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必殺断罪人  作者: 高柳 総一郎
勿忘(わすれな)不要
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勿忘(わすれな)不要(最終パート)




 夜。サイトー金融、社長室にて。

「そりゃ、ほんまか」

 ハチの報告が終わると同時に、サイトーは細いタバコを灰皿に押し付けもみ消した。

「本人が直接そう言ってまさあ。……大事なものだが、分かってもらえるならと、れも預かってきやした。明日の朝、自分が起きるまでに返して欲しいと」

 そういうと、彼は羊皮紙の束──数枚しかないが──をサイトーの机に置いた。ぺらぺらとめくり、サイトーは自分の中で何かを組み立てながら読んだ。彼は暴力的な男であり、それでいて理知的な側面も持ち合わせている。相反する二つの側面が重なりあう時、人を騙し、陥れるためにその理知的な戦略を扱う狡猾さが生まれるのだ。戦略には情報がいる。そして、この羊皮紙の束は、まさしく宝の山とでも言うべき情報の数々であった。

「一日で記憶を全部忘れてしまう……ほいで、やつはもう魔法は使えんわけじゃの。魔法の使い方を書いた紙を、無くしてしもうたわけじゃけえ」

「マサを吹き飛ばしたような魔法は使えねえってことですね」

「ほうじゃ。ほーん。で、なんじゃ、わかりやすい話じゃの……ジムランとこのガキとネンゴロになったんか。忘れるのも早いだけあって、女に手を出すのも早いわ」

 教会で誓いを立て、サイトー金融へと来たことや、サイトー達に関する記述で、メモは終わっていた。サイトーは少しだけ沈思默考した後、同じくじっと口を閉じたまま待っているハチに目を向けた。彼はサイトーの事をよく理解している。ここで自分から意見を言おうものなら、生意気と言う理由でケジメされかねない。愚にもつかない考えなら、更にもう一本ケジメだ。

「おう、ハチ。ええか。みんなにもよう言っときい。マサの事は、他言無用、もうワシは気にせんけえ、お前らも気にせんようにとな。」

「へい。しかしお言葉ですが兄貴。マサの事はともかくとして、マサとシドが娼館に売り飛ばす予定だった女……逃げちまったおかげで、先方から催促が来てんでさあ。こっちは、どうしましょう」

 既に夜は更けている。ウォロックはこちらで手配したホテルに泊まっており、明日こちらから迎えに行く予定だ。メモはホテルのボーイにわたしておけばいい。

「簡単じゃろうが。こっちは腕の立つ騎士様がなんでもしてくれるんじゃけ、遠慮するこたないわい。……ジムランの親父め、どう知り合ったんかしらんが……騎士を抱き込むっちゅうのはとんだタヌキじゃで。だが、騎士様の記憶が持たんなんちゅう事は聞いとらんかったんじゃろうの。ツメの甘い親父じゃ。おう、ハチ。明日はあの親父に地獄見せちゃるけえ。騎士様の初仕事をみんなで見物にいこうで」







 同時刻、イオの教会では、ドモン以下四人組が顔を突き合わせ、今日の出来事をおのおの突き合わせていた。意外にもドモンは笑みさえこぼしてみせた。騎士の居場所が分かった上、その居場所がやくざ者のサイトー金融となれば仕事はやりやすい。叩けば埃が出るような男だ。経緯はどうあれ、殺人犯を匿っておく理由など無いはず。当然叩き出すだろう。

「さっそくですが……あんたたちには明日の朝、すぐに憲兵団本部にお恐れながら、と申し出てもらいますからね。あの通りに残った血の染みは、魔法によって誰かが殺されたって事件になってます。……当然僕が仕向けたんですけどね。まあ、報奨金のためです。後ひと押し協力してもらいますよ」

「そのことだがよ、旦那」

 ソニアが、タバコの灰を床へ落としながら言った。

「俺は正直、一つだけ引っかかることがある。あんたも聞いたんだろ。その騎士様は、一日しか記憶が持たねえって。騎士様が知らぬ存ぜぬを貫くなら、そのサイトーとか言う男もその騎士を擁護するんじゃないのか」

「それに、アンヌ・ジムランさん。私も知り合いなんですけど、何でもその騎士様が借金の棒引きを嘆願しにいったって教えてくれたんです。なんか変じゃないですか? 悪党とはいえ、問答無用で人を消し飛ばすような人が、よくしらない人の借金を棒引きしてもらうように動くなんて」

 フィリュネは、ウォロックがサイトー金融で嘆願したところを遠巻きに観察していたのだった。誠実で実直な騎士の嘆願は、一見聞き届けられたかのように見えた。しかし彼は、サイトー金融で当分働かなくてはならない。騎士というのは、ほぼ例外なく誇り高い生き物だ。悪徳金融の手足となって働くなど、相当割りきらねばできるはずもない。記憶が飛び、昨日の事を忘れるとしても、どうも行動に一貫性が無いような気がしたのだ。

