第伍話:狂傀儡少女
霊魔No.3:狂傀儡少女【パフォメット】
ぬいぐるみの罠と言う常時発動技を持ち、女の子を支配下に置く事が出来る。自分は戦わないスタイル。
滅霊庁:中央指令部
その部屋からは異質な雰囲気が漂い禍々しい重圧感が部屋を包んでいた。
その部屋には顔を覆面で覆い隠す上層部の者が集まっていた。
「……例のプロジェクトは、順調な様だな」
上座に腰掛けるは滅霊庁、中央指令部の大総統。
覆面に設置された機械で調整されてるのか。声は濁り男女は分からない。
「えぇ、どいつもこいつも馬鹿正直に頑張ってくれてますよ」
その総統の言葉に答えるは、右側に腰掛ける者。同じく声は濁り男女は分からない。
「こないだ、滅霊庁入りしてくれた者が数名居ましてね。クククク、全員失敗作になってしまいましたよ」
不気味に笑うは左側に腰掛ける者。
「失敗作とは違うだろ。彼等が頑張る為に必要な作品じゃないか」
さぞや、楽しい光景で有ったろうの。フハハハハハ!!上座の者が言い終え笑うと、その部屋は不気味な笑い声に包まれるのだった。
「……漸く、到着か」
洸騎が何故、何処か疲れた表情で漸くと言っているのか。其は簡単。
「…エレベーターが途中で停止しちゃうんだからね」
遅れて階段から姿を現した。澪の言葉が全てを語っていた。
「……全くだ。気合い入れて挑もうと思えば、途中で停止しやがるんだからな」
とまぁ、二人で暫し愚痴り合いをしていたが、
「…まぁ、辿り着いたんだ。最終相手を拝んでやろうじゃねぇか」
一区切り着いたのだろう。洸騎の表情は真剣で雰囲気も戦闘時のに変わっていた。
「えぇ、終止符を打たせて貰うわ!!」
澪も真剣な表情になり、最上階の、決戦の扉を開いた。
「……此は人形か」
部屋の中に入った洸騎と澪の目に映ったのは、モコモコとしたぬいぐるみ達だった。
「熊にアザラシに猫なんて可愛い〜」
澪は、直ぐ近くに置かれたアザラシぬいぐるみを手に取り、モコモコを堪能し始めていた。
その表情は、可愛くて堪らないとゆるゆるになっている。
「おい!!俺達は終止符打ちに来たんだろ。何で、ぬいぐるみで遊んでんだよ」
洸騎は、臨戦体勢を取らずに遊んでる澪から、ぬいぐるみを取ろうと手を伸ばした。
「止めてよ私は、ぬいぐるみで遊んでるんだよ。邪魔しないで!!」
だが、洸騎に怒りの表情を露にし邪魔だと澪は言ってきたのだ。
「なっ……!?澪、何を言って」
洸騎は一瞬何を言われたのか分からなかった。邪魔、何故、俺達は終止符を打ちに来たんじゃないのか?
戸惑いと動揺の表情を浮かばせる洸騎に澪は、洸騎を見つめ…
「……邪魔だから死んじゃえ。神乃矢洸騎」
「……っ!!」
その淡々と告げられた言葉に、洸騎の背をゾクリと悪寒が襲い、横に飛び退いた。
ズガンッ!!
瞬間、銀狼から散弾が放たれた。
「ぐっ…!!どうして」
正面から散弾の餌食になる事は避けれた洸騎だが、脇腹を抑え顔が歪んでいた。
「……ちっ!!脇腹を撃ち抜いただけか」
洸騎に向け冷たい表情で舌打ちし再装填する澪。
そう、澪の銀狼が放った散弾は、洸騎の脇腹を撃ち抜いたのだ。
「うぐっ…一体どうしたんだよ!!澪」
洸騎は再び自身を狙う澪に、動揺が隠せない。
自分のパートナーで同じ滅霊士の彼女が、冷たい目で自分を見るのは異常だ。
何か、霊魔にされたに違いない。だが、何をされたんだ。澪に何か仕掛けた霊魔は何処にいるんだ。
そう考える間にも、脇腹を抑える手が鮮血で深紅に汚されていく。その鮮血は、ボタッボタッと手を汚し床を染める。
「……キャハハハハハ!!人形遊びの邪魔しないでよ。神乃矢洸騎」
「……っ!!」
そんな中、狂った笑い声を発しながら少女が奥から現れた。
少女は血を流す洸騎を見て、愉快気に狂気の笑みを浮かべる。
「お前!!澪に何をしやがった」
脇腹から流れ出る血は止まらない。
だが、洸騎は目の前に現れた少女を強く睨み付けた。
間違いない、この女が澪に何か仕掛けた霊魔だと、洸騎の中で確信する。
「キャハハハハハ!!別に何もしてないよ。此所は、ぬいぐるみ好きな女の子の為の部屋」
少女は、睨み付ける洸騎の問いに答え、さぞ愉快愉快と笑い続ける。
此所は、ぬいぐるみ好きな女の子の為の部屋。女の子の為の部屋……っ!!
少女の言った言葉の意味に洸騎は気付いた。
女の子の為の部屋、即ち其は、
「……男は必要とされない部屋。必要ない男は始末されるって事か」
最初から誘い込まれていたのだ。少女の罠が展開する部屋の中に。
「洸騎君、頭良いねぇーだったら分かるよね。君は少年。即ち、男の子は要らねぇんだよ!!」
無邪気に笑って洸騎を見ていた少女が口調荒く本性を現した。
目が血の様に赤く染まりし狂気の霊魔が威圧感を漂わせる。
「……っ!!(どう攻めてくるんだ)」
本性を現した少女の動きを探る洸騎。
外見だけで判断しては霊魔に容易く殺される。
どう動くか、どの様な力を放つか。常に意識せねば死を招くのだ。
少女の手の指が細かく動き始める。
「俺は、パペネット様の人形。邪魔者死ね」
すると、むくりと奥の方から起き上がった複数の人影が、洸騎目掛け突っ込んでくる。
(あの霊魔の卷簇か。だったら、先に卷簇を滅する!!)
幸い洸騎に向かってくる卷簇は、距離が有るのか。詠唱するには十分の余裕がある。
「くっ…天地陰陽の理に従い魂は霊と化し」
神乃矢霊符を取り出し詠唱する洸騎。だが、
「……キャハハハハハ!!良いのかい神乃矢洸騎。彼等は人間。即ち生きてるんだよ!!」
「なっ!!」
少女の告げる言葉に洸騎は詠唱を止めてしまう。
(人間じゃ攻撃する訳にはいかない…っく!!)
ギリッと食い縛った歯が鳴り、目の前の霊魔への怒りに顔を歪める洸騎。
「死んでしまえ。我が主の邪魔者」
詠唱を止めてしまった洸騎を、パペネットが見逃しはしない。
「絞め殺してやる!!」
操られる人間の手が洸騎の細い首を、ギリギリと握り締め気道を締め上げる。
「ぐっ……離しやがれ!!」
直ぐに首を握り締める人間達の鳩尾に蹴りを叩き込み、蹴り飛ばし気道を解放する。
「げほ、げほ、ごほ…」
距離を取り、気道を解放され酸素を早く求める身体は、荒く咳き込んだ。
「……げほ、(まずいな。さっき脇腹を撃ち抜かれた所為で、少し視界が霞んで来やがった)」
そう、澪の銀狼から放たれた散弾に、脇腹を撃ち抜かれた洸騎は血を身体から失う量が多くなり始めていた。