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狂信の告白

……………………


 ──狂信の告白



 俺たちはそれから気づかれないように迷宮寺院の施設から脱出することに。


 警備はまだ俺たちの侵入に気づいていない様子だが、電力は復旧している。

 校舎に明かりが再び灯り、停電の原因を探っているのが分かった。


 俺たちはそんな信徒たちと接触しないように用心して進み、元来た道を戻ると、壊れた塀と廃車の隠れ道から脱出。


「オーケー。無事に偵察は完了した。あとは報告だ」


「退屈な仕事だったな!」


 俺の言葉にマルキダエルが欠伸交じりにそう言った。


「このタブレットの中身が分かれば、かなりいい情報になるんだろうが……」


 俺はタブレットを起動したが、案の定セキュリティでロックされている。

 タブレットの中身を見るにはパスキーが必要だ。

 あるいは……その手の技術者か。

 ジョン・ドウにそのまま渡すと言う選択肢は取りたくなかった。

 それは俺がこの手のことへの解決手段を有さないという評価を呼ぶ。

 仕事を得たいなら評価は高く保つことが必要だ。


「それ、ボクに任せてくれませんか?」


「サタナエル?」


 サタナエルがそう言ってタブレットを覗き込んでくる。


「お前、これをどうにかできるのか……?」


「お忘れですか? ボクたちはそういうのが得意な種族であることを」


「……そうだったな」


 サタナエルとマルキダエルはドラゴンであり悪魔であり情報生命体。

 電子機器やITの類はこいつらの専門分野なのだ。

 任せてみる、というのは選択肢に入るだろう。


「では、頼んでいいか? 中身が取り出せれば迷宮寺院の狙いも分かるかもしれない」


「はい、旦那様」


 サタナエルは俺からタブレットを受け取り、それに手をかざす。

 すると、画面が数秒乱れたのちにパスキーがするりと解除され、タブレットが無事に起動した。


「できましたよ。簡単なものです」


「凄いものだな……」


 瞬く間に解除されたセキュリティを見て、俺は感嘆の息を吐いた。


「それじゃあ、中身を拝見と行くか」


 俺はタブレットを動かして、中身を見る。

 タブレットの中にあったのは動画や画像、テキストファイルなど。

 俺は片っ端から情報を掌握していく。


「これは……」


 様々な角度から撮影された画像は、熊本ダンジョンの街にある大井や他のメガコーポの施設のものであった。

 そこには動画や写真などがいくつも保存されている。


 テロのターゲットの下見か?

 そう疑問を抱きながら別の動画を再生する。

 そこには──。


『同志たちよ。見よ、このダンジョンを。これは人ならざるものが作ったものである。この壮大にして畏怖すべきものが人に作れようか? いや作れまい!』


 そう語るのは白髭の老人だった。

 深く刻まれた皺とその白内障のためか僅かに白く濁った眼が年齢を感じさせる。


『そう、まさに神の奇跡である! 我々はこの奇跡を前に跪いて崇拝と畏敬を持つべきだ! であるにもかかわらず、ダンジョンをただの金の生る木として見ている拝金主義者たちがこの神聖なるダンジョンを汚している!』


 老人が叫ぶ。狂信的に。


『我々がこのダンジョンから拝金主義者たちを駆逐したとき、神は我々にさらなる奇跡を示されるだろう。我々の信仰が報われるときが来るのだ。そのときのために我々は準備しなければならない。救われるのは信じたものだけであるからにして』


 老人はそれから淡々とそう語り、動画はそこで切れた。


「何か……頭の悪そうな爺さんだな!」


「頭が悪いと言うか、いかれているな」


 マルキダエルが率直すぎる意見を述べ、俺もそれに半分は同意した。

 この狂信者は何者なのか? 教祖なのか?

 だとしれば、これはある種の犯行声明になるのかもしれない。


「ふふ。ダンジョンが神の奇跡というのは面白い考えですね。理解の及ばないものは神様の御業。そういう発想に至るのは人間にはよくあることのように思えます。今も彼らは奇跡というものを信じているのでしょう?」


「まあ、そういうところはあるな」


「ただの偶然を奇跡と呼んでいるだけなのかもしれないのにですね。チンパンジーがランダムにタイプライターを叩きシェイクスピアのハムレットが出来る。そういう数学的にあり得る話も彼らにとっては唯一無二の奇跡なのでしょう」


「……かもしれない」


 アブラハムの宗教の奇跡も、仏教やその他の宗教の奇跡も、いずれは科学で全て解明されてしまうのだろう。

 そうなったとき宗教の在り方はどうなるのかと少しばかり考えた。


「まあ、今はそれはいい。今大事なのはこれが犯行声明かどうかだ。この男が迷宮寺院の指導者としての立場にあるのか否か。それを調べておきたい」


「どうするんだ!」


「迷宮寺院について知っている人間を頼る。つまりは……九条だ」


 俺は気が進まなかったが、今情報を得るには九条を頼る必要があると決断した。


「九条に連絡を取ってみる。九条がダメなら斎藤を頼る」


 俺はARデバイスから九条のアカウントに連絡を取る。


『どうしました、佐世保さん!』


 九条はいつもの陽気さを取り戻していてそういう。


「九条。言い難いんだが迷宮寺院について確認してもらいたいことがある。よければ協力してくれないか?」


『……内容は?』


「迷宮寺院の指導者を知っているか? そいつについて確かめたい」


『……分かりました。あとでこの場所で会いましょう』


 それから九条は俺に位置情報を送信してきた。

 場所は食堂街にある喫茶店だ。


「では、あとで」


『ええ』


 そして俺は通話を切った。


「……やはり斎藤を頼るべきだったか……」


 九条は明らかに渋っていた。それを無理に押し切った形になってしまった。

 もし、九条が迷宮寺院にトラウマ的なものを持っているのだとしたら、俺はその傷口を抉るような真似をしているのかもしれない。


「しかし、ここまで踏み込んでしまった以上は下がるわけにはいかないな。九条には申し訳ないができる限り協力してもらおう」


 俺はそう決意し、九条との待ち合わせ場所に向かった。


「旦那様。九条さんは迷宮寺院にどう関係しているのでしょうね?」


「それは分からないがポジティブな付き合いではなかったということだけだな。明らかに九条は迷宮寺院を嫌っている。それだけは確かだ」


「彼女が今も迷宮寺院と繋がっているということはありませんか?」


「それは……」


 それはないと思っていたが、これから見せる情報は俺が迷宮寺院から盗み出してきた情報だ。

 俺がこの情報を把握したことを九条にも知らせることになる。

 九条が今も何かしらの形で迷宮寺院と繋がっていれば……。


「大丈夫だ。九条を信じよう。あいつは口の軽いやつじゃないはずだ」


 俺は九条を信じた。

 九条には無理を言っているのだ。それなのに彼女を信じないのは失礼だろう。


「ふふ。分かりました。ボクも旦那様を信じますよ」


 サタナエルはそう言い、俺とともに待ち合わせ場所の喫茶店に向かった。


……………………

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