「なんでも構わねェよ。俺が心配してんのは、旦那が取り分をちゃんと出してくれるかどうかだけだぜ」

「あんたもしつこいですねえ~。僕が今まで取り分を独り占めしたことありました? 僕はこういうことにはうるさいんです。解ってるでしょうに。とにかく、あの騎士を牢にブチ込めれば、僕の評価も上がって、あんたたちも労せず金を手に入れられる。良いことづくめですよ。やるのは明日、それは変わりません」

 しかしフィリュネやソニアの意見も虚しく、ドモンは明日の決行を告げた。確かに懸念事項かもしれないが、些細な事だ。ドモンには、約束された評価と金しか見えていないのだ!

「じゃ、みなさん。明日朝一番ですからね。踏み込んでいって、誰もいないなんてことが無いようにして下さい。フィリュネさんは、サイトー金融で待機して、異常があったら教えて下さいよ。分かりましたね」





 そして、朝がやってきた。

 ウォロックはのそのそと起きだすと、机の上においてあるメモを読んだ。自分についての事実を知る。魔法についての紙は、失われたということが走り書きで追加されていた。次のページ。若干異なる筆跡であるが、現在の状況が書かれていた。

『私はサイトー金融に勤め始めた。剣を持って面倒事を解決するのが仕事だ。騎士として、主君を裏切るような事は許されない。これは契約文書に交わされた絶対的な盟約だ。別紙参照のこと』

 それが羊皮紙の最後のページであった。ウォロックは疑問を感じること無く、腰についたホルダーへ羊皮紙を仕舞いこむ。羊皮紙の束が置いてあった場所の隣に、新しい羊皮紙が二巻き置いてあった。雇用契約書。サイトーのサイン、そして自分のサインは既にしてあった。主君。騎士にとってそれは、裏切りを許されない絶対的な存在だ。

今の自分には、どんな人物であったかを知るすべはないが、騎士がこうした契約を交わす以上、少なくとも契約に足る人物なのだろう。二枚目の羊皮紙を見る。

『本日起きたらすぐに、外へ出ること。サイトー金融の従業員ハチが出迎える。仕事の内容は直接聞くべし』

 ウォロックは手慣れた様子で鎧を着ると、外へと出た。まだ朝日はのぼり切っていない。朝もやの中から、手元にもやで炎が朧に揺れるランプを持った男が現れた。

「先生。おはようございます」

「貴公がハチ殿か」

「へい。失礼ですが昨日もお会いしてまさあ。本当に記憶が無いんでやすね」

「相済まぬ。私は記憶を持ち越すことはできぬが、サイトー殿と交わした契約書は今朝方見ている。契約ある限り、仕事はきっちりやるが……仕事とは何か教えてもらえるか」

 ハチはニヤリと卑屈な笑みを浮かべた。嫌な笑みをする男だ。ウォロックが思ったのは、その程度の感情であった。

「なあに、簡単でさ。借金を払えねえって親父から、回収してきてもらいたいものがあるんで。ひとつは、土地の権利証。──もう一つは、年頃の娘」

 ハチには、兜によって覆われた彼の表情をうかがい知ることは叶わない。だが、長年借金取りとして生きてきた彼には、感情の発露のようなものを読み取ることができる。ウォロックにとっても、あまり気が進まない仕事に違いないようだった。

「その父娘は、サイトー殿の金を借りたが、返せないと言うのだな」

「へい。それどころか……自分の不出来を棚に上げて、棒引きにしろとまで。全く、ふてえ野郎どもでさあ。……さ、こちらです」

 ウォロックは、一言も喋らなかった。その一方で、彼の体から、怒りが満ちてきて、それが漂っているようにさえ、ハチには感じられた。朝日は、未だもやの中に隠れている。目的地についても、それは変わらないようだった。

「おう、朝早くにごめんよ!」

 ハチは扉を乱暴に開け、ランプを置いた。まだ住人は寝静まっているようであった。

「都合がいいや。先生、入って下さい。見られちゃあ困りますからね。あっしは権利証を探しますんで、先生は娘を……」

「貴様ら、何の用だ!」

 暗闇の中、おぼつかない炎が揺れる燭台を手に、男が一人現れた。もう片方の手には、黒い木製の棍棒。ウォロックには、見覚えはなかった。

「貴公は……こんな朝方にどうして……それに、そっちはサイトー金融の」

 ハチはランプを掲げ持ち、ちょうどウォロックの姿が浮かび上がるようにしながら、よく通る声で言った!

