ダンジョンに再び
本日2回目の更新です。
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──ダンジョンに再び
シャワーを終えると俺は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを2本取り出し、1本をサタナエルに手渡す。
「ありがとうございます、旦那様」
「気にするな。衣食住の面倒は見ると言っただろう」
俺がペットボトルの蓋を開けるのとサタナエルも同じように蓋を開けた。
「明日からまたダンジョンに潜る。ついてくるんだよな?」
「はい」
「そうか。なら、止めはしない」
こいつがうっかりダンジョンで死ぬようなことはないだろう。
むしろ、ダンジョンにいた方が安心できるかもしれない。
街中でドラゴンになられたら、俺にもどうしようもなくなるのだから。
「ところで、旦那様。これまで潜られた最深の深度は?」
サタナエルがそう尋ねる。
「……49階層。ソロではそこが限界だ」
あらゆる準備をして、万全の状態で挑んでも49階層が俺の限界だった。
熊本ダンジョンで人類がもっとも深く到達した階層が69階層であることを考えると、俺の到達した地点はまだまだ浅い。
「そうですね。ダンジョンはまだまだ深い。最深部に到達するのは難しい」
サタナエルはそう言って頷く。
「ですが、ボクがお手伝いしますよ。そうすれば最深部にだって到達できるでしょう」
「そうかい。そいつはありがたいね」
俺はあまり期待せずにそう返事した。
サタナエルを戦力としては数えていない。こいつは不発弾みたいなものだし。
「じゃあ、今日はもう寝るぞ。お前はベッドを使え」
俺はそう言い放ち、ソファーの上に横になった。
* * * *
翌朝、俺は目覚めるとぎょっとした。
サタナエルが赤い瞳で俺の方をじっと見つめて座っていたからだ。
「……何をしている?」
「旦那様の寝顔が可愛かったので、ついつい一晩中眺めてしまいました」
「つまり寝ていないのか?」
「ボクは寝る必要はないんですよ」
「そうだったな」
寝る必要も、食事の必要もないと言っていたな、確かに。
「しかし、朝飯は準備してやる。俺だけ食べるのは罪悪感が湧くからな」
「お優しい旦那様。そういうところも好きですよ」
俺は買い込んでおいたパンをサタナエルに与える。
トーストした食パンで俺はジャムを塗って食べ、それからビタミン剤とプロテインで栄養を補給しておく。
シンプルな朝食なのだがサタナエルは始終にこにことしていた。
「飯を食ったらダンジョンだ」
朝食を終えると俺たちは装備を整えて、ダンジョンに向かうことに。
ダンジョンには今日も大勢が集まっている。
ダンジョンで富を得ようと言うものは、俺だけではないのだ。
そんな中で俺は見知った顔を見つけた。
「九条」
「あ! 佐世保さん!」
以前よりまともな装備を持った九条が俺の方に手を振る。
今回は拳銃だけではなく、.308ウィンチェスター弾を使用する狩猟用のボルトアクションライフルも手にしており、軽量のものながらボディアーマーも身に着けていた。
それに何より今回は仲間がいるようだ。数名の女性探索者が一緒に行動している。
「あれれ? そっちの美人さんは? もしかして……彼女!?」
「こいつは説明すると長くなるが、彼女とかじゃない」
九条がちょっとショックを受けた様子で言うのに俺は首を横に振る。
「はい。ボクはこの方のお嫁さんです」
「お、お嫁さん! 佐世保さん、既婚者だったんですか!?」
サタナエルが相変わらずの感情のない笑みでそういうのに事態はややこしくなった。
「違う、違う。こいつが一方的に言っているだけだ」
「そ、そうなんですか? ひょっとしてストーカーですか?」
「分類するとすればそれだな」
「大変ですね……」
俺の方を同情の眼差しで見てくる九条。
「そっちは仕事中か?」
「はい。これから研究機関の依頼でダンジョンの調査を行う学者さんの護衛です」
ダンジョンにかかわる探索者にはいろいろと仕事がある。
単純にダンジョンから金銭を持ち帰るだけではなく、九条が引き受けたダンジョンを研究する学者の護衛やダンジョンのマッピング、メガコーポが行う採掘調査のための掃討作戦などなど。
駆け出しでそうそう深部に潜れない探索者たちは、この手の依頼をこなして装備を整えるための金銭を稼いでいる。
「あの、よければ途中まででいいので佐世保さんも同行してもらえませんか? 私たちダンジョン初心者ばかりで、ちょっと心配なんです」
「ふむ。どこまで潜るんだ?」
「5階層です」
俺は今日は10階層のエリアボスが再生していないかまずは調査するつもりだった。
その次に目指すのは50階層。俺がまだ到達出来ていない階層だ。
「分かった。同行しよう」
10階層まで行くついでだ。俺も助けた人間が無意味に死ぬのは見たくない。
「ありがとうございます! では、よろしくお願いしますね!」
「ああ」
それから九条たちのパーティに俺とサタナエルは一時的に加わった。
九条と組むのは3名。
ひとりはショットガン、ひとりは短機関銃とライオットシールド、そして最後のひとりは日本刀である。
「それは超高周波振動刀か?」
俺は刀を下げている人間にそう尋ねる。
黒髪をポニーテールにして紫のメッシュを入れた小柄な女だ。
体には他の人間同様に迷彩服。
「そうっす! お兄さん、皇さんのご友人ですよね?」
「ああ。やつとは付き合いがある」
「それなら自己紹介を。あたしは桜庭凪っす。いずれは皇さんを越えて、最強のサムライになる女っすよ!」
日本刀を下げた女は桜庭と自己紹介した。
「お前もサムライ志望か。大変な道だぞ」
サムライ──。
ダンジョン探索者のポジションのひとつであり、近接戦に特化した人間を指す。
身体を機械化していることが前提条件であり、高熱で相手を切断するヒートソード、または超高周波振動刀を用いる。
皇も体の50%以上を機械化したサムライだ。
「お待たせしました、皆さん」
そこで依頼主だろう作業服姿の中年と初老の男2名姿を見せた。
作業服に白いヘルメットといういかにもなダンジョン外から来た人間の恰好だ。
それに武器ではなく、ツールボックスなどの調査道具を手には下げている。
「藤田と松本と言います。この度はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします!」
中年の方は藤田、初老の方は松本と名乗って男たちは名刺を取り出して九条たちに手渡す。
俺にも渡された名刺を見たが、どうやら帝国大学の学者先生らしい。
「それでは行きましょう」
「ええ」
そして九条がそう言い、桜庭を先頭に俺たちはダンジョンに潜る。
俺は最後尾に付き、後方の警戒に当たった。
「藤田さんたちはダンジョンは初めてですか?」
「いえ。以前にも1度だけ。そのときは1階層の調査を行っただけですが」
九条が尋ねるのに藤田がそう答える。
「そもそも何を調査するんっすか?」
戦闘で視線を走らせて警戒しながら桜庭が尋ねる。
「私たちはダンジョンの発生原因を調べているんです。この空間がどこから現れたのかということを」
「へえ」
質問しておきながら桜庭は興味なさそうにそう返す。
「皆さんは地獄の声という都市伝説を聞いたことはありますか?」
しかし、そこで不意に藤田はそう尋ねてきた。
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