ドレスアップ
本日7回目の更新です。
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──ドレスアップ
俺、サタナエル、そして皇は商業地区にある服屋を訪れた。
探索者が主にダンジョンに潜る際に身に着ける作業服を売っている場所だ。
厚手の迷彩服がメインであり、女性向けのサイズのものもあるが洒落た服はない。
「ここで揃えるのか?」
「あんたと一緒に行動するなら、ここにあるような服は必要だろ? そのひらひらドレスでダンジョンをうろつくわけにはいかないしさ」
「それもそうだな」
俺はほとんどの時間をダンジョンで過ごしている。
それについてくるなら洒落た服より実用性のあるものだろう。
「ほら、サタナエル。あんたの服を選ぶんだよ」
「ありがとうございます」
サタナエルは素直に従い、皇があれこれを持ってくる服を試着した。
素体がいいだけあって、どんな服を着ても似合う。あまり認めたくはないが。
本来ならばファッション性など皆無の服を着ていても、モデルのようなのだ。
「どうだい、佐世保?」
「ほう……」
最終的にサタナエルは上下の迷彩服とネイビーブルーのジャケットを購入した。
武器を持たせるつもりはないのでタクティカルベストの類はない。
「どうです、旦那様?」
「似合っている、一応は」
「ふふ。ありがとうございます」
俺が認めるのにサタナエルはこれまで通りに微笑んでいた。
向こうも一応は喜んでいるのだろう。
「じゃあ、会計よろしく、佐世保」
「はあ。了解だ……」
皇は俺に奢ってやるつもりなど欠片もなく、俺は渋々と金を払った。
俺の金が万単位でぱらぱらとウォレットから出て行ってしまう……。
ああ。俺の稼ぎが……。
「次に行こうか」
「……んん? 次とは?」
「あんたねえ。女の子に服一枚で過ごさせるつもりかい? 普段着やら寝間着やら余所行きの服やらいるだろう?」
「マジか」
そこまで俺が面倒見なければいけないのか?
そう思って俺はサタナエルの方に視線を向ける。
「流石に旦那様にそこまで出費を強いるわけにはいきません」
「そうか」
「ですが、買っていたただけたら嬉しいです。今度は皇様ではなく、旦那様に選んでいただきたいですから」
「そうか……」
そう言われたら買うしかなくなるだろう。
「皇。リーズナブルな店を紹介してくれ」
「あいよ。こっちだ」
皇は次の店に俺たちを案内した。
次の店はカジュアルなファッションの店で、様々な女物の服が並んでいる。
「旦那様。選んでくださいますか?」
「ああ。そうだな……」
俺は数ある服の中から値札に注意しながら服を選ぶ。
サタナエルの色である白に合うと言えば……。
「これなんかどうだ?」
俺が示したのは黒のブラウスと白いロングのスカート。悪くないと思うのだが。
「白黒かい? もうちょっと華やかにしなよ」
「うるさいな。サタナエル、お前はどう思う?」
皇は不満そうにそう言うがこれを着るのはやつではない。
「ええ、ええ。素晴らしいと思います」
サタナエルは嬉しそうに頷き、そっと服に手を触れた。
「旦那様が選び、ボクに与えてくださる最初の贈り物ですね」
「そうなるな、一応は」
「ふふ。嬉しく思います、旦那様」
それからサタナエルはその服を試着し、サイズが合っていること確認した。
俺の選んだ服を着たサタナエルは……確かに似合っていた。
こいつは何を着ても似合いそうだが、この服着てると深窓のお嬢様みたいだ。
「皇。今日は助かった」
「こっちこそ10階層のドラゴンをどうにかしてくれたわけだから礼を言わないと」
「ところで九条の方はどうだ?」
「まずは装備を整えるために簡単な仕事をやらせてるよ」
「そうか。そっちもよろしく頼む」
俺は皇にそう言い、皇は無言でサムズアップする。
それから俺たちは別れ、俺とサタナエルは俺の済む住居に向かうことに。
俺に家はダンジョンの周りに構築されたメガコーポによる無法地帯と日本の主権が及ぶ地域の境目にある。