「おう、トミーのオヤジ! 用心棒を雇って借金の棒引きたあ、うめえ事を考えやがったな。だがな、そううまくはいかねえんだ! サイトーの兄貴はカンカンだぜ。だが、兄貴もまるっきり悪魔じゃねえ。土地の権利証と娘を渡せば、命だけは……」

 その時、ハチの体を風が通り抜けた。後ろに控えていたはずのウォロックが、彼の目の前にいた。彼が背負っていたはずの大剣は、切っ先が地面に触れるか触れないかの位置まで振り下ろされている。その下に転がっているのは、頭を砕かれたトミーの姿!

「ヒッ、せ、せんせ……」

「私の前で無作法は許さぬ。こと、我が主人を裏切る行為は……死を意味する」

 トミーは、声もあげることなく絶命していた。予想外、予想外の出来事だが、これでやりやすくなった。トミーを殺せとまでは言われていないが、財産をふんだくらねば会社に不利益になってしまう。

「せ、先生。さすがですね。あっしは、権利証をやりますんで……娘を」

「心得た」

 ウォロックは鎧を揺らし、鉄のこすれる音を軋ませながら、狭い家を進んだ。扉を開け、未だ夢の中で漂う女へと近づく。やはり彼には、見覚えはなかった。容赦なく頬に平手を打つ!

「起きろ」

 困惑した表情で目を覚ました女──アンヌは、見知ったウォロックの姿を見て戸惑った。血の匂いがする。なぜ彼からこんな匂いが。そして、未だ部屋は暗い。なぜこんな時間に?

「ウォロック様、どうして」

「私の名を知っているのか。すまぬが、私は覚えていない。そしてなおかつ、貴女は罪をおかした。裏切りは最も重い罪、それこそ死に値するような……しかし言うまい。我が主人が、貴女を連れて来いと言ったからには、それを裏切ることは出来ない」

 体がうまく動かない。起き抜けに言われた言葉も、脳内でうまく処理できない。何を言っている? ウォロック様は、私を守ると言ってくれた。なぜ? どうして? 口はぱくぱく動くばかりで、言葉も出てこない。

「先生、権利証が見つかりやした。娘はあっしらにおまかせを。ですが朝ですからね。猿轡を噛ませましょう」

 言葉も出せなくなってしまった。ハチは手際よく手足をあっという間に縛り上げ、担ぎ上げると、外へと向かった。途中、昨日まで父親と暮らしたリビングに、血だまりに沈む父親が転がっていたことに、彼女は絶望した。うめき、涙を流し──芋虫か何かのように、抵抗することも叶わなかった。

「おうおうおう……権利証はあったんかいの」

 数人の社員を従えて、サイトーがにやにや笑みをこぼしながら、外で待っていた。ウォロックの仕事ぶりと、記憶が無くなるのが真実かどうか──なにより、自らの打った仕掛けがうまく作動したのかどうかを確認しに来たのである。

「サイトーの兄貴。ありやしたぜ。娘はこれから、娼館に売り飛ばしまさあ」

「ほうか。大収穫じゃの。おう先生、さすがじゃのう。見なおしたで」

「貴公がサイトー殿か。騎士として主人の命を遂行するのは当たり前の事。そして、すべての無作法を正すのも私の使命。老人だろうが女だろうが関係はない」

 サイトーはほくそ笑んでいた。無理からんことだ。まさしくこの土地は金になる、いわば金の卵なのだ。この土地は聖人通りの端っこでありながら、隣接する南地区の高級住宅街の開発計画の候補地として上がっており、もし本当であれば土地の値段が上がるだろうという見込みがあった。単に土地を手に入れたいのなら、暴力に訴えでれば済む話だが、それはあまりよろしくない。ただでさえ最近、評判が落ちているのだ。ここに来て底辺の中の底辺である聖人通りを暴力で奪えば、いよいよ憲兵団も動き出す。なおかつ、開発計画はあくまでも計画の段階で、金をばら撒いて無理やり手に入れるのもリスクが大きい。

「嬢ちゃん。あんたのオヤジさんは、金貨十枚を貸し付けてやった時……ワシの事をええ人じゃと思うたと思うんよ。ほいじゃが、ワシのような金貸しがええ人なわけないじゃろうが。考えてみいや。たまたまこの土地だけ井戸が壊れて、たまたまワシだけが真剣に話を聞いて、ポンと金貨十枚出す、なんちゅうことがあると思うか?」

 朝もやの中、誰も歩く人の無い道を連れ立って、ハチの肩の上でアンヌは涙を流した。要は、全て仕組まれていたのだ。もしかすれば、あのウォロックという騎士さえも、この男の差金だったのかも分からぬ。悔しかった。しかし猿轡のために、舌を噛み切って死ぬことも許されない。殺してやる。父上の仇を命で償わせてやる。騎士の娘である彼女の気丈な脳内ではそのように物騒な言葉がいくらでも浮かぶが、何も出来ない。アンヌに許されたのは、父親に手を下し、自分を裏切った騎士ウォロックの背中だけだ。

