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いただくとき

「いただきまーす」

「はいよ」


 三人は近くのステーキレストランへとやってきた。

 それぞれ頼んだものを前にして、料金を払ってくれるカズにいただきますをしてから食べ始めた。

 普通にステーキを注文したヒロとミナとは違い、カズはホットコーヒーのみ。財布に問題があるのではなく、単純に空腹ではなかった模様。

 パクパクとステーキを食べ始めたミナにカズは話しかけた。


「ところでお前はなんで映画なんて見てたんだ?」

「お前じゃなくてミナだってば。 今どき一人で映画なんて普通でしょ」


 その言葉に先ほどのヒロへの発言が正しかったことを確認しようと隣のヒロを見たが、視線の主は一口目をソースにつけて食べようかどうしようか迷っているところだったので、話しかけるのを控えた。


「まぁそりゃそうだよな」

「もしかしてカズの中では映画は誰かと見に行くものだった?」

「俺は家でレンタルして見る派だからな」

「ふーん」


 たいして興味なさげに相槌を打ってステーキを口へとパクリ。


「あーゆー映画が好きなのか?」

「いや別に? 感動するよって言われてたから見てみたけど、どっかの誰かさんたち程には感動しなかったかな」

「うっ……お、俺は一般人だが、面白かったと思うぞ」

「でしょうね」


 先ほど感動の涙を流していたところを目撃ドキュンされたため、肯定以外の反応ができなかったカズ。そしてミナには適当にあしらわれるカズ。


「あーゆー映画を一人で見るのってどうなのよ。周りなんて子どもだらけだったじゃねぇか」

「まぁそういう映画ですし。でも大人だって好きな人は好きだし見ても害はないんじゃない?」

「……そういうもんなのか」

「そういうもんだよ」


 どこか説得力のあるミナの言葉に、カズは納得させられてしまったようだ。


「私からも質問していい?」

「答えられる範囲ならな」

「二人はどういう関係なわけ?」

「関係って?」

「いや、幼馴染ーとか、仕事の同僚ーって感じの関係」

「知ってどうするんだよ」

「気になっただけ。言いたくないなら別にいいけど」

「私はカズの財布だ」


 黙々と食べていたヒロが割って入ってきた。

 ヒロの言葉にミナがキョトンとする。


「財布? え、もしかしてカズって……ヒモ?」

「アホか。俺はちゃんと働いてるし、自分で稼いでる。こいつの言い方が悪いだけだ」

「でもどうやったら『自分は財布だ』なんて言わせられるのよ」


 ミナの疑いの目がカズを見る。


「知るか。こいつの言い方に問題があるだけだ。いつも水晶玉だなんだって適当なことばっかり言いやがって。お前だって本当は願いなんて叶えられないんだろ?」

「ミナだって言ってんじゃん。願いを叶えるとか、叶えられるなら自分の願いを叶えてるかな」

「ほら見ろ」

「でもあながち間違いじゃないんだよねぇ」

「……あ?」


 ミナはそう言うと、最後のステーキの一切れを口の中へ入れてモグモグとした。カズはミナが再び喋り始めるのを待ち、ヒロもミナの言葉の続きに興味があるようだった。


「なんだっけ。『泣かない少女が泣いたとき、願いが叶う』だっけ。願いが叶うだかなんだかは知らないけど、私泣けないんだよね」

「泣けない?」

「泣けないっていうか、もう一生分泣きつくしたっていうか」

「……なんかあったのか?」


 急にしんみりとした空気が漂い始めた。


「中学生の頃にお母さんが死んじゃって、その時にずっと泣いてたんだ。で、それ以降一切泣けなくなっちゃって……ハハハ」


 どうせ信じてはくれないだろうと思っているのか、冗談っぽく言うミナの表情には、どこか諦めが入っていた。

 しかしカズとヒロの二人は真剣に聞いてくれていたようで、どちらも申し訳なさそうな顔をしていた。


「そうか。なんか変なこと聞いて悪かったな」

「いいよ。もうそこまで気にしてないし」

「母親が亡くなって、それだけ泣いたのに気にならないことなんてあるはずがないだろう。きっと何か問題があるんだ。水晶玉に聞いてみよう」

「やめて!」


 ヒロが水晶玉を覗こうとしたとき、ミナの声が響き渡った。さすがにその声には二人もビビった。


「ど、どうした?」

「あ、いや、ごめん。大きな声出すつもりはなかったんだけど……」

「こいつの水晶玉なんてあんまりあてにならないぞ?」

「そうかもしれないんだけど、なんか見透かされてるみたいで、見られたくないものまで見られちゃう気がして、なんていうか、ちょっと苦手……って感じ?」


 その言葉を聞いたヒロは、自分の横に水晶玉をそっと置いた。


「ヒロさんの商売道具なのにごめんね」

「問題ない。今は商売をしているわけではない」

「ちょっと待て。なんでこいつには『さん』付けで、俺のことは呼び捨てなんだよ」

「え、なに、嫉妬? 醜い」

「おいおいおいおい。俺の方がこいつよりも下ってことかよ」

「ヒロさんのほうが大人っぽいし」

「こいつは真面目バカなだけだっつの」



 そんなこんなで食事も終わり、会計はすべてカズが支払い、礼を言ったヒロのケツにキックを一発かまし、外に出たころには日も沈みかけていた。


「さてと。良い子はそろそろ帰れよ。俺らも帰るから」

「……私、帰りたくない」

「何バカなこと言ってんだ。俺らはお前みたいな子どもに興味はない」

「……熟女派?」

「そういう意味じゃねぇっての」

「じゃあどっちかの家に泊めてくれない?」

「だからよ……」

「わかった。好きなだけ泊まっていくと良い」

「おいってめぇ! ちょっとこっち来い!」


 ヒロを引っ張ってミナから離れ、聞こえないほどの声でカズは言った。


「あんな家出少女をうちに泊めてどうするんだよ」

「家政婦として雇えばいいじゃないか」

「そういう問題じゃなくてだな。もしも捜索願とか出されてみろ? 俺たちがあいつを匿ってたことが知れたら、下手すりゃ犯罪者扱いだぞ?」

「それは問題ない」

「何を根拠に……」

「水晶玉がそう告げている」

「犯罪者にならない、ってか?」

「彼女を泊めろ、と」

「……はぁ」


 ヒロの自信に満ちた言葉に、カズは今日何度目かわからないため息をつき、頭をかきむしる。


「あーっもうわかった! 泊めてやっても構わん。ただし、面倒はお前が見ろよ。俺はあの歳の子どもが苦手だ」

「ふむ。わかった」


 そうヒロに釘を刺すと、ミナの元へと戻った。

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