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タオルベイビー

作者: 上村忍

例年になく暑い夏になった、とニュースで言っていた。

毎年毎年同じようなフレーズを耳にするような気がする。温暖化なのかどうなのかは、情報過多なこの時代、信じていいのかどうかもわからない。


ただ、バイクに乗るにはたまらないなぁ。と思う。


初夏、7月。北海道には梅雨はないというものの、6月はやはりアジサイのイメージがある。後は、かたつむり。アジサイは雨にぬれていなければ、アジサイとは言えない。


そして、7月。久しぶりの休みで、バイクに乗るにはもってこいの快晴だった。朝早く起きて、3時間ほど走らせた。特に目的もなくバイクを走らせる。空が高く感じる。


ある程度走った所で、大きくも小さくもない町に辿り着いた。まだ、日は高く登っていない。休みの日に朝早く行動すると、なんだか得した気分になる。


ふと、コーヒーの看板に目が行った。スピードを落として、ヘルメットを取る。さわやかな風が汗ばんだ髪をなでた。


冷たいアイスコーヒーでも飲もうと、店に向かう。田舎の街並みに似合う、こじゃれたカフェだった。いかにも、そういうのが好きな人が始めたような。


店先には、ソファーが一つ。オープンカフェにもなっているようだ。一人の若い女が、ベビーカーを横に置いてくつろいでいた。


平日のこんな時間にカフェとは、良い身分だなぁと軽くイラつきながら、店の扉に手をかける。

本日のお勧めのコーヒーは、店独自のブレンドだった。味は、可もなく不可もなく。脱サラして始めたカフェならこんなものかな?と思う。


店から出ると、さっきの女が目に付いた。ベビーカーの赤ちゃんをあやしているようだ。


「いない、いない~ばぁ!」


と、顔の前に両手をかざして赤ちゃんをあやしている。ほほえましい光景だったが、なんだか少し違和感を覚えた。


「いない、いない~~~~ばぁ!」


女はとても楽しそうにしている。何が不自然なのか?


声がないのだ。あやして、キャッキャッ言う赤ん坊の声がない。泣いている子をあやしているのなら、泣き声は聞こえるはずだ。


しかし、女の声だけが響いている。


ベビーカーの後ろしか見えないので、赤ん坊の顔は見えない。寝ているのだろうか?とも思ったが、寝ている赤ん坊をあやすこともないだろう。


少し、気になったが、アイスコーヒーを飲みながらバイクに寄りかかる。日差しはどんどん強くなっているようだ。


コップの端を加えながら、大きく伸びをした。バイクで固まった身体が嬉しい悲鳴をあげている。ギシギシ。


そんな時、ふと女と眼があった。軽く会釈をする。女も軽くほほ笑んだ。


コーヒーを飲み終え、ごみ箱に捨てようとする。ベビーカーの中が見える角度に身体が動く。


ベビーカーの中には、くるくると巻かれたタオルがあった。赤ん坊にいる場所に、タオルがあった。


本来ならば、赤ん坊が笑っている場所に水色のタオルがあるのだ。他の光景は何も違和感がない。タオルだけが、異質だった。


目がベビーカーにくぎ付けになった。女は、そんな目を気にしてかどうかわからないが、タオルを肩に抱き、あやし、揺らし始めた。


「よしよし、よしよし」


「よしよし、よしよし」


そこに、カフェの店員がやってきた。


「あら、暑くて泣いちゃったのかな?」

「そうかな?いっきに暑くなったもんね。よしよし。」

「いないいない、ばぁ!」


俺は、コーヒーのコップをゴミ箱に捨て、ヘルメットをかぶり、バイクを発進させた。


もうこの町には来ないだろう。と思う。


家に帰ると、お腹を大きくした奥さんが出迎えてくれた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「コップの端を加えながら」 銜えるかな? 常用外漢字なので、ひらいたほうがよいかも。 [一言] 何回か読んだのですが、 タオルが読み解けませんでした。 悔しいですw カフェというと…
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