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ラックライアー  作者: 魔桜
03
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luck.27 かつての仲間と敵対する

 苅宿は気絶している。

 意識を失った人間はもっと重量感があると思ったが、そうでもなく。線の細い彼女の肢体を抱えながら、弓張月は2階へと続く階段付近まで送り届ける。後頭部を地面にぶつけないために、緩慢な動作で苅宿を下ろす。

「なんで、そんなところに置いておくの? そこじゃ危ないから、2階に運んであげたほうがいいんじゃない?」

「苅宿には、できるだけ近くで見ていて欲しいからな。この俺が――お前をぶっ飛ばすところを」

「寝ているのに……見ていて欲しい? 随分ロマンチストになったみたいだね」

 苅宿から、苦言を呈した忍へと向き直る。

 穏やかな口調ではあったが、皮肉のように聴こえてしまう。

「この石が地面に落ちたら、勝負の合図ってことで……どうだ?」

 右手でポーン、と拾ってきた石を上に軽く投げる。

「……いいよ、どうでも」

 西部劇よろしく、コインが落ちたら勝負みたいな方式。

 緊張感が張り詰める時間を待って、弓張月は左手に持っていたもう一つの石を頭上高くに放り投げる。

 当然、忍の視線は、高い位置にあるデコイの石に釘付けになる。

 ヒョイ、とちゃんと忍に確認を取った、右手の石を地面に落とす。その瞬間、小石を弾にして射撃する。別に嘘はついていない。あっちが勝手に騙されただけだ。

 忍の顔面に肉薄した石は――弾かれる。

 空気の壁に阻まれた。

「私がそんな狡い手に引っかかるとでも? 仮にも中学時代はダブルスを組んでたんから、弓張月のやり方ぐらい熟知してるよ」

 そうだろうな。

 だからこそ当てることを目的としていない。この程度でかすり傷を与えれるとでも思ってない。

 顔面を狙ったのは、視界を遮るため。

 岩陰に隠れるための時間を確保するためだ。

 『グレイヴ』で、弓張月が飛ばせる物体となると、石しかない。そうなってくると、出てくる問題点として挙げられるのは威力のなさ。

 苅宿との対戦でも浮き彫りになった弱点。

 弓張月の能力は攻撃力が低すぎる。

 チマチマ当てて、対戦相手の体力を削っていくしかない。だからこそ、誰かの補助をするのが適任。ダブルスが最適。能力的には、一人で試合をするには不向きなのだ。

 だが、忍は攻撃も防御も、高校一年生レベルならば完璧に近い万能型。

 ダブルスもシングルスもこなせる逸材。

 そうなってくると、決定打を与えるための隙を見つけるしかない。できるだけ忍の攻撃の直撃を避けつつ、じっと機を伺う。

「苅宿さんと同じ策なんて……。やっぱり弟子が弟子なら師匠も師匠だね。だったら、こんなのはどうかな?」

 忍は空気の砲弾を着弾させる。

 だが、弓張月が潜伏している場所とはまるで見当違いの方向。当てずっぽうか、それとも痺れを切らしてやけになったのか。どちらにしろ、これはチャンス。死角に回り込んで――

「いつまで、かくれんぼしていられるかな?」

 だが、忍の猛攻は止まらない。

 休まず指を鳴らし続けて、どんどん更地にしていく。

 まずい――なんて話じゃない。

 簡素な訓練所である『グレイヴ』は、隠れる場所が極端に少ない。

 岩石を全て破壊されれば、捕捉されて即敗北は逃れられない。なんてことを考えるんだ。攻撃力に長け、尚且つ弾切れしない忍だからこそできる強硬手段。

 こうなったら、追い詰められた窮鼠の如く牙を剥くしかない。全ての岩石が砕かれ、勝機を失くすその前に叩く。

 岩石に手を触れて、吹き飛ばす。

 そしてそれと同時に走り出す。

 のっぺりと縦長な岩石を楯にして、風のように疾駆する。

 忍の攻撃の切れ目を狙っていたが、あちらも弓張月が特攻してくるのを待ち構えていたのだろう。すぐさま反応して、空気の砲弾をぶつけてくる。どんどん削られていくが、全くスピードを落とさずに突進する。

 忍までたどり着くか。

 それとも楯にした岩石が完全に削られるかが勝負の分かれ目。だが、空気の砲弾が岩石の中心に直撃すると、楯は簡単に崩れてしまう。

「弓張月が……いない?」

 だが、岩石は囮。

 投擲された岩石が破壊されれば、細かな石となる。その砕かれた石は、速度の乗った石礫として充分機能する。石礫の陰に隠れ、忍の後ろに回り込んだ。

 これで――当たる。

 そう確信して手に持っていた小石を射撃して――

「まあ……そうくるよね」

 不可視の壁にぶつかって砕かれる。

 反応が……早すぎる。

 弓張月の弱点は、一撃では敵に対して致命打を与えられないということ。だからこそ、至近距離から攻撃を当てることでしか勝機は見えない。特に、『グレイヴ』のように、手持ちに威力のでそうな『弾丸』がないケースの時は。

 だからこそ、こちらには猪突猛進というカードを切るしかなかった。

 しらみつぶしに岩石を潰していたのは、互いの戦力差をも考慮してのことだったのか。完璧に読み負けた。

 このままじゃ空気の砲弾の格好の餌食。

 戦略的撤退だ。

 ここは退いてまた作戦を練り直し――

「がっ!」

 後方に跳ぼうとしたら、強固な壁によって阻まれる。だったら横に、と駆け出そうとするが、完全に不可視の壁に取り囲まれてしまっている。見えざる箱に閉じ込められた形。

 接近しすぎたせいで、忍が空気の壁を自在に張れる『絶対領域』に足を踏み入れてしまっていた。袋の鼠。だが唯一の突破口。扉が開かれているように、忍と直線上の前方だけは壁が張られていない。

 だがその前からは、空気の砲弾が迫っていた。

「逃げられ――」

 訓練所の外まで轟く爆発音に、弓張月の叫びはかき消される。そのまま灼熱の業火に身を焼かれるような激痛が全身を蝕み、曝け出していた舌の水分は蒸散した。

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