第八話:総者対面
「……んぅ、どうやら、また寝ていたようだな」
眠りに意識を沈ませた洸騎が再び目を覚ますしたのは、次の日の朝だった。
随分と寝ていたんだなと、洸騎は一人思考の海に入るだが。
「……洸騎〜〜っっ!!」
「澪!……って恥ずかしい!!」
その海からは直ぐに上がらせられた。何故なら感極まった澪が、起きてる洸騎を見るなり抱き締めたからである。
「洸騎、洸騎、洸騎ー良かったよ〜目を覚ましてくれて本当に良かったよ」
嬉し涙をポロポロ溢れさせながらも、本当に幸せそうに澪は洸騎を抱き締める。いま澪の目の前で抱き締めてるのは神乃矢洸騎だと一分一秒でも長く感じる為に……
「あぁ、俺も澪と再び生きて出会えた事が凄く嬉しいぜ」
ギュウーと抱き締める力が強くなるのを洸騎は感じたが、ただ穏やかに抱き締められ続ける。
「…………こほん」
そんな二人の時間を展開し始めていた澪と洸騎だが、濁った咳払いが病室に響いた。
「……っっ!!貴方は」
「…………えっ!?」
直ぐに焦った様にお互い離れ覆面の者、中央指令部総括者に向き直る澪と洸騎。
お互いに、顔は強張り首筋を汗が止まらない。
「……女、少し外せ。彼と神乃矢洸騎と話がある」
そう濁った声で女、澪に席を外せと命じる総括者。
「えっ!!そんな折角、洸騎が目を覚ましたのに」
そう、駄目元々で総括者に意見を述べる澪。
「……私は異論は認めない。さぁ部屋から出ろっ!!」
やはり、駄目だったようで寧ろ、きつく命じられてしまった。
「……分かりました。貴方の指示に従います」
澪自身、洸騎を負傷させた負い目が有る以上これ以上、総括者の機嫌を悪くしては、何かしら不利になると思い大人しく病室から通路に出ていった。
「……さて神乃矢洸騎、私が言いたい事は分かるだろう?」
そう覆面で顔は隠され問い掛け口調だが、その覆面の下から放たれる威圧感、
圧倒的な重圧感が洸騎に一切の言い分は認めないと暗に語っているのだ。
「……俺には、何が言いたいのか、さっぱり分からないな」
だが、洸騎は、その圧倒的な威圧感に息が詰まるが、分からないなと口にする。
「……………」
洸騎には、
無言の総括者が威圧感を与えつつも覆面の下で、ぎょろぎょろと洸騎を見回す様な視線を向けている様な気がした。
「……なら、仕置きを与えねばな」
そう言うと総括者の手が、洸騎の傷を負わされた部位を捻りあげたのだ。
「ぐあ……っっ!!」
まだ傷が完全に癒えてない場所を捻りあげられ、洸騎の顔が苦痛に歪む。
「此でも……分からないと、まだ言うか」
「ぐぅっ……知らない!!」
捻りあげる力を強め洸騎の顔が益々、苦痛に歪む。癒えてない部位を力強く捻りあげられ痛みは凄まじく激痛と化し襲い来る。
其でも頑なに知らないわからないと否定する洸騎。
「傷が開いてしまっても良いのか!!答えろ」
覆面の下から激昂した声が問い掛けると言うより脅迫してくる。
「本当に分からな……っあああああ!!」
脅迫されても尚分からないと言おうとして悲鳴を上げる。
「頑なに知らないというんだな。良いだろう、私が折れてやる。」
「あ゛あ゛あ゛あ゛…っ」
そう遂に、手術された部位の傷が開いてしまったのだ。総括者は悲鳴を上げる洸騎に言うと、開いた傷を最後に今まで以上の力で、捻りあげ去っていった。
「あ゛あ゛あ゛……っ!!」
目を見開き悲痛な悲鳴を叫び洸騎は気絶した。
「……一体、洸騎と何を話してるんだろう?」
澪は一人、大人しく神乃矢洸騎と書かれた病室前の通路の椅子に腰掛け考えていた。
尚、考えていた頃は既に総括者が、洸騎の顔を歪ませていたのだが完全防音な為に、澪が気付く事はなかった。
「……(やはり、私の罰についてかな。洸騎が私が辞めさせられるのを否定してくれても、総括者の権限には敵わないからね)」
そう、はんば辞めさせられるのだと考えていた。
「……おい、女。さっさと、先生を呼ぶんだな。傷が開いたぞ」
だから、洸騎の病室から総括者が出て来て言われた言葉に驚いた。
「えっ…!?」
貴様は辞めさせる事にした。とか言ってくるとばかり思っていたのだ。
「失礼承知で言わせて貰います。その手の血は傷を開いたのは自分だと認めるか」
だが、驚いたのも一瞬で総括者の手が、赤く染まっているのを見逃しはしなかった。
「私が洸騎の傷を開いたとしたら、どうする。襲うのかい」
挑発的に言うのは、総括者と言う絶対の権限を握るからか。其とも、別の理由が有るのだろうか。
「襲いはしませんよ。ただ、洸騎に苦痛を与えたなら総括者だろうが許しはしない」
そう覆面を強く睨み付け言う澪は、総括者の権限を振るわれるかも知れないのに眼光は鋭かった。
暫し緊迫感を漂わせる両者。
「…ふん、許しはしないか」
先に折れたのは総括者だった。
「この滅霊庁の総括者である私に、此処まで言って来たのは君が初めてだ」
その意思に免じて、私は去るよ。
そう、澪に言って、総括者は病院から去っていった。