治安はいいとは言えないが、ダンジョンの中心部よりマシってところだ。
だから、ある程度は暮らしやすい。あくまである程度は。
そういうわけなので治安が全くいいわけではなく──。
「よう、おじさん」
俺とサタナエルの前に鉄パイプや拳銃を握った3名の若い男たちが姿を見せる。
顔や首筋、腕と言った見える場所に入れ墨を掘った集団である。
揃ってスキンヘッドにしている辺り、探索者崩れのギャングの類か。
探索者としてダンジョンで生活することを投げ出し、クリーチャーより弱い人間を相手にすることを選らんだ臆病者ども。
ここらにいる犯罪者の中では、まあマシな部類だろう。
「どうした? 俺たちに何か用事か?」
俺はすぐに超高周波振動ナイフを抜けるように背中に手を伸ばす。
拳銃も装備しているが、そちらを抜こうとすればすでに武器を構えている敵の方が早く動くだろう。
「用事があるのはそっちにお嬢ちゃんの方だよ。可愛い子、連れてるじゃん?」
男たちは情欲の滲む視線でサタナエルの方を見ている。
予感的中というべきか。サタナエルほどの美人ならば幼女の姿でなくともちょっかい出されるってものか……。
「悪いことは言わん、未来のあるガキども。こいつはやめておけ。後悔するぞ」
「へえ? 言うじゃん。いいからその子おいてとっとと失せろよ、おっさん」
「はあ……」
俺はサタナエルの方に僅かに視線を向けた。
俺の買ってやった服を大事そうに着て、にこにこと笑っている。
「血で汚すわけにはいかん、か」
「何をぐだぐだと──」
俺は次の瞬間、地面を蹴っていた。
脳に叩き込まれた強化脳インプラントが作動して神経を刺激する。
それによって俺の体感時間が急激に遅延。
スローモーと呼ばれる現象が人為的に生み出され、機械化された足が地面を砕くように力強く駆けさせて男たちが引き金を引く前に俺は拳銃を握った男に肉薄。
「あ──」
俺が腰から抜いた超高周波振動ナイフが一瞬で男の頸動脈を引き裂く。
鮮血が鉄パイプを握っていた男に降りかかった時点でようやく連中は何が起きたのかを理解したようだった。
真っ赤な血が間抜けに口を開いたままの男の顔に飛び散り、そちらに向けて俺はナイフの刃を向ける。
無防備そのものだった男の首を走る。頸動脈が外科手術のように綺麗に切断され、再び鮮血が舞う。
「う、うわあああっ!」
悲鳴を上げることができたのは3人目だけだった。
そいつは口径9ミリの拳銃の銃口を俺に向けて引き金を引く。
狙いは滅茶苦茶。だが、それゆえに防ぎにくい。
俺は四肢とバイタルパートを骨代わりのチタン合金で覆っているが、それでも無敵というわけではないのだ。
「旦那様に手出ししないでいただけますか?」
ぞっとするような女の声が、サタナエルの声がそう言い、その次の刹那に男が炎に包まれた。
ナパームのようなねばりつく炎。だが、その色は青白く、男は松明のように燃えながらのたうちやがて動かなくなった。
残ったのは未だ炎がくすぶる焼死体と2体の斬殺死体。
こんな死体が転がっていてもこの街は気にしないだろう。
「ふふ。旦那様はやはりお強い」
俺が振り返るとサタナエルが目を爬虫類のそれにして微笑んでいた。
「あなたの強さには芯がある。絶対にぶれない魂があります。ああ。素敵です……」
そう言ってサタナエルが俺に抱き着こうとするのに俺は身を引き、彼女をトンと押し返した。
それに対してサタナエルから笑みが消えて、無表情に俺の方を見つめる。
「よせ」
俺は言う。
「せっかく買った服だ。血で汚れないようにしろ」
今の俺は2名の馬鹿の返り血を浴びている。抱き着けば服が血で汚れる。
「ふふ。お優しい、旦那様……」
「行くぞ。帰ってシャワーを浴びたい」
俺の言葉にサタナエルは笑うと俺とともに自宅に向かった。
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