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流れるとき

 駅はいつものように人の流れを作っていた。昼を少しだけ過ぎた駅周辺は、会社の昼休みで外へ食べに出ている人。コンビニで買った弁当やおにぎりをベンチに座って食べている人。あるいは旅行のツアー客やガイド。あるいは休日なのか、買い物をしている人。様々な人達が行きかっていた。

 そんな人の流れの中に、ミナとヒロも含まれていた。

 二人が向かっていたのは、駅構内にあるコインロッカーが集まっている場所。その一つの前に立つと、ミナはポケットから財布を取り出して、ロッカーの料金分の小銭を入れ、鍵を回して開いた。

 中にはドラムバッグが一つ。それを取り出したミナは、後ろに立っていたヒロへと向き直る。


「これ、私の荷物」

「昨日取りに来ればよかったではないか」

「なんか言うタイミング逃がしちゃって」

「そうか。用事はそれだけか?」

「うん。大したことなくてごめんね」

「いや、構わない」


 互いに表情を変えずにほぼ真顔で喋っている。周りからはどのように見えているかはわからないが、気にするものなどいなかった。

 そしてどちらともなく元来た道を歩き出した。

 が、すぐ横にあった売店の前を通り過ぎるとき、ミナがピタリと足を止めた。そのミナに気が付くと、ヒロも一歩差で足を止めた。

 ジッと売店を見るミナ。

 そんなミナにヒロは声をかけた。


「何か欲しいものでもあったか?」

「…………」


 ミナはその問いには答えずに、売店を無言で見ていた。

 ヒロは不思議に思い、ミナの顔を覗き込んで視線の先を追った。ミナの視線は売店の手前に置かれている新聞に向けられていた。

 どの新聞を見ているかまではわからないが、今日のニュースでどんな内容のことが書かれているかくらいはヒロはわかる。ヒロは新聞の電子版を、朝起きてから読むことを日課としている。紙面で読むことは少ないが、今日のニュースの内容くらいならわかる。その程度の知識はあった。そしてどの新聞も一面を飾っているニュースはほぼ同じだった。大きな文字で『銀行頭取、ついに逮捕状!』と書かれていた。

 そのニュースは今世間を騒がせているニュースで、銀行の顧客情報を暴力団などに横流ししていたという内容のものだった。その銀行の頭取が横流しの指示をしていたのではないかと噂されていたが、ついに昨日の夜のニュースで、警察が逮捕に踏み切ったことが明かされた。スポーツ新聞を除く各社の新聞の一面を飾るには十分すぎる内容の事件となっていた。

 ヒロもミナがそのニュースに興味があるのかと考えたが、もしかすると好きなスポーツのチームがスポーツ新聞に載っていただけかもしれない。とりあえずそう考えておくことにした。


「ミナちゃん」


 ミナはヒロに呼ばれ、ハッとしたように我に返った。

 ヒロは先ほどの思考を頭の片隅に置くことにして、努めて普通に尋ねる。


「何か欲しいものでもあった?」

「い、いや、なんでもない。ごめんね。行こ」


 スタスタと歩き出したミナの背中を少しだけ見たヒロは、何も言わずにその背中の後に続いた。

キリよく書いたら短くなったので定期外更新です。

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