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第7話

「ぐふふふっ、いやぁ、これからどうなるか楽しみっスねぇ」


 どうやら証券会社に行ってきた様子のアンジュ。


 楽しそうな笑みを浮かべながら、公園に戻ってきて、輪白とフレイトに合流した。


 ちなみに、もうボランティアは終了しているので、他の面々は帰った様子である。


「なぁ、アンジュちゃん」

「どうしたんスか?」

「一之瀬ウェポンズの株を空売りするって言ってたけど、空売りってなんだ?」

「さすがに精霊にはわかんないっスよね。まぁ端的に言うと、株価が高い時に証券会社から株を借りて、高い値段で市場に売る。で、株価が安くなった時に買い戻して証券会社に株を返す。その時の差額が利益になる。という話っス」

「「……?」」


 輪白とフレイトは首を傾げた。


「……株に対して妙な先入観を持ってないなら、今ので分かると思うんスけどね」

「もうちょっと身近な例で例えてくれねえか?」

「なら、例えば、私の友人が、中古点に行けば一万円で買い取ってくれるゲームソフトを持ってるとして、私は『来週返すから貸して』といって借りるっス」

「ふんふん」

「で、私は受け取ったゲームソフトを即座に中古点に行って一万円をゲットするっス」

「友達の持ち物を何だと思ってんだ!?」

「あっはっは! で、来週までに、アプデか何かで致命的なバグ……まぁ、セーブデータが吹き飛ぶバグが見つかったなら、価値が下がるっスよね」

「まぁ、セーブデータが吹き飛ぶゲームなんて誰もやらねえわな」

「そうなると、ゲームソフトは売られまくって、中古点に溢れて、価値がどんどん下がるっス」

「そりゃそうだな」

「で、仮に1000円まで下がったとするっス。ここで私は、ゲットしていた一万円の中から千円を出してソフトを買って、友人に返却するっス」

「アンジュちゃんは9000円儲かるってわけか」

「そういうことっスよ」

「……」


 フレイトは少し、考えている様子。


「なんつーか。そのシステムを考えた奴、友達いなさそうだな」

「ハッハッハ! 金融に人の心なんてないっスよ。こんなの序の口っス。とまぁこんな風に、高いうちに借りて売る。安くなったら買い戻して返す。こんな話っスね」

「要するに、現状、一之瀬ウェポンズという会社の評判はいいから株価が高いが、その、剣崎大哉ってヤツが失敗して株価が下がるから、その時の差額で儲けるって話か?」

「その通りっスね」

「なるほど、金融知識がほぼない俺様でも分かりやすかったぜ」


 フレイトは納得はしたようだが……。


「でもそれ、損をする可能性もあるんだろ?」

「もちろんっスよ。剣崎大哉なら、タングステン・グリズリーの攻撃をノーミスで回避し続けることは可能っス。あとは、宝箱から『反動を無力化するグローブ』みたいなアイテムを手に入れていたなら、倒せる材料は揃うっスよ」


 アンジュは輪白がタングステン・グリズリーの攻撃を防御し続けたところを見ている。

 攻撃パターンや速度に関しては十分わかっているだろう。


 その上で、剣崎大哉は、それらを回避することは造作もないらしい。


「一万トン近い瓦礫に埋もれても無傷で済むオーラを、真正面から打ち破れるってことか。大哉の才能もそうだが、一之瀬ウェポンズの技術力も相当だぜ」

「そういうことっスね」

「ただ、不可解な点があるんだが、聞いていいか?」

「ん? なんスか?」


 空売りに関すること。

 大哉がタングステン・グリズリーに勝てるかどうか。


 そのあたりについては、概ね、フレイトも理解できているはず。

 ただ、疑問に思う部分はあるらしい。


「その『反動を軽減するアイテム』だが、それに特化したマジックアイテムって、探せばありそうじゃねえか? アンジュちゃんから虹色のダメージスチールは買えなかったようだが、その分の資金はあるんだろ? なんでそっちを買わねえんだ?」

「ん~。もうちょっと詳しく頼むっス」

「サクリ素材は人体へのダメージを肩代わりしてくれるが、その性能は幅広く汎用的。それに比べて、『反動制御に特化したアイテム』なら、同じ価格でも性能が高いはずだぜ」


 アンジュは言った。


 剣崎大哉は、タングステン・グリズリーの攻撃を回避し続けることは可能だと。

 それなら、自分の攻撃による反動をアイテムの力で相殺できれば、問題なく攻撃できる。


 なら、『反動制御のグローブ』など、同じ価格でも、それに特化したアイテムを調達できれば、大哉は問題なく倒せるのではないか。


 その上で、何故、美澄涼花は『今の金で買える中で、一番質が良いダメージスチールを買ったのか』が、フレイトにはわからない。


「……知り合いの社会学者からの受け売りになるんスけど、いいっスか?」

「構わねえぞ」

「ダメージスチールをはじめとした『サクリ素材』は、今の時代の『安全神話』の象徴なんスよ。自動車の座席に組み込まれることもあるくらいにはね」

「ほう……」

「剣崎大哉は確かに天才っス。探索者である以上、命は掛けてるっスよ。でも、死にたがりじゃないんスよ」

「んー……」


 若干、ピンと来ていない様子のフレイト。

 それに対して、アンジュは少し、ため息をついた。


「端的に言うと、剣崎大哉ほどの天才であっても、『モンスターと戦うのは、怖いこと』なんスよ」


 その言葉に。

 フレイトは、腑に落ちたようだ。


「……なるほど、そんな怖いところに行くんだから、安全神話の根幹になるモノを持ちたがる。そういう話か」

「そういうことっス。戦闘において合理的に考えるなら、反動制御のグローブを買った方がいいっス。でも、反動しか制御できないアイテムだと、安心できないんスよ」


 ダメージスチールなどのサクリ素材によって、ダンジョン探索は民主化された。


 ただ、そもそも論。


 モンスターと戦うのは、怖いことなのだ。


 だからこそ、モンスターの攻撃を受けても肩代わりしてくれる素材を、全員が身に着けている。


「虹色の光沢をもつ高品質のダメージスチールは、3キロ5000万が適正価格っスけど、その理由も、なんとなくわかるんじゃないんスか?」

「だな、『世界最高レベルの安全』を提供する素材ってわけだ。むしろ安いくらいかもしれねえな」


 アンジュは肩をすくめた。


「まぁいずれにせよ。霧島たちには、光沢を偽造してる可能性を伝えてるっス。ぶっちゃけ、一千万で用意するなら白銀光沢になると思うっスけど、それが露見したとして、戦うかどうかを選べるのは、大哉じゃなくて霧島たちっス」


 大人というのはいつも、様々な時間制限に追われている。


 今回もそうで、仮にタングステン・グリズリーを倒す作戦が上手くいかなければ、都合が悪い人間が多すぎるのだ。


 そんな時に、戦うのが大哉たちとはいえ、『子供たちの意思』が通るほど甘い世界ではない。


 決められるのは、大人の方だ。


「ここからは、『大人の都合』っスよ」

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