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第1話

 ガキンッ! ゴキンッ!


「オオオオオオオオオオオッ!」


 三メートルはある赤鬼が、金棒を振り下ろす。

 振り下ろした先にいるのは、一人の少女だ。


 感情が読み取れない無表情だが、長い白髪の下にある顔は、可愛らしい。

 身長は低いものの、胸はよく育ったやや不釣り合いな体格で、持っているのは一つの丸盾だ。


 金棒が何度も何度も振り下ろされるが、それは少女が構える丸盾に阻まれて、少女の体を一ミリも後ろに下げることはない。


 明らかに物理法則を無視した防御を繰り返す少女。

 右手には盾を持ち、左手には何も持っていない。


 攻撃する意思が、感じられない。


「ゴオオオオオオッ! オオオオオオオオ……オ、オォ……」


 狂戦士のように何度も何度も金棒を振っていた赤鬼だが、突如として、エネルギーを使い果たしたかのように、地面に倒れる。

 そのまま、キラキラ光る石……魔石を残して、塵となって消えていった。


「……ん」


 白髪の少女は魔石を拾い上げると、それをポケットにしまった。


「……む?」


 スマホのアラーム音が鳴った。


「……時間だ。戻ろう」


 スマホのアラームを解除して、少女は、石造りの廊下を歩いて行った。


 ★


 石造りの廊下から、ゲートを潜ると、ダンジョンから外に出ることができる。


 数十年前にダンジョンが出現し、人類が魔法を手にした現代。

 ダンジョンに出現するモンスターを倒すことで、エネルギー源となる魔石や、特殊な効果を持った素材が手に入る。

 採取スポットを利用することで、現実ではありえない性質の金属や植物を手に入れることも出来る。


 そんな探索者たちが活躍する時代。


 政府だけでは管理しきれないダンジョンは、とある物質の発見とともに探索が民主化され、ライセンス制度の導入とともに、探索するための専門学校も出来ている。


 当然、『授業の実技』として、ダンジョンに潜ることも、昨今では珍しくない。


「はい、換金が終わりました」


 白髪の少女……ブレザー型の制服とミニスカートを着た彼女もまた、魔石と共に、『都丸輪白(とまるわしろ)』と記載されたライセンスカードを提示する。


「……ありがとうございます」


 カードを受け取って、ダンジョン管理支部のロビーに行く。


 そこには、少女、都丸輪白のクラスメイト27人と、担任の先生が待っていた。


「全員、換金が終わったな。お、剣崎(けんざき)班のパーティーが一番稼いですな。さすがだ」


 担任がタブレットを見ながらそういった。


 名前は呼ばれた少年、剣崎大哉けんざきだいやは、ニヤニヤしながら答える。


「当然ですよ。俺は学内三大ギルド、『ミリオネア・ラウンド』のエースですから。それに、今回の3人パーティーは、いつも組んでる涼花(りょうか)天姫(あまき)の二人。これで稼げなかったら面目ないですよ」


 自信あふれる口調と共に、二人の少女を見る。


 名前は、美澄涼花(みすみりょうか)と、六髪天姫(むがみあまき)


 どちらも、紛れもなく美少女だ。


 涼花は茶髪を伸ばしたギャル風であり、腰の短剣は業物だ。

 大哉と似たニヤニヤした表情だが、少し、輪白を睨んでいる様子。


 天姫は黒のショートカットで、髪の一房が、六色のメッシュになっているという、かなり特徴的な見た目をしている。両手で抱いている杖は、なかなかお目にかかれない宝石を埋め込んだ特注品。

 こちらは、特に興味なさそうに欠伸している。


「三大ギルドに所属。しかもエースパーティー。紛れもなくこの学校の顔だからな。稼ぎをパーティー人数で割った一人当たりの平均でも、剣崎たちは断トツだ。みんな、三人を見習うように」


 担任はそこまで言った後……輪白の方を見た。


「それに比べて……都丸。こんなこと言いたくないが、真面目にやったのか?」


 明らかに、クラスメイトの前でいうことではない。

 ただ、輪白は、眉一つ動かさなかった。


「もちろん」

「それにしては、稼ぎが一番少ないぞ。いったいどこで稼いでたんだ?」

「『バーサークエリア』で」

「バーサークエリアって……モンスターの戦闘力が高くなるけど、時間経過で倒れる奴か?」

「そう」


 輪白は頷いた。


「……先生も情報は持ってるが、倒れるまでにそこそこ、時間がかかるだろう?」

「かかる。でも、盾で防いでいれば倒せる」

「いや、都丸。それじゃダメだろう」


 担任はため息をついた。


「盾で防ぐだけで一切攻撃しないなんて。授業中は換金額が多くなるんだぞ? せっかくの稼ぎ時なのに、攻撃せず守るだけなんて、サクリ素材の無駄遣いだろうに」


 サクリ素材。


 ダンジョンが出現してしばらくして発見された素材であり、『人体へのダメージを肩代わりし、破損が一定を超えると塵となる』という素材だ。


 サクリは『サクリファイス』を意味しており、これがあることで、危険なダンジョン探索が民主化されている。


 攻撃の反動による手の痺れすらも肩代わりできる優れモノだが、とても消耗が激しい物質でもある。


「それに、以前はダガーを使って探索していたらしいじゃないか。探索科高校の生徒が効率よく稼がないなんて、進学校で勉強しないようなものだぞ? 盾で防ぐだけなら、探索者である必要はないんだ」

