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第6話

「よっしゃあああああああっ! 運ぶぜえええっ!」


 輪白がタングステン・グリズリーの攻撃を30分耐えた次の日。

 学校近くの公園では、草引きやゴミ拾いをやっている人が大勢いる。


 フレイトは、自分の後ろに連結された運搬車両(カーゴ)に、ゴミ袋を乗せて運んでいた。


「フレイト、楽しそうっスね」

「虹色に輝く運搬車両だ。テンション爆上がりに決まってらぁ! というわけで、カタリストリートのボランティアだが、俺様も全力で混ぜてもらうぜ!」


 ……ちなみに。


 そもそもフレイトはマスコットサイズであり、新規車両と言えど小さいことに変わりはない。

 しかし、大きなゴミ袋を適当に乗せても、倒れる様子もなければこぼれる様子もない。


 何らかの魔法によって制御しているのだろう。

 精霊魔法によって制御しているのか、高品質な素材で作った車両だから可能なのは、それはわからないが。


「意外とゴミ捨て場が遠いっスけど、これなら問題なさそうっスね」


 アンジュは公園でボランティアをしている人たちを見る。

 輪白はアンジュがみんなを見ているのを見て、自分も見た。


「……そういえば、みんなの腕。大丈夫?」

「大丈夫っスよ。姉様が持ち帰ってきた薬草で作ったポーションで完治してるっス」

「なら、よかった」

「ん? 何の話だ?」


 腕と、ポーション。

 何らかの怪我を連想する言葉が聞こえて、フレイトは聞いた。


「カタリストリートは不良グループみたいなもんスけど、そこに流れ着いた人たちの中には、『試作武器の事故』の人もいるんスよ」

「試作武器の事故? サクリ素材が普及してるんだろ? アレって武器からの反動も肩代わりしてくれるんじゃねえのか?」

「低ランクのサクリ素材で吸収できる分には限度があるっスよ。特に、『とにかく頑丈で、反動が全部手に返ってくるような武器』で限度を超えた攻撃をしたら、手や腕がぶっ壊れるっス」

「……サクリ素材はただ持ってるなら、ダメージを肩代わりするだけだからな。なるほど、嬢ちゃんの技術とも近い話か」


 タングステン・グリズリーとの戦いで、アンジュは言っていた。

 輪白の盾は、『とにかく頑丈』であると同時に、衝撃が全て手に集まる特殊な構造になっていると。


 しかし、輪白の場合は抜群な魔力操作によって、サクリ素材がダメージを肩代わりする際に、摩耗する代わりに成長させる。


 この仕様を持つからこそ、虹色の光沢をもつダメージスチールを作れるわけだが。


 一般的に、そこまで高度な技術を持っている人間はいない。

 モンスターの弱い攻撃ならサクリ素材に上手く流せます。という人はいる。


 ただし、反動が全て手に返ってくる特殊武器を全力で振った時に、サクリ素材に移すのは至難の業だ。


 輪白の技術と決して無関係ではなく、その中でも桁外れの技術を持っているが、一般人はそうではない。


「ふーむ……」


 フレイトは箒で掃除をしている人を見た。


 怪我をしている様子はない。

 しかし……腕が少し、震えている。


 その人以外にも、腕に何か、異常を持っていたような挙動をしている人が多い。


「……怪我をしてるようには見えねえが」

「姉様はダンジョンの奥にある採取スポットから薬草を持ち帰ることができるっス。それがあれば、怪我は治るっスよ」

「そっちは治るか」

「ただ、武器を振って、腕がぶっ壊れた時の激痛と恐怖は、怪我が治ったからって乗り越えられるもんじゃないっスよ」

「なるほど。そういった人を抱えることもやってるのか」


 輪白は言っていた。


 自分には、面倒を見なければならない子供たちがたくさんいると。


 ……輪白と同年代、もしくは年上の人たちも多いように見えるが。


 輪白の中では、『面倒を見なければならない子供たち』らしい。


「なんか、いい話だな。俺様も頑張るぜ!」


 フレイトは機嫌良さそうに、ゴミ捨て場にゴミ袋を運んでいった。


「む。私も持っていく」

「フレイトの車両って、重くても運べるっスけど、乗せるのが一苦労っスね」


 マスコットサイズであるフレイトの車両は小さい。

 一つ、何か大きなものを乗せる分にはまだ問題ないが、それ以上を乗せようとすると問題が出る。


「さてと、私も草引きっスね」


 持っているレジ袋から軍手を取り出した時だった。


「おやおや、誰が草引きなどやっているのかと思えば、わが社の元テスターじゃないか」


 公園の近くを通りかかった高級車。


 その窓から顔を出したのは、パリッとした高価なスーツを着こなした壮年の男だった。

 胸元には『一之瀬ウェポンズ』の社章が輝いている。


「あ……霧島、主任……」


 草引きをしていた若者の一人が、顔を引き攣らせて後ずさった。


 無意識のうちに、かつて粉砕されたはずの右腕を庇うように押さえている。


「訂正してくれたまえ。私は数々の功績が認められ、『開発部長』に昇進したのだ」


 霧島康臣きりしま やすおみ


 一之瀬ウェポンズの新任開発部長は、心底可笑しそうに口角を上げた。


「それにしても、立派な薬で腕は完治してもらったのかな? しかし、トラウマで武器も握れないとはね。探索者になる夢から逃げ出して、今は社会奉仕のゴミ拾いか。うん、実に君たち底辺にはお似合いの仕事だよ」

