苦手なことと得意なこと。
生徒が静まるのを待ってから先生は淡々と話をした。
「...さて、改めてイメージングテストの説明をしよう。主に行うことは3つだ。1つ。諸君が想像した想像武具を紙に描く。2つ。描いた武具を実際に具現化する。3つ。これは向こうの騎士団。『虚無の十字団』の騎士を交えて想像武具を使って実際に模擬戦闘を行う。早速プリントを配るぞ。手もとにきたら各自、想像武具をかいてくれ。」
ちなみに俺はこのテストの筆記試験が一番大嫌いである。何故かと言うと....
「──あ。いい忘れた。画力のない奴はできる限り忠実に描くこと。それじゃ各自頑張ってくれ。」
プリントを配り終わると先生は一言言い捨てて教室をでていった。おいこら試験監督だろお前いいのかよ。
俺には画力がない。自覚はしているのだが、どこが下手なのかわからない。
このプリントに俺は剣を描いた。ここの生徒は俺を除きみんな絵が上手い。剣に紋様をかいたりきっと色々しているだろうが、俺が描いたのはこれと言って特徴のない剣。特徴がないのが特徴と言っていいほど特徴のない剣を描いた。
テスト終了のチャイムが鳴り教室が再びざわめき出す。
先生は慣れた手つきで生徒からプリントを回収すると、次のテストで使うブレスレットを配った。
「これは霊樹できたただのブレスレットだ。次の時間からこれをつけて授業を受けてもらう。」
「え?なんでそんなもの付けなきゃいけないんだ?」
「後にわかるさ。さて、2つ目のテストに移る。次は先ほど紙に描いた武具を実体化してもらうぞ。ブレスレットをつけたやつから校庭へ移動しろ。いいな?」
適当に返事を済ませ俺は校庭へ移動した。
ここの学校の校庭は一般的な校庭よりもかなり違うと思う。学校の校舎を中心に東に校庭がある、校庭は上から見ると円形になっていて、外側を壁に囲まれている。『◎』のような形になっていて外側は観客席。真ん中には土だけが敷き詰められている。簡単に言うと『コロシアム』のような形になっている。観客席を含め縦横500m。校庭だけなら300mと結構広い。校庭には中に入るための入り口が正面に1つ。左側に上に上がる階段が1つで2つの入り口がある。生徒たちはあらかじめ指示された正面の入口から校庭に入った。
生徒が集まり、両手を広げぶつからない程度の広さを作った
「さぁ始めろ。諸君の想像武具を私に見せてくれ。」
テスト2科目目が始まる。
「──あ。ちなみに、武具をつくった生徒へのイチャモン。褒める。茶化すなど。好きにやってくれて構わない。よし。始めろ。」
え?な、なんだそれ。
みんなが武具を作り始めたのをみて、俺は全身の神経を1つに集中させ、紙に描いたたった1つの武器をイメージする。
「もっと.....もっと強く.....!!!」
俺は右手を前に出しその武具を想像する。
全身の血液が沸騰するような錯覚に襲われながら俺は右手で光るそれを握った。
光輝くその武具は想像を越えた形になった。
「はぁあああああああ!!!!」
俺が想像した武具はただの剣である。しかし、作った時の興奮はというと一般的な人間にとっては楽しいのだろうが、俺にとっては神経をすり減らすしんどい『作業』なのだが。
「メロって絵を描く事は苦手でも、こういうの苦手とか言いつつ得意だよねぇ。」
メリーは皮肉そうにそういう。
「メリーの、武具は弓か....。矢はどうするんだ?ってか扱えるのか?」
「バカにしないでよね!!私運動神経はトップクラスなんだから!これはね、剣のつもりで想像したんだけど.....」
メリーの画力はムンクの叫びを色塗りも含め模写して本物と見違えてしまうほど。しかし、彼女には想像力が欠けている。剣と弓...近いっちゃ近いけども。
「おぉ!お前らも実体化できたんだな!メロは流石と言っていいほど上手くできてるよなぁ。」
カイトの武具は....な、なんだこれ。うにゃうにゃしてて実体化しきれていないぞ。ハンマー...なのかな?
「俺なんてただの剣だろ?みんなに比べりゃ大したことないさ。」
「な訳ないだろ!!た、確かに見た目はただの剣だ。んだがな。見ただけでこの剣に使われている素材、リーチ、何もかも見ただけで全部わかる。流石としか言えないよこれは。」
カイトの褒め言葉に乗るように周りの生徒は感嘆をあげたりヤキモチを妬いたり、俺を褒め讃えたり。とにかく、俺を茶化しに来る....普段褒め慣れていない俺は
「や、やめろ!集中力がきれるから....そ、そそそんなに褒めるな!」
「ははは、メロ。そんなんじゃ騎士団に入ることなんて到底無理だぞ?」
先生は 俺を挑発して、より集中力を削ろうとしている。
(.....こんなんじゃ俺の集中力は切れねぇぞおおお!!!)
「うらぁああああああああああ!!!」
俺の握っていた剣はより強い輝きを放ち周囲の野次馬を圧倒する。
そんな姿を先生は感嘆の声を漏らしながら
「やはり、先陣はメロにきってもらうしかないか....」
俺は先生のその言葉を一字たりとも聞き逃さず聴いていた。
当然。なんの話かはわかっている。
「良いだろう。先生。俺が先陣を切ってやらァア!」
礼儀を慎めと誰かに言ったような気がするが、俺も人の事が言えないみたいだ。
このあと俺に起こる屈辱を俺はまだ知る由もなかったのだ。