「……」


 担任の言葉に、輪白は何も言わない。


「だから、都丸。みんなと一緒に稼げる方法で、ダンジョンに潜りなさい」


 ★


「え、Lサイズピザが3枚で、5100円になります。お、お持ち帰りですか?」

「ここで食べる」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫。問題ない」


 授業が終わってすぐに売店にて。

 探索科学校は、主に、午前中が授業で、午後は生徒たちが探索のための準備したり、ダンジョンに潜ったりする時間だ。

 昼は大勢が体を動かすためのエネルギー補給として、飲食店は人が多くなる。


 そんな中、高校一年生とはいえ、小柄な輪白がLサイズ三枚のピザを頼むというのは、カウンターのお姉さんからすると少々不安だ。


 ただ、輪白は余裕そうな表情で会計を済ませて、ピザを運んでいる。


 そのままテーブルに座って、直径32センチの、チーズがたっぷりかかったピザにかぶりついた。


「ん~……♪」


 満足そうな表情である。


 あつあつのチーズとサラミが、ダンジョンで極限まで酷使した脳の疲労を溶かしていく。


 彼女にとって、この放課後のジャンクフードこそが最大の報酬だ。


「……ちょっと。あんた、またそんなバカみたいに食べてるわけ?」


 ふいに、背後から声が降ってきた。


 ピザを頬張ったまま振り向くと、そこにはクラスメイトの剣崎大哉と美澄涼花が立っていた。


 腕組みをして輪白をねめつけているのは涼花だ。


「なによその余裕。最前線でサクリ素材を削りながら戦ってる大哉や私たちと違って、盾を構えてるだけのくせに。なんであんたみたいに無駄食いしてる無能が、そんなプロポーション維持してんのよ」


 涼花が手に持ってるのは、コップに野菜スティックが盛られたものだ。


 対して、輪白は、チーズがたっぷりかかったピザを頬張って、むしゃむしゃ食べている。


 ……正直に言えば。

 胸は輪白の方が大きく、腰は輪白の方が細い。


 もちろん、体質の差はあるだろう。

 ただ、『盾を構えているだけの稼げない無能』が食べまくっているのは、癪に障るようだ。


「涼花。そこまでにしておけ」

「えっ……」

「こだわりがあるんだろうさ。役に立つなら俺のパーティーに入れてやってもよかったが、モンスターのヘイトを稼ぐことも、反撃もしないなら役に立たねぇ。そんな奴、変わらないなら放っておけ」

「……それはそうね。私たちは何十倍も稼いでるんだし」


 見下すような態度を隠すこともなく、涼花は輪白に背を向けた。


「今度、重要作戦があるの。アンタじゃ絶対にたどり着けない強さを見せてあげるから、楽しみにしてなさい」


 そういって、涼花は去っていった。


「……何しに来たの? あの人」


 純粋な疑問が輪白の口から洩れた。


 ★


 ガキンッ! ゴキンッ!


「シャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 授業で入っていた場所とは別のダンジョンにて。

 輪白は相変わらず、盾を構えて、頭がトカゲで、サーベルを持ったモンスターの攻撃を盾で受け続けている。


 モンスター側は一心不乱。と言った様子だが、輪白は涼しい顔だ。


「……ん、そろそろ」


 輪白は盾のグリップにあるトリガーを引く。


 すると、盾に仕込まれている蓋が手前に開いて、鉄のインゴットが出てきた。


 それは市販の鈍い色ではなく、虹色の波紋をギラギラと放っている。


 輪白はそれを素早く抜き取ってポーチに入れると、別の、普通のインゴットを窪みに突っ込み、蓋を閉じる。

 ただ、それ以降は特に変わった様子はない。


「シャアアアアッ! あ、アァ……」


 このモンスターも、先ほどの赤鬼と同じタイプだ。

 時間経過で自滅する。


 サーベルで攻撃し続けていたが、ついに、倒れた。

 魔石を残して、塵となって消える。


「ノルマ達成……ん。安全エリア。あそこで携帯食料を食べよう」


 モンスターが入ってこない安全エリアがダンジョンには定期的に存在する。


 そこに入って、休んだり、武器を研いだりする。


 輪白は魔石を拾って、安全エリアに入ると……。


「……ん?」


 不思議なものがあった。

 なんというか……『オモチャの列車』みたいなものが、安全エリアの端の方で、倒れている。


「……ん? 誰か来たのか?」


 その列車からも、声が聞こえた。


「俺様はフレイト! 素材を使って新しい車両を増やし、世界一の精霊列車を目指すナイスガイだ! ……つーわけでそこの嬢ちゃん。見ての通り、俺様は倒れていてな。車輪を回してもうんともすんともいわねぇ。ちょっと起こしてくれねえか?」

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