 朝日がのぼり、アンヌを光が包んだ。それは、彼女の絶望と復讐心が見せた、最後の魂の輝きだった。






 ドモンの目論見は完全にうまくいっていた。先日起こった魔法の不正使用による殺人事件の犯人へ繋がる、重要な目撃証言を持つ二人が現れた。一方が神父の格好をしたイオだったのも、説得力があった。聖職者は、口にする言葉に重みがあるとみられるのだ。

「なるほど……鎧騎士。確かに、イヴァンであろうとそう何人もおらんでしょうな」

 ガイモンが針金のようにごわついたひげを撫で付けながら、厳かに言った。彼の隣には、調書担当の憲兵官吏が、二人から聞いた証言をまとめている。

「神に仕える身として、人殺しを見逃すわけには参りません。……しかし、恐ろしくなりこうして通報が遅れてしまったこと、お詫び申し上げます」

 穏やかに神父めいた言葉で謝罪するイオに、ガイモンは恐縮しきりであった。どんなに位の高い人間であろうと、神に仕える神父には一定の敬意をはらうものなのである。鬼のガイモンでも、それは変わらなかった。一方居心地が悪いのがソニアだ。タバコを吸うわけにもいかず、しきりに応接室の扉をちらちら見るばかりだ。

「ソニアさんと申されましたかな。何かこの後お仕事でも?」

「いや、まだ大丈夫なんだが……」

「調書を書き終わりましたら、それで終いです。今しばらくお待ちを……おい、はやくせんか。モタモタするんじゃない」

 そうどやしつけたその時、息を切らせる『演技』とともに、飛び込んでくるものが一人あり! そう、ドモンである。扉の前でうろつきながら、彼はタイミングを見計らっていたのである!

「ガイモン様! 大変です!」

「バッカモン! 貴様……騒々しいぞ! 今調書を取っとる最中だ!」

 ガイモンの大喝にも一切めげない! ここで負けては、報奨金金貨五枚が遠のくばかりだ!

「その調書です! じ、実は……鎧騎士と聞いて、小官ピーンと来ました! 実は昨日、サイトー金融と言う会社に、鎧騎士が借金の棒引きを嘆願しに来たという噂を聞いておりまして……先ほど手の内の小者に調べさせたところ、話に間違いがないようだということがわかったのです。ガイモン様、その鎧騎士はどんな鎧を」

 そう言うと、ガイモンの返事を待たず調書を覗きこむ。ドモンはいかにもわざとらしく調書を読み込むと、自信たっぷりにガイモンに言葉を突きつけた!

「これは間違いありませんねえ、ガイモン様。神父様の証言とも合致します」

「間違いないのか」

「ええ。神父様の証言と、小官の捜査結果を照らしあわせても間違いありません。……ガイモン様、相手は魔法で人一人吹き飛ばすような恐ろしい腕前。加えて居場所はやくざ者のサイトーの会社です。小官一人では手にあまるかと」

 ガイモンは唸った。しかし、ドモンは勝利を確信している。元より、ガイモンはこうした後ろ盾のなさそうな悪党には苛烈極まりない男だ。確かにサイトー金融は目に余る横暴を繰り返しているし、ただ手をのばすのは危険かもしれないが──鎧騎士を足がかりに、捜査の手を入れられるかもしれない。

「何度も言うようだが……間違いないのだろうな」

「間違いありません。ガイモン様、ここで鎧騎士を捕まえられれば、団長への覚えもめでたくなることうけあいです。騎士団への栄転もあるかもしれません」

 ガイモンは膝を打ち、立ち上がった。ドモンは心のなかで彼と同じく膝を打った。まずはよし。後は、ガイモン率いる憲兵団の精鋭が、鎧騎士を捕まえられればドモンの目論見は達するのだ!





「憲兵官吏の旦那方……何かの間違いじゃありゃしませんかのう」

 意外にもサイトーは冷静に、穏やかさすら感じさせる声で、踏み込んできたガイモン達に向かって言った。手にはタバコをはさみ持ち、どこか不遜な態度を漂わせるが、吐くのは正論だ。隣には、兜を脱ぎ鎧を外した、雪のごとく白い肌の大男、ウォロックが剣を携えて佇んでいる。

「ウォロックさんは確かにここに入って日が浅い。ここに来た時、確かに鎧も着とりよりましたわ。ほいじゃが、いきなりやってきてやれ証拠があるんじゃなんじゃと、言いがかりも甚だしいですで」

 ものものしい装備で、会社の前に詰めかけるガイモンと部下の憲兵官吏、そして駐屯兵総勢二十人。鎧騎士が放つという魔法に警戒してのことであるが、これでは面目丸つぶれだ。しかし、ドモンは諦めていなかった。