「……てめぇ!」


 若者の一人が怒りで声を上げるが、霧島は全く意に介さない。

 むしろ、やれやれと大げさに肩をすくめてみせた。


「そんなに睨まないでくれたまえ。私は君たちに感謝しているし、同時に『救ってあげた』とすら思っているのだ」

「救っただと……ふざけるな! あんたが規格外の反動が来る欠陥剣を、何も言わずに振らせたせいで――」

「欠陥ではないよ。超火力と超頑丈さに特化させた『最高傑作』だ。頑丈な武器を全力で振れば、強い反動が来る。安物のサクリ素材なら耐えきれずに腕が壊れる……動画サイトを見れば小学生でもわかる、探索者としての基礎リテラシーだ」


 契約書にも書いてただろう? と、嘲るように煽る。


 霧島は冷酷な自己責任論を、さも親切な説教のように並べ立てた。


「そんなリテラシーすら学ばずにテストに参加した君たちは、どうせいつか、本物のダンジョンの奥深くで準備不足のまま魔物に無惨に殺されていた。だから私が、この安全なテスト環境で『諦める理由』を与えてやったんだ。命があるだけ、私に感謝してほしいくらいだよ」

「……っ!」


 完璧なまでの自己正当化。


 おそらく、試作武器のテストの際、契約書に『会社側が怪我に対して責任を負わない』といった文言が入ってたのだろう。


 ならば、テスターたちが欠陥武器を振って怪我をしようと、会社が賠償を払う責任はない。


「……『誰かの犠牲』にタダ乗りしてるだけの分際で、よく言うっスね」


 たまらず、アンジュがため息交じりに前に出た。


「おや、君は?」

「ただの通りすがりの清掃員っスよ。それで、その新任の部長サマが、こんな公園でわざわざイキり散らして何の用っスか?」


 アンジュのジト目に、霧島は不快そうに眉をひそめたが、すぐに自慢げな笑みを取り戻した。


「視察のついでだよ。明日の……いや、今日の午後だな。学園が総力を挙げる『重要作戦』の生放送がある。ミリオネア・ラウンドのエース、剣崎大哉君が、ウチの最高傑作である大剣を使うのだからね」

「へぇ。大哉がねぇ」

「剣崎君は、君たちと違って本物の才能とリテラシーを持っている。彼ほどの才能なら、あの絶対の頑強さを持つ『タングステン・グリズリー』のオーラごと、3分以内で粉砕してみせるだろう」


 クククッ、と霧島は微笑む。


「才能のない探索者が諦めるのは当然。完璧な探索者が成果を出すのは予定調和だ。ウチの会社の歴史が変わる瞬間を、底辺から這いつくばって見上げておきたまえ」


 霧島はそれだけ言い放つと、ふん、と鼻を鳴らして窓を閉めた。


 その時、アンジュは、運転手のところに近づいて、呟く。


「……作戦に使うサクリ素材、外見だけコーティングした偽装品の可能性があるっスよ。このままだと、大哉の腕もろとも吹っ飛ぶっス。大人なら、ガキのおもちゃくらいちゃんと点検することっスね」


 運転手は一瞬、アンジュの方を見ようとしたが……。


「おい、そんな難癖を聞いてる暇はない。さっさと車を出せ」

「……はい」


 高級車はエンジン音を響かせ、公園から走り去っていく。


「……くそっ! あんな奴の作った剣で……!」


 残された若者たちが、悔し涙を流しながら地面を叩いた。


「まあまあ……ちょっと、怒ればいいのか楽しめばいいのかわかんなくなってきたんで、そんな悔しがる必要はないっスよ」

「えっ?」

「一之瀬ウェポンズが重要作戦に関わってることは確定。そして、挑む相手はタングステン・グリズリーっスか。面白い偶然っスね」


 涼花とのやり取りから、アンジュが『ミリオネアには重要作戦がある』ということは知っていた様子。

 ただ、その挑戦相手がタングステン・グリズリーだとは知らなかったようだ。


 しかし、霧島の言葉を聞いて、頭の中でパズルのピースがうまくハマった様子。


「フフッ……クククッ」


 アンジュは悪い笑みを浮かべた。


「ただいまだぜ! あれ、アンジュちゃん。どうした? そんな悪い顔して」

「ピザが空を飛んでたの?」

「姉様の家のリビングじゃないんスから、ピザが宙を舞うことはないっスよ」

「嬢ちゃんの家ってピザが宙を舞うんかい……」


 フレイトは呆れた様子。


「姉様。ちょっとみんなを任せていいっスか?」

「いいけど、どうしたの?」

「ちょっと証券会社にね。信用枠の限界まで、空売りを仕掛けるために株を借りに行くんスよ」

「「……?」」


 空売りがよくわからない様子の輪白とフレイトであった。


 この場で言えることは。


 アンジュが、『とんでもない利益を出そうとしている』ということである。

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