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ラックライアー  作者: 魔桜
03
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luck.35 眠り姫の終焉

 ここは『グレイヴ』施設の廊下。

 室内だというのに、底冷えするような風が下から吹きあげる。それでも寒くないのは、背中に密着してくる苅宿の身体のおかげか。

 いつまでも覚醒する素振りを見せない苅宿をそのまま放置する訳にもいかず、忍と連れ立って保健室へと弓張月は急ぐ。

 背負っている彼女の熱い吐息が、時折襟足に吹きかかって擽ったい。そして何より……当たっているのだ。あれが。そう――胸が! 男子寮で苅宿が倒れた時はあまり堪能できなかったが、今は距離がある。だからこそ、私が背負おうか? という忍の問いに、『女性には重いものは持たせられない』と、男らしく固辞した。

 微妙に苅宿には失礼な物言いだったが、そ、そう……と忍が俯きながら納得してくれたので良かった。これで誤魔化すことができた。

 それにしても、本当に意識を喪失したままなのか。あれから大分時間は経つのだが、まだ起きる気配は見せない。抱え込んだ脚の素足の艶かしさにドギマギしながら、やっぱり心配になる。重症でなければいいのだが。

「……ん?」

 何やら『グレイヴ』の出入り口付近が騒がしい。

 人だかりができている。

 貸し切りのはずのこの場所で、あんなにも人が集まるなんておかしい。予約制であることはわかってるから、ここは使えないと知っているはず。忍に目配せしてみると、知らない、と首をふるふる振るわれる。

 ということは、忍が集めたわけでもない。

 壮絶なる悪寒が身体を支配する。

 その場に集まっていた生徒達全員が、スマホを眺めていて、チラチラと視線をこちらに寄越す。そして一番それらの眼光を収束しているのは苅宿だった。

 誰もが好奇に目を光らせていて、かわいそー、だとか上っ面な同情の声を上げている。彼らが観ている映像を観るまでもなく、どんな事態が起こっているのか察してしまった。

 だが、それでも震える手で、集団の中の一人のスマホを奪い取る。そこに流れていたのは、忍と戦う前に見せられた映像。迂闊にも弓張月が漏らしてしまった事実の音声が、みんなの持っている無数のスマホから流れる。

 それらの破滅の音に囲まれながら、弓張月は呆然と立ち尽くす。

 ……あとから分かったことになるが、この映像は黒春高校の公式ホームページに載せられていたもの。瞬く間にこの映像は校内どころか校外にまで拡散した。そして一日も経たない内に、学校側から正式に処分が下された。

 ――苅宿渡真理の退学処分が。

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