「こっちには証人がいるんですよ。それも二人も」

「分からん人じゃのう、ドモンの旦那。そんなどこの誰かよう分からん人の証言じゃ本人かどうか分からんじゃろ? 確か、事件が起こったのが、三日前の夜じゃったかいの? その時じゃったら、この会社で仕事をしとりよりましたわ。わしら金貸し言うんは、とにかく書類がよう出ましての。その整理なんちゅうんは、社員総出でやらんと間に合わんのですわ。入ったばかりのウォロックさんの手を借りても足らんかったくらいっじゃ。つまり、こっちにゃ、社員全員の証言が取れるっちゅうことですけえ」

 やられた。ドモンは聞こえないよう呟いた。何があったのかは分からないが、この男とウォロックは既に通じている。証拠も元より、目撃証言のみだった。となれば、数で上回る形で証言を重ねられればおしまいだ。それに、ウォロック本人は確実に知らぬ存ぜぬを突き通すだろう。なにせ覚えていないのだから。

「相分かった。こちらも捜査に必死なのでな。少しでも怪しいと思えば、調べねばならんのだ。気を悪くするな」

 ガイモンは静かに言った。これ以上ここでごねても、何も出てこないことを悟ったのだ。

「いやいや。お役人に協力するのも、わしら市民の義務ですけ……おう、お客さんがお帰りじゃ。お見送りせんかい!」

 強面の男どもの見送りと共に扉が閉まり、ドモン達は締め出された。ガイモンは怒鳴らなかった。ただ冷たい視線を、ドモンに投げかけるばかりだ。

「あ、あのう……ガイモン様?」

「貴様にはほとほと呆れたわ。ワシの面目は丸つぶれ……貴様の顔など、当分見たくもない。今日の事は団長にも報告申し上げる故、次の給与査定を楽しみにしておることだな」

 解散してゆく駐屯兵、持ち場へ戻っていく憲兵官吏達、そんな中ドモンは必死にガイモンに食らい付こうとするも、ガイモンは冷たい。ここで何もしなければ、ドモンは今度こそクビに近づいてしまう!

「ガイモン様、給与査定だけは……やつらの証言はでたらめです!」

「いずれ本当になる。やつらの生命力は普通じゃない。生き残るためには、どんな捏造だってやってのけるだろう。蛇のようなやつらなのだ、金貸しというのはな。ここで殺せなかったのなら、次のチャンスを待つ他ない。貴様のお陰で、いつになるか分からなくなったがな。散れ。持ち場にもどれ」





 ヘイヴンは、相変わらずの盛況ぶりを見せていた。その中の小さなござの上で、フィリュネとソニアは手作りの金属細工アクセサリーを売る露店を開いていた。

「あんたがフィリュネさんかい?」

 ヘイヴン自体の盛況の割に、今日はあまり客が寄り付かないようで、フィリュネも退屈と温かい日差しによってうつらうつらと船を漕いでいたが、聞きなれぬ声で尋ねられ顔を上げる。黒スーツに、蝶ネクタイを付けた男だ。帝国においてスーツは実は珍しくない。ただ、ノーネクタイはカジュアルな私服、ネクタイをつけると正装、とおおまかな役割が決められている。そして蝶ネクタイは、主に娼館の従業員が客に対し身ぎれいに見せる時に付けるものだ。それも、相当な高級店のみで見られると言う。後ろで見ていたソニアはそれを理解したが、フィリュネには縁遠い知識だろう。

「はい、そうですけど……」

「アンヌ・ジムランから言付けを受け取っている」

 フィリュネはなにか嫌なものを感じ、差し出された封筒を引ったくるように取ると、中身をあらためた。金色の光が、否応なしに目に飛び込む。おかしい。アンヌ・ジムランは借金で苦しんでいる。わざわざ自分に金を託す必要など無い。同封されていた手紙を取り出し、開けた。涙と憎悪、復讐心、後悔にまみれ、にじんだ字で書かれた手紙。そこには、サイトーが井戸を壊すことで金を借りるよう仕向けた仕掛けの内容、ハチと騎士ウォロックによって、父親が殺されたことが綴られていた。

『この手紙は、女達が苦界に落ちる直前に、最後に娑婆に向けて書く、いわば未練を断ち切るための手紙なのだそうです。私は、お父様の借金を払い終えるまではここから出られません。身請けされることがなければ、恐らく一生ここで過ごすことになるでしょう。でも私の未練はまだ残っています。あのサイトーやハチを許すことはできませんし、なにより父上も、私も裏切った騎士ウォロックを恨んでも、恨んでも、恨みきれません。同封したお金は、ここに売られた時の代金から、サイトーに払った分を差し引いたすべてです。どうかこのお金で、私と父上の無念を晴らしてくれる人を、探して下さい。もはやあなたしか頼れる人間は思いつかないのです。どうか、よろしくお願い致します』

 フィリュネはその手紙を握り締めた。今の彼女にできることなど、その程度だ。だが、この金さえあれば、遺された恨みを晴らすことはできる。もちろん、それで父親が生き返ったり、娼館から脱出できるわけではない。何もならないのだ。だが彼女はそれでも望んだ。復讐を。

