陽動
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──陽動
「へえ! じゃあ、あんた事実上ナイフ一本でドラゴンを殺ったてのか!?」
道中の車内で俺の話を聞いた四月一日が大げさに驚く。
「お前だってサムライだろう。刀一本でドラゴンを殺すんじゃないのか?」
「冗談言うなよ。サムライは他の連中とつるむのが前提だ。知ってるだろ?」
「まあ、一応は」
サムライだけのパーティは存在しないと言っていい。
サムライは不意な遭遇戦に備えるための人間で、普段は銃を持った他の仲間がカバーするのが鉄則だ。
「だからさ。マジであんたはすげえんだよ。サムライだって刀一本でドラゴンは殺せない。焼き殺されるか、食い殺されるか、あるいは踏み殺されるかだ。あんたはいずれでもなく生還したばかりか、ドラゴンを殺したときた」
現代のジークフリートだぜと四月一日。
「本当に尊敬する。マジでな。あんたとこうして一緒に仕事ができるのは光栄だ、切り裂き魔」
「そうかい。お前もそれなりにできるように見えるが?」
こいつは一目見てサタナエルとマルキダエルのことを見抜いた。
そして、見る限りこいつもかなりの割合を機械化している。
80%以上とはいかないだろうが、80%以上はいかれた数値だからな。
「大井に腕は買ってもらっているが、最近じゃ要人──司馬さんの警備ばかりでな。正直、腕が鈍っているんじゃないかって心配している」
「今回はその司馬は?」
「東京の本社にいる。あの人は外にも内にも敵ばかりだが、本社で襲われることはないって思ったんだろうさ」
「ふうん。お前も東京についていく気はなかったのか?」
「言っただろう。腕が鈍っていないか心配だった、と。だから、ちいと頼み込んで今回の仕事に混ぜてもらったわけだよ。何人か斬り殺せばはっきりする」
そう言って愉快そうに笑う四月一日。
「なら、ジョン・ドウとは知り合いか?」
「おいおい。ジョン・ドウの上役が誰か分かってないのか? 司馬さんだぞ?」
「……それは知らなかったな」
ジョン・ドウは大井の中でもそれなりの人間だと思っていたが、やつはただの使い走りらしい。
いや、司馬の地位が高いならば異なるかもしれないが。
「ま、そういうことで今回の仕事は俺の慣らし運転だとも思ってくれ」
「はあ」
こいつは真面目に仕事をやる気はないのだ。
ただ殺したいだけだ。
人殺しで金を貰っているのは俺も同じだが、こいつは軽すぎる。
「……確認したいが本当に皆殺しにするつもりか?」
俺は低く警戒する声で四月一日たちにそう尋ねる。
「あんたは嫌そうだな?」
俺のそんな態度から流石に四月一日も察したのか、にやりと意地悪く笑ってそう尋ね返してきた。
「ああ。偵察してきたが、中には民間人もいる。非武装の女子供だ」
「だが、教団のメンバーではあるんだろう?」
「それはそうだが、本当に皆殺しにしろと言われているのか?」
俺は疑問を呈する。
本当に命令は発されたのか。発されたとすれば誰からか。そしてその理由は何か。
それに納得できなければ俺は従えない。
「メガコーポの連中はお上品な言い方をするんだよ。直接、皆殺しにして来いなんて言わない。『我々の脅威になっている団体について最終的解決をしたい』って風にな」
「最終的解決、か」
それはユダヤ人を絶滅させることを決意したナチ・ドイツの決めた政策の名前だ。
それならば確かに皆殺しをオーダーする意味と受け取るだろう。
「なら、直接は皆殺しを指示されていない、と。なら、俺が皆殺しにしなくても報酬は出ると言うわけだな?」
「だろうな。だが、本当にいかれたカルトの連中に慈悲なんてかけるのか?」
「いかれたカルトにも事情はある」
夫を亡くし、迷宮寺院に利用された九条の母のように。
「ふん。まあ、考えておいてやるよ」
四月一日がそう言ったときに装甲バンが停車した。
どうやら位置に付いたらしい。
「さあ、仕事だ。面倒くさい話はあとにしようぜ」
結局、四月一日は明確な答えはせず、装甲バンを降りていく。
俺たちが降りたのは抜け道がある付近の道路で、そこからは俺が抜け道まで案内することになっている。
「旦那様。もし、皆殺しを防ぎたいのならばお役に立てますよ」
「それは四月一日を焼き殺すと言う意味か?」
「ふふ。そうかもしれません」
「やめておけ。あとあと問題になる」
サタナエルに俺はそう言って首を横に振り、それから俺は抜け道を四月一日に示す。
廃車の扉を開け、迷宮寺院の施設内に忍び込める道を見せた。
「まずは隠密で忍び込み、それからある程度内部に忍び込んだら派手にぶちかます。それでいいか?」
「オーケー、オーケー」
俺が確認するのに四月一日は軽く頷く。
「それでは作戦開始だ」
俺たちは廃車の中を潜り、教会施設内に侵入。
密かに侵入した俺たちは、まず物陰へと隠れる
「さあて。どう派手にぶち上げようか」
「爆発物を持ってきている。それを使うか?」
「いいね。わんさか敵が寄ってきそうだ」
俺は戦闘工兵が使用するような爆薬を持ってきていた。
それを使って教会施設の重要設備を吹き飛ばし、開戦の狼煙にすることも考えていたからだ。
「狙うとすれば配電盤だろうな。あるいは非常用の発電装置」
「そっちの選択は任せる。好きな方を吹っ飛ばしてくれ」
「了解だ」
時間帯は暗闇に包まれつつある時間帯。
ここで電気が途絶えて、光が消えれば大混乱が起きるだろう。
陽動としては十分だ。
「配電盤を狙おう。非常用発電装置はそこまで大したものじゃないはずだ」
以前にも俺が配電盤を弄ったときに、すぐに明かりはつかなかった。
それは非常用発電装置が脆弱であることを意味する。
「なら、決まりだ。吹っ飛ばしてやろうぜ」
にやりと笑ってそう言う四月一日。
「行くぞ」
俺たちは物陰から出ると配電盤に向けて駆ける。
まだ信徒も武装した男たちも、俺たちの侵入に気づいた様子はない。
「爆薬セット」
配電盤を完全に吹き飛ばすのに十分な爆薬を俺はセットする。
軍から横流しされた高性能爆薬だ。少量でもかなりの威力になる。
「じゃあ、花火を打ち上げようぜ」
「ああ。やるぞ」
俺たちは遮蔽物に潜み、それから爆薬の点火スイッチを二回押す。
点火──。
爆薬が点火されて激しい爆炎をまき散らす。
同時に爆発音が辺り一面に響き渡り、開戦の狼煙となる。
「始まったぞ。くくっ!」
そんな爆発音を聞いて四月一日が楽しげに笑う。
「全員、突入だ! やっちまえ!」
ARデバイス経由で四月一日がそう指示し、周囲を包囲していた友軍が交戦を開始。
周囲から乾いた銃声が響いてくる。
「さあ、俺たちもおっぱじめようぜ、切り裂き魔?」
「ああ。暴れるとしよう」
俺たちの方にも爆発音を聞いた信徒たちが押し寄せている。
全員がカラシニコフで武装しており、俺たちを殺そうとしていた。
楽しくない時間の始まりだ。
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