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家に入るとき

「着いたぞ」

「おー。結構いいとこに住んでるんだね」

「まぁな。いい大人だからな」

「ふーん」


 カズの運転する車で到着したのは、見上げなければ最上階が見えない程高いマンションだった。もうビルと言ってもあながち間違いではないだろう。

 車を降りた三人は、エレベーターを使って上へと上がっていく。階数表示は27階を表示していた。


「やっぱり高いねぇ」


 廊下の窓からは、街の夜景が一望できる。それがこのマンションのウリと言っても良い。

 そして1フロアに数か所しか見当たらない扉の一つの前に立ち、カズは鍵を使って扉を開けて中に入って行く。それに続くようにヒロが入り、ミナは『おじゃまします』と言いながら入って行く。


「とりあえずそこらへんに座っとけ」


 そう言いキッチンの方へと向かうカズ。ヒロはというと、帰宅するなり自分の部屋と思しき扉を開けて入って行ってしまった。

 とりあえずリビングのソファに腰を下ろしたミナは辺りを見回した。

 大きなテレビに観葉植物、本棚に並べられた大小サイズがある本、自分にはよくわからない絵画、テーブルに置かれた謎の置物等々。父親以外との関わりが無いミナにとっては、見るものすべてが新鮮な部屋だった。

 少しするとカズがマグカップを持って戻ってきた。


「あんまりキョロキョロすんな」

「意外と綺麗にしてるんだね」

「そのへんもあんまり見るな」

「これからここに住むことになるんだからいいじゃない」

「……住むつもりなのか」


 カズは目頭を押さえた。

 持っていたマグカップをミナに渡し、自分はタバコに火をつけて、テーブルの上にあった灰皿を片手に持ちながら一服し始めた。

 フーっと白い煙を口から吐いてから、ミナに話しかけた。


「んで、お前これからどうすんだよ。ヒロは泊めてやれって言ってたから連れてきたけどよ」

「お前じゃなくてミナ。ヒロさんは?」

「あいつは仕事の確認だよ。帰って来るといつもこんな感じだ」

「仕事? 社長さんかなんかなの?」

「そんなに気になるなら見て来いよ」

「勝手に見に行って怒られない?」

「怒んねぇって。ヒロが怒ったところなんて見たことねぇ」


 顎で先ほどヒロが入って行った扉へ促すと、ミナは立ち上がってスタスタと扉の前に立ち、カズと扉を交互に見た。『ホントに入っていいのか』と言うサインだということを悟ったカズは、灰皿にタバコを置いて、灰皿もテーブルに置いてミナと扉の間に割って入った。


「ヒロ、入るぞ」


 そう言って扉を開くと、中は窓の光ではない光のみで青白く照らされていた。

 部屋の中には4つのディスプレイと、それを見ながらなにやらキーボードとマウスで作業をしているヒロの背中があった。脇にはベッド、反対には本棚があったが、中が薄暗いのでどんな本かまではわからなかった。


「……何してるの?」


 ミナはカズを見て尋ねた。


「仕事」

「仕事?」

「あいつは株とかそんな感じのやつをやってんの」

「デイトレーダーってやつ?」

「まぁそんなやつ」


 背後に立つ二人に気づいているのかいないのか、ヒロは気にせずディスプレイとディスプレイとディスプレイを見ながらキーボードをカチャカチャと叩いていた。

 そんな様子を見ていたミナだが、ディスプレイに映っている数字やらがどういう意味なのかが分からず、結果何をしているのかわからなかった。


「カズはわかる?」

「わからん。わかってたらこーゆー生活もいいかなって思うけど、俺はずっと画面とにらめっこはできない」

「できなさそうだもんね」

「おい。そこは嘘でも否定してやれ」

「正直者でごめんね」


 ふんと鼻を鳴らして部屋を出ていくカズ。

 そのまま見ていてもよかったのだが、ミナは意味不明なディスプレイよりもカズについていくことを選んだ。リビングに戻り、新しいタバコに火をつけてソファに座ったカズの隣に腰を下ろした。


「で、ここはヒロさんちなんでしょ? カズさんちもいい大人並の家なの?」


 カズは隣に座ってきたミナと距離を取るように、少しだけ腰を浮かせて少しだけ離れた。


「ここは俺んちでもある」

「……ん?」

「一緒に住んでるんだよ」


 カズの発言に、ミナの中で一つの答えが浮かび上がった。


「あーそーゆーことか。二人は同棲してると」

「断じて違う」

「隠さなくたって」

「違うっつってんだろ。一緒に住んでるだけだ。ルームシェアってやつな」

「いっしょじゃん。同棲となんか違うの?」


 カズはため息と白い煙を吐く。


「全然違うだろ。お前は親と一緒に同棲してるっていうのか? 言わないだろ?」

「それは……言わないかな」

「だろ? 俺もヒロとは付き合ってもないし、これからそういう関係になるつもりもない。互いの邪魔をしないようにしてる……と、俺は思ってるんだけどなぁ」

「お?」

「あいつがどう思ってるかはよくわからん。今日みたいに休日に緊急事態とかいって呼び出すこともあるし、俺の部屋から勝手に本を取っていくなんてことはよくある。本当によくわからんやつだ」


 呆れたような慣れきったような顔でそう言うカズ。ミナから見ると、仲睦まじき事この上ないのだが、本人がどう思っているかは、迷惑そうな口調とその表情からは良く分からなかった。


「まぁなんだ。だからお前もここに住むつもりならあんまり他人の邪魔をしないことだ。そして迷惑なことなら迷惑ってハッキリ言わないと、俺はともかくヒロには伝わらないからな。覚えとけ」


 遠まわしにここに居座ることを許可したカズ。ミナもそれを理解したのか、きちんとお礼を言った。


「これからお世話になります」

「ん」


 短く返事をすると、カズはまた口から白い煙を吐いた。

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