白いドラゴン
本日4回目の更新です。
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──白いドラゴン
目の前で少女の姿からドラゴンの姿に変貌した存在。
「信じられん……!」
俺はひたすらに驚愕していた。
ダンジョンでありえないものをこれまで多く見てきてが、こんなのは初めてだ!
「ご安心を。大人しくしていれば楽に死なせて差し上げます」
ドラゴンは少女の声でそう言い、大きくその顎を開くと青白い炎を蠢かせた。
不味い。火炎放射が来る。
俺はそこで背を向けて逃げるのではなく、斜め前に出た。
俺の行動は意外だったらしく、ドラゴンは放った炎を外した。
俺はそのままドラゴンに向けて突撃する。
手に握っているのは偵察だと思って装備していたサプレッサー付きの12ゲージショットガン。
ドラゴン相手にはゴブリンなどに有効な散弾も無意味であることは知っていたし、スラッグ弾もさほど効果はない。
ドラゴンの鱗を確実に貫ける武器は、俺が手に握る超高周波振動ナイフだけだ。
これは軍から横流しされたもので、チタン製の防弾盾すら切り裂ける代物である。
しかし、これを遠くから相手に投げつけても意味がない以上、ドラゴンに肉薄する必要がある。
俺は完全にやつの間合いの内側にいる。
ここから逃げるのは不可能だ。だが、もっと内側に迫れば俺の間合いにやつが入る。
この状況では退くことこそ無謀。前に進むのが唯一の生存の可能性だ。
俺はその可能性にかけた。
機械化した四肢をフルに動かし、機械化した肺を100%稼働させる。
「無駄なことを」
ドラゴンは素早く頭を動かし、俺を狙って火炎放射を再度放つ。
やつの放った炎のその高い温度がぢりぢりと感じられれるほどの距離まで炎が俺に迫った。
だが、直撃はしなかったし、俺のチタン合金の外殻に覆われた四肢は炎による影響はほとんど受けない。
「大人しく死になさい」
ドラゴンは声を発していない。どうも俺の頭の中に直接声が響いている。
妙な感じだが、今はそれを気にしている場合じゃない。
足を動かせ。手を動かせ。呼吸をしてエネルギーを身体に与えろ。
俺はただただそう自分に命じてドラゴンの間合いの中で、自分の間合いに迫ろうと駆け続ける。
ドラゴンと俺の距離は70メートルから60メートル、50メートル、40メートルとみるみる縮んでいく。
攻撃をジグザグに回避しながら前進しなければいけないため直線には進めないが、着実に俺は自分の間合いにやつを捉えようとしていた。
しかし、それは同時にやつも攻撃を当てやすくなっていることを意味する。
それはそうだろう。近づけば近づくほど攻撃を回避可能になる範囲は狭まり、攻撃は回避不能になっていく。
ここからはギャンブルだ。
「ほう……面白いですね……」
ドラゴンはじりりと俺から距離を取りつつ、再び火炎放射。
頬に炎がかすめた。熱さと痛みと同時に感じられる。
諦めるな。ここで死ぬわけにはいかない。
俺にはこのダンジョンの最下層にあるお宝を手にいれる夢があるんだ。
機械化した四肢で跳ぶように進み、機械化した肺は180%稼働させる。
これで一気に距離が縮まった。残り10メートル!
「なるほど。近接戦がお望みですか。いいでしょう。お相手します」
ドラゴンは火炎放射を止め、そして鋭い爪が並ぶ腕を振り上げた。
しかし、火炎放射が止まるならば俺にとっては逆にありがたい。
ドラゴンの振り下ろした爪をステップを踏んで回避する。
今は俺にあるのは素早さだけだと思わせておきたい。
俺の持っているカードは相手より弱い。それなのに全てのカードを最初から披露するわけにはいかないのだ。
横にステップ、後ろにステップ。
ドラゴンが爪を上から振るい、横薙ぎに振るって俺を狙うのに俺は攻撃のチャンスを窺っていく。
「随分と粘りますね。ですが、そろそろ終わりにしましょう」
とどめを刺してやるとばかりに大きく振り上げたドラゴンがそれを振り下ろす。
ぶうんと不吉な音が響き、俺のナイフの刃渡りほどはある爪が一気に俺に迫る。
「そらよっと!」
俺は振り下ろされたドラゴンの爪を受け止めた。
ドラゴンの目が驚きに見開かれるのが分かる。
俺の機械化した四肢ならば、これぐらいは造作もないことだ。
そのまま俺はドラゴンの爪を弾き飛ばすと、姿勢を崩し無防備になったドラゴンの懐に飛び込む。
そして超高周波振動ナイフをその首に突き立てた。
「おのれ……っ!」
ドラゴンが首をのたうたせて暴れるのに超高周波振動ナイフを何度も突き立て、引き裂き、ドラゴンの血を浴びながらやつを仕留めようとする。
次第にドラゴンから力が失われてゆき、やがてぐったりと身を横たえさせた。
「やったか……」
俺は顔に浴びたドラゴンの血を拭って、ふうと息をつく。
恐らくドラゴンをソロで討伐したのは、俺が初めてだろう。
そんな無謀で愚かなことにチャレンジする人間はいないからな。
幸いにも俺はその愚かな挑戦に成功したが、二度と同じことをするつもりはない。
「ふふ」
そこで不意にドラゴンの笑う声がして、俺はやつがまだ生きているのかと驚いて距離を取る。
「素晴らしかったですよ、お兄さん」
ドラゴンは光に包まれると再び少女の姿になった。
そして、その少女はその童顔にあどけない笑みを浮かべ、俺の方をじっと見る。
不気味な笑みだ。だが、目をそらすことができない。
真っ白なワンピースは血で汚れており、まるでホラー映画のような光景なのに。
「そう怖がらないでください。もうあなたを害するつもりはありません」
微笑む少女。
「……お前はダンジョンが生んだクリーチャーなのか?」
「ええ。その通りです。ボクはダンジョンから生まれた存在です」
俺が慎重に尋ねるのに少女は微笑んだままそう言う。
「だが、お前は普通のものとは違うだろう。他のクリーチャーはお前みたいに喋ったりしない。お前はどういう存在だ?」
「そうですね。地獄を信じますか、お兄さん?」
「地獄を? 天国ではなく?」
「地獄を信じるのも天国を信じるのも同じですよ」
地獄があるから、天国がある。そうでしょう? と少女。
「確かにそうかもしれないが、だとしてそれがお前とどう関係ある?」
「ボクは地獄から来ました」
本当に美しく、無垢な笑みで少女はそう宣言する。
「……地獄から……」
「ええ。このダンジョンは地獄に繋がっている。聞いたことはありませんか?」
噂で聞いたことがある。
ダンジョンは比喩ではなく地獄の入り口であるとされる噂だ。
このダンジョンの底は地獄に繋がっているというホラーやオカルト染みた話で、あまり真剣には聞いてこなかったが……。
「では、お前は悪魔か?」
「その通り。ボクは悪魔です。名はサタナエル。以後、お見知りおきを……」
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