「フィリュネ」

 ソニアは立ち上がり、尻についた埃を払っていた。その表情は険しい。

「店終いだ。……教会に行くんだろう」

 彼女は頷いた。涙は見せなかった。そんなものを流しても、何にもなりはしない。彼女の恨みは、断罪人が晴らすだろう。






「なるほどねェ。神に誓った約束も、見事に忘れちまったってェわけかい」

 既に、太陽は傾き始め、血のように赤い光が、聖堂の中を漂っていた。その中に立つは、ドモンにイオ、ソニアにフィリュネ、四人の断罪人達。

「多分、サイトーはウォロックが忘れてしまうことに気づいてるんでしょう。そうでなくちゃ、あんな騎士のお手本みたいな輩を操れるわけありませんからね」

 ドモンの表情は不機嫌そのものであった。仕事は失敗。報奨金どころか、クビの危機にまで追いやられているのだ。無理もなかった。

「標的は、サイトー金融社長のサイトー。部下のハチ、そして騎士のウォロックの三人ですね」

 一枚一枚、フィリュネは金貨を聖書台の上に置き分けた。金貨の枚数は十枚。一人金貨二枚銀貨五枚の計算だ。それを見ながら、ソニアがふと呟いた。

「旦那、ウォロックは魔法を使うかもしれねえぞ。順当に行けば剣を使う者同士あんたが相手をしなけりゃならん。大丈夫か」

「どうもあの騎士様は、魔法の使い方を忘れちまったようです。なら、五分でやれるでしょう。心配しなくても、金が出るなら、きっちり地獄に連れてってやりますよ。もちろん、連れ立っては勘弁ですがね」

 ふう、と息を吐きながら、ドモンはことも無げに言った。話を聞く限り、今回一番災難を受けたのはドモンだ。その原因を、逃すことがあるはずない。ソニアは軽く笑いながら、金を取った。

 全員に金は行き渡った。断罪は今夜。やがて聖堂から人の気配は消え、断罪人たちは逢魔が時から闇へと紛れていった。





「あんた、ハチさんだろ。金貸しの」

 ハチは、娼館からの帰り道に何者からか話しかけられた。思わず舌打ちしてしまう。今は急がなくてはならないのだ。なにせ、あのサイトーが上機嫌で『パーティを開くが、それまで遊んで来い。ただし遅れるな』と言ってきたのだ。アンヌを売り飛ばした金の内、いくらかを女を抱く金で消費しても良いなど、普段のサイトーからは考えられない。それほど機嫌が良い彼を、つまらぬ遅刻で怒らせるなどあってはならないと、会社へ急ぐ矢先の話だ。

「だれでえ」

 路地裏の闇から、男はぬっと立ち上がった。黒いコートに、黒いメガネ。口元にはタバコが咥えられている。男はおもむろに携帯火種をコートの裏ポケットから取り出し、中に向かってふうふう吹いた。赤々と光が漏れる。その中にタバコを突っ込むと、火が点き、紫煙が辺りに漂った。

「実はな。ちょっとした用があってね。それで探してたのさ。……で、あんたはハチさんかい」

 嫌な予感がした。ハチもまた、サイトーの元で地獄を垣間見て、垣間見た地獄へ数多の人間を送り込んできた男だ。つまり修羅場を何度もくぐっている。命の危機も、数度ではない。ハチは男に背を向けると、懐から長ナイフを取り出した。

 恐らく、返事をすれば殺される!

「どうなんだ? なあ、ハチさん」

 男は、携帯火種からぶら下がった紐を引いた。蓋へと繋がるその紐は、引っ張る度に煌々と明かりを漏らす火種の穴へと近づいていく。空気が抜けるような音とともに、蓋が閉まり──煌々と辺りを照らす赤い光は消え失せた。

「知るか!」

 ハチは振り返り、ナイフを虚空へ突き出す! 男の姿はない! 闇に隠れ、タバコの火がわずかに残り香と炎を軌跡めいて残しながら、男はハチの左側に移動、ごりごりとこめかみになにやら押し付けているではないか。

 雲に隠れていた月がわずかに覗き、まるでハチの姿だけを浮かび上がらせるように、照らした。そのわずかな光が、男──ソニアの手に握られた、銃のシルエットのみを映し出す。トリガー・ガードの中に指は入っており──容赦なくそれを引いた。砕かれる頭蓋、昏倒するハチ。漂う硝煙。

「知らねえなら、これ以上聞かないさ」






 サイトーは、社内でのパーティから抜け出し、自室で寛いでいた。

 すべてが上手くいった。マサが死んだことなど、ちゃらになってお釣りが帰ってくるほどだ。忘れてしまう騎士ウォロックを操るには、得意の文書が効果的であった。契約とメモの捏造、たったそれだけで、あの騎士は自在に動いてみせた。当然だ。彼にとって依って立つのは、それしか存在し得ぬのだから。

 銀色のケースから、高級紙巻たばこを取り出し咥えた時──部屋をノックするものがあった。火をつける寸前にだ。なんとタイミングが悪い。用事次第でケジメにしてくれる。

「ハチか? 開いとるけえ入れや」

 開かない。ただ、ノックが繰り返されるばかりだ。サイトーは盛大に舌打ちをすると、椅子から立ち上がると、くわえタバコのまま扉へ近づいてゆく。空気の破裂するような音。小枝が折れるような音にも似たそれが、扉の外から聞こえてくる。何の音だ?

