。


「ごちそうさん」

「あ、足りた? まだ食パンあるけど」

「……はぁ。そんなに気を使うなって言ったろ」

「……気なんて使ってないし」


 カズが食後のタバコに火をつけた。

 それを見ていたミナは、自分の分の食パンを食べ終わったタイミングで話しかけた。


「食べてくれないかと思った」

「もったいないだろ」

「まぁそうかもしれないけどさ。私カズに嫌われてると思ってたからさ」

「……別に嫌いってほどではないな」

「なんか私に対して当たり強いし、やっぱり迷惑だったかなぁって思うじゃん」

「どっちかと言えば迷惑だけどな。ただヒロが良いっていうんだからいいんじゃねぇか? お前の面倒を見るのはヒロの役目だからな」


 フーッと白い煙を天井に向かって吐き出す。


「そういえばヒロさんとカズってどういう関係なわけ?」

「企業秘密」

「言えないような関係?」

「そういう意味深な発言はやめろ」

「じゃあどんな関係?」

「ヒロにでも聞いてみたらいいだろ。俺に聞くよりももっと正確に教えてくれるぞ」

「今はカズと話してるんだから、カズから聞きたい」


 妙に押しの強いミナに、カズは深いため息をついた。

 隠す必要はないと思ったのか、カズは吸っていたタバコを灰皿でもみ消した。


「あいつはすごいやつだったんだ」

「ほぉ」

「俺にはよくわからない世界だから詳しくはわかんねぇけどよ、言葉くらいなら聞いたことあるだろ。ハッカーって」

「さすがに知ってるよ。ハッキングする人でしょ?」

「ハッキングをどうやるかとかまではわかんねぇだろ?」

「うん」

「いろんなやり方があるみたいなんだけどよ、あいつの場合はそのハッキング対策で用意されてるプログラムに侵入して、それを中和して無効化しちまうんだ」

「どういうこと?」

「戦争とかで槍兵の軍勢と槍兵の軍勢を戦わせるんじゃなくて、槍兵の軍勢に一人で交渉に行ってみんなと仲良くなるって感じだな」

「すごいじゃん」

「だからすげぇんだよ。それを機械相手にやるんだからすげぇんだよ」

「どうやってるの?」

「だからそこは俺の管轄外だ」

「ふーん。で、それと二人の関係って何?」


 カズは新しくタバコに火をつける。


「それだけならただの『遊び』ってことで済ませられたんだ。ただ相手が悪かった」

「もしかしてヤクザとかにやっちゃった感じ?」

「いや、ウチにだよ」

「えっ、警察?」

「あぁ」

「なんで?」

「そこなんだよ。警察だって無能じゃない。もちろんいろいろあったがヒロの居場所を突き止めたさ。その時になんでハッキングしたかを尋ねるだろ? そしたらなんて答えたと思うよ」

「俺は悪いことはしてない、とか?」

「『これは水晶玉の導きだ』だってよ」

「うっそだー!」

「だから警察も『こいつは頭がおかしい』って判断をしたわけ」

「その頃から水晶玉に導かれてたってわけ?」

「いつからかは知らんけどよ、一応逮捕されたわけだが、警察のセキュリティシステムが無効化されたなんてニュースは間違っても世間に広められない。極秘裏にヒロを確保した」

「もしかしてここって刑務所かなんかだったりするの?」

「そんな馬鹿な。ここは俺の家であってあいつの家だ」

「じゃあなんでそんなヒロさんと一緒に住んでるの?」

「……もったいねぇだろ」

「朝ごはんの話?」

「多分俺もお人よしなんだろうな。そんな技術を持ってるなら警察で活躍すればいいのにとその時の俺は思ったんだ。もちろん警察だってそういう脅威から守る手立ては必要だしな。それで釈放されたヒロに声をかけたんだ。そしたらなんだ。その、懐かれちまったわけだ」

「懐かれた?」

「そ。気分屋というかなんというか、水晶玉の導きとやらで俺に協力してくれるってなったわけ」

「また水晶玉」

「あいつのブレインは水晶玉なんだよ。だから水晶玉の導きとやらには従うし、それに対しても忠実なんだ」

「へぇー。二人にそんな過去があったなんて」

「面白いやつだろ?」


 そう話すカズは、どこか楽しそうだった。


「すごい人だったっていうのはわかった」

「ま、そんなこんなで一緒に暮らしてるってわけだ。水晶玉の導きってやつだな」

「水晶玉ってそんなにすごいんだね」

「俺は信じてないけどな。おっと、こんな時間か」


 時計は昨日カズが家を出た時間の二十分前をさしていた。立ち上がったカズは身支度を整え、家を出る準備をした。そしてカズは準備を終えるとそそくさと玄関へと向かう。


「ありがとね」

「朝飯の礼だ」

「じゃあ明日も朝ごはん作ったらいろいろ話してくれる?」

「それは気分と質問次第だな」

「わかった。考えとく」


 靴を履き、カズは立ち上がってミナを見る。


「まぁなんだ。そこまでうるさく言うつもりはねぇけどよ。俺も警察っていう立場なんだ。だから一応言わせてもらうが、学校は行けよ」

「……うん」

「行ってなかったら明日の朝飯は食べねぇからな」

「カズってお父さんみたい」

「うるせぇ。じゃあな」

「うん。いってらっしゃい」

「お前もな」


 バタンと玄関が閉まり、ミナはジッとその扉を見ていたが、何かを決意したように一つ頷くと、自分の部屋へと入って行った。



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