第弐話:神乃矢洸騎:神乃澪
「ちっ…酷いな」
突入して直ぐに洸騎は現状を見て呟いた。
高層ビル内部は外側より酷かった。
瘴気の濃度が極めて高くビル内部を捜査するにも、瘴気に視界が激しく制限され、苦しい捜査なのが現状なのだ。
「瘴気防御を発動しないと耐えられないわね」
滅霊士が突入し普通に活動出来るのは、身体に宿る退霊力を身体に纏わせる。霊纏で瘴気の影響を受けない様に出来るからだ。
「……聖なる空気よ。息吹きよ。害なる瘴気を祓え!!聖気解放」
印を結び高速詠唱した洸騎の陰陽術が発動する。
洸騎の手から眩い光が放たれ、100mの範囲の瘴気を消失させる。
「此で少しは捜査しやすくなる筈だ」
瘴気が消失した事で、ビル内部の状況を、より確認する事が出来た。
「流石は洸騎だね。さて、生存者が居ないか調べないとね」
そう言って小型端末の電源を、ピッと入れ起動させる。
その小型端末は人命器と呼ばれ生存者が居る場合、丸が点滅し教えてくれる優れ物なのだ。
「洸騎っ!!生存者が生存者が居るよ」
澪が驚いた様子で洸騎に伝える。
「あぁ、この奥の……くっ」
人命器を覗いていた洸騎が顔を歪める。
「どうしたの洸騎!!」
澪も洸騎の様子に心配の声を掛けるが、直ぐに歪めた理由は分かった。
「……瘴気が、また漂ったわね」
聖気解放によって消失していた筈の瘴気が、再び漂い始めたのだ。
「……もう一度、聖気解放を発動すれば消失させれる」
そう洸騎は何事も無い様に言うが、瘴気消失の術は身体への負担も大きい術なのだ。多用すれば倒れてしまう可能性が大きい。
「無理しないで大丈夫。生存者は、奥の角の小部屋に反応が有ったから」
私の記憶力に違いはないよ。
そう力強く言う澪に、洸騎も
「分かった。小部屋に向かおう」
そう言って軽く笑むと、奥の角の小部屋に向かい歩き出した。
ギイィィと扉を開き
洸騎と澪が辿り着いた小部屋は、スコップやら草刈り鎌等が置かれた物置小屋のようだ。
「此処だな滅霊士・神乃矢洸騎だ。もう大丈夫だから出てきてくれ」
「滅霊士・神乃澪もう大丈夫だからね。安心して出てきて」
安心させる様に生存者に繰り返し呼び掛ける洸騎と澪。
「……神乃矢洸騎。滅霊士…神乃澪」
そう、ボソッボソッと呟きながら社員服を着た35歳位の女性が隅から歩いて来る。
「……そう、神乃矢洸騎だ。大丈夫だからな」
女性は余程怖かったのか。顔色が白に近く足取りも覚束無い。
「助けに来てくれたんだね…キャッ!?」
そして女性は何かに足を取られ転倒してしまう。
しかも、どうやら足を挫いてしまった様だ。
「大丈夫か!?立てるか」
直ぐに洸騎が駆け寄り女性に手を伸ばす。
「……ありがとう神乃矢洸騎」
そして女性が洸騎の手を握り…
グンッ!!
「……なっ!?」
立たそうとした洸騎の手を、引っ張り転倒させた。
「……ぐあああ!!」
しかも女性の洸騎の手を握る手が、鋭利な手に変わり爪を洸騎の手首に食い込ませてきた。
「ぐぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」
手首に食い込む爪は、肉を抉り鮮血を噴き出させ更なる激痛が、悲鳴を上げる洸騎を襲う。
「…っ!!洸騎どうしたの!!」
洸騎の悲鳴に、澪は問いながら洸騎の側まで駆けて行く。
「ぐっ…離しやがれっ!!」
激痛に耐え反対の自由な手に握りしめ、退霊力を込めた。
神乃矢霊符を、自分の反対の手首を抉る手に押し当てる。
「ぎうぇぇええええっ!!」
霊符を押し当てられ女性は、人間とは思えない奇声を発し洸騎の手を解放する。
「うぐっ…随分と抉りやがって」
解放されると同時に、神乃矢霊符を女性に複数投げ放ち距離を取る洸騎。
「洸騎っ!?…酷い、左腕の肉を抉られるなんて直ぐに回復しないと」
澪は距離を取る洸騎の左腕の手首が、酷く傷を負わされてる事に、直ぐに気付き回復させようと術を詠唱する。
「ざぜねぇぇえええ!!死ね滅霊士!!」
だが、凶変した女性が一気に駆け寄り澪に鋭利な爪を振り降ろす。
「……っ!!」
澪は咄嗟に飛び退き、振り降ろされた爪を避け、気付いた。
(……あの爪に付着してる真新しい鮮血。洸騎の手首に負わされた傷…)
澪の頭の中で一説が浮かび上がった。
其を問うべく女を睨み付けようとしたが、既に女は洸騎に向かっていた。
「洸騎ーっ!!」
澪が叫んだ。
「……っ!!聖なる加護よ。我が魂を邪なる者から守りたまえ!!」
叫び声で女が向かってる事に気付き、高速詠唱する洸騎。
「無駄だ死ねぇぇえええ!!神乃矢洸騎ー!!」
間に合わせぬと女が跳躍し凶悪な爪を、洸騎に振り降ろした。
バチンッ!!
何かを弾き返した音が響き渡る。そして…
「ぎぃいいい!!」
女が悔しげな表情で弾き返された。其が意味するのは一つだけ…
「あの術は…洸騎ー!!」
洸騎の対霊魔結界術が間に合ったのだ。
黄金色に輝き浮かぶ神乃矢霊符が洸騎を囲んで展開し守っていた。
「霊魔拒界発動させてもらったぜ」
結界の先には不敵に笑う洸騎が立っていた。
「ちぃいいい…っ!!」
洸騎を睨み付けていた女だが、その場を飛び退く。
瞬間、閃光を放ちながら爆裂する床。
「貴女の爪の血は、洸騎が負わされた傷の血なのか。教えなさい!!」
ジャコッ!!と再装填し銀に輝くライフルを構えた澪が、女を睨み付け問い掛けた。
その澪の様子に女は、ニタァ〜と不気味に笑い答えた。
「あぁ、まんまと生存者だと騙され信じやがった。餓鬼の手首を抉った血」
ズガァァン!!
女の言葉は続かなかった。何故なら…
「この霊貫弾で貫かれた痛みはどう?くそ霊魔!!」
銀に輝くライフルが裁きの火を噴き、放たれし銀の銃弾が女の腕を貫いたからである。
「ぎゃああああ…っ!!死ね死なせてやる。貴様ら纏めて死なせてやるうぅぅ!!」
女の顔が、激痛に歪み澪と洸騎を射殺さんばかりの視線で睨み付けた……