「開いとる言うとろ……」

「こんばんわ、神父です」

 なんと、扉の外で深々と礼をするのは、見知らぬ神父。カソックコートに、首から下げたロザリオを両手で握りしめている。いつ入り込んだのだ?

「し、神父様け? すまんが人死にでも出ん限りは、世話にならんことに決めとるけえ。それに、勝手に会社に入られたらかなわんけ、今すぐ出てってもらえんかの」

「そうおっしゃらず。普段は悩みを聞く側なのですが、実は金に困っておりましてね。お恥ずかしい話、信者がおらねばパンにも困る始末です。どうか、借金をさせてもらえませんか」

 そういうことならば、とサイトーは社長室へと彼を招き入れた。どんな時でもビジネスチャンスがあれば、たとえどこだろうと何時だろうと仕事を始めるのが、サイトーの流儀だ。応接セットのふかふかのソファーに神父を座らせ、自身はその向かいに座り、背の低い応接用テーブルに必要書類を用意して、準備完了だ。

「教会の土地はあんたの名義かいの?」

「確認した事はありませんが、恐らく」

「ほうかいの。神父様も大変ですのう……ま、金利は月十二分、とりあえず金貨十枚もありゃ、当分は過ごせるじゃろ。土地は担保に入れさせてもらいますけえ」

「これぞ神の導きあってこそです。感謝します」

 そう言うと、神父イオはうやうやしく十字を切った。サイトーは冷ややかにそれを見るばかりだ。そんな行為が何になるというのか。世の中は金で回っている。神など、肝心な時に何もしてはくれないのだ。

「ほいじゃの、ここにサインしてくれや。なんじゃったら、血判でもええですで」

「血判ですか」

「ほうよ。うちらみたいな信用第一のところじゃと、貧乏貴族なんかはようやるんですわ。自分の血で約束しとるけ、絶対守る、とか何とか言うての。よお払ったところなんか見やせんけどの」

 イオはロザリオを握り、持ち手を回転させた。三回転目。

「では、血判で」

「ほうですか。じゃあ、ここにお願いしますわ」

 ロザリオの先が、サイトーの眉間に当たる。彼の視界に広がるのは、イオの冷徹な無表情のみ。ぜんまいが回転し、鋭く長い針が高速で突き出て、サイトーの脳を貫く! それを引き抜くと、サイトーはそのまま崩れ落ち、書類の上に額をくっつけ絶命! イオは彼の頭を持ち上げると、刺突した傷から書類へとわずかに血が漏れ、寸分たがわぬ形で血判の形をなしていた。

 イオはそれを見届けると再びサイトーの頭から手を離し、ロザリオを逆回転させ針を仕舞うと、その場から去ったのであった。




 ウォロックは、鎧を来たままホテルへと向かっていた。サイトーからの借金でどうにもならなくなり、彼の言うことならなんでも聞き入れるという、まさしく息のかかったホテルだ。たとえ鎧を来てはいろうと、何も文句は言われない。

 元々彼はパーティーと言うのが苦手であったようだった。何しろ、そうした記憶が無いのだから、参加せねばわからない。難儀なことであった。

 ふと人気のない路地の途中に、大きな立て看板が設置してあった。ここは、行政府も利用する総合掲示板である。許可をとれれば、一般人が使うこともできるため、人々は時たまここで情報収集をするのだ。ふと彼がその立て看板を見ると、真新しい大きな紙が貼り付けられており、そこになにやら書いてあった。

「我が生涯は、忘失に次ぐ忘失の数々であった。この度大きな悪事に手を染め、自責の念耐え難く、この命を持って償いたい。以下は、サイトー金融なる金貸しと共謀し、我が手を染めた悪事の数々故、洗いざらい白状し、清廉潔白な気持ちであの世に旅立ちたく──ウォロック。ウォロックだと……」

「や、困りますよねえ」

 立て看板の後ろから、後ろでで手を組んだドモンがゆっくりと歩みながら現れた。

「こんな張り紙を勝手に貼られちゃ。しかしまあ、酷いですねえ、このウォロックって男は。忘れるからって自分の罪が消えるとでも考えてるんですかねえ。騎士が聞いて呆れますよ。あんたもそう思いませんか?」

「貴様ッ!」

 ウォロックはまるで船を漕ぐ櫂のごとき大剣をつなぎとめる金具を外し、膂力だけでそれを一気に振り下ろした! しかしドモンは既にその剣筋を見切っており、大剣は虚しく空を裂き地面へと突き刺さる! ドモンは抜き払った剣を突き刺さった剣へ振り下ろし、刃を半分に折った! しかしこれでようやく五分、ウォロックは鎧をまとっており、まともに剣を浴びせれば反撃されるのはこちらだ!

「貴公が誰か私は知らぬ。しかし貴公は私の敵! 今はそれで十分! 死ねい!」

 半分になった剣をウォロックは突き、払う! ドモンの剣はそれをいなし、絶命の刃をまるで流水に棒を突き刺す如く避ける! ウォロックは本能的に感じ取っていた。目の前にいるのは、戦いの中に身を置いてきた男──否、死地に自分を置き、相手を死においやってきた男なのだ! 油断すれば、斬られる! 刃で強引に地面を払うが、まるで地面がそのまま後ろへ動いたかのごとくドモンの体は後ろへ動いていた! 体の重心が変わらず、隙が無い! ウォロックは動揺、そしてその動揺が彼自身の隙を生んでしまった! ドモンは足を踏み込み、左横から刃を薙ぎ、ピタリとウォロックの首筋に刃をつけ、一気に引いたのだ! 以下に全身を守る鎧であろうと、鎧と鎧の間に刃を滑りこませれば、致命傷となる! 吹き出す血に思わずウォロックはのけぞり、背中を看板につけた。同時に、胴体の部分を固定する組紐が切れ、まるで垂れ下がるように鎧が前へと落ちる! 力なく振り上げられた剣を握る力も失われつつあったのを、ドモンは無理やり握りこませ──そのまま腹へ勢い良く振り下ろさせた!

「お見事な最期。……地獄でも覚えてられるといいがな」

 ウォロックは突き刺さった刃を引き抜こうと柄に手をかけたところで、彼は力尽きた。ドモンは剣についた血を振るって飛ばし、鞘に納めると、早々にその場を後にするのであった。






「ただいま戻りました」

 ドモンが家に戻ると、ダイニングテーブルの上で、珍しく妹のセリカが本と書類の前でうんうん唸っていた。仕事は持ち帰らない主義とか言っていたような気がするが、一体何があったのだろうか。気にはなるが、こういう時はあまり突つかないほうが身のためだ。

「あらお兄様、お帰りなさいませ。夕飯はそちらにカゴをかけてありますので、召し上がってくださいまし。私、忙しいので」

「珍しいですね。一体どうしたんですか? 論文の締め切りでも近いんですか?」

 セリカは魔導師学校の教師を務めており、その一環で魔法の研究もしているのだ。しかし、覗き見てみると、なにやら文章を書いているわけではないらしかった。

「……なんですこれは」

「これは、今巷で流行りの新型パズルです。なんでも、人間の頭脳と言うものは鍛えねば劣ってしまうとか」

 なるほど、見たことが無いはずだ。しかしパズルというが、ドモンの怠けきった頭では何も書けそうにない。何しろ、何がなんだかわからないのだ。

「ですから私も、今から脳を鍛えておくことにしたのです」

「そりゃ殊勝な心がけですねえ。ま、ほどほどにして早いとこ寝ることですよ。未来のことなんて誰にも分かりゃしないんですから。心配するだけ無駄ってもんです」

 言ってしまった後に、ドモンはあっと口を塞いだが遅かった。余計な一言であった。既にセリカの顔は良くない表情へと変わっており、ドモンを睨みつけている!

「や、その、今のはなんというか。今は無駄って意味で……」

「では、セリカがこのような事をしているのは全くの無駄と、そう仰りたいのですか」

「いや、ですからそういう意味じゃ……」

「そうですか。さぞかしお兄様はこのパズルが簡単にお見えなのでしょうね。では一問問いてみてください。簡単ならば、解き終わってから夕飯を用意しても遅くはないでしょう?」

 いうが早いが、セリカによって無理やり椅子に座らされたドモンは、そのパズルの意味不明さに目を回しそうになる! 元より努力も勉強も嫌いなのだ、セリカがわからないものを分かるはずがない!

「あの、さっきの言葉なんですけど……忘れてもらえません? これ何もわからないんですけど」

「挑戦する前に何をおっしゃっているのですか。これはお兄様のためでもあるのですよ。そのようなことでは、お兄様の脳は今にダメになってしまいます。それに、私は都合良く物事を忘れられるようにはできておりませんわ」

 ドモンはため息をつき、再びパズルを見て目を回した。いっそのこと、嫌なことは全て忘れてしまいたい。そんなドモンの目の前で、虚しくパズルは難解なままなのであった。





勿忘不要 終

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