パーティとソロ
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──パーティとソロ
俺たちは一色銃火器店を訪れた。
「……いらっしゃい」
いつものように愛想のない店主が俺たちを出迎える。
今日熱心に整備しているのはM1911コルトガバメント自動拳銃で、とんだ骨董品だ。
「口径7.62ミリNATO弾と12ゲージのバックショットとライフルドスラッグ弾を頼む」
「……いつものだね。しかし……」
店主が顔を上げ、それからジト目でサタナエルとマルキダエルを見る。
「……早速新しい子と浮気してるの?」
俺を僅かに責めるように店主はそう言う。
「勘弁してくれ。こいつらは俺のストーカーだよ。浮気でもなんでもない」
「……ふうん。ならいいけど……」
俺の言葉に疑わしげに店主は呟きながら弾薬箱を取り出す。
「……だけど、ちゃんと接してあげないと刺されるよ……?」
「十分に気を付ける」
店主の忠告に俺は頷いた。
マルキダエルはともかくサタナエルの方は俺が他の女と付き合いだしたら、ドラゴンの姿になって再び襲い掛かってきかねない。
「サタナエル、ここに展示してあるのは銃だろう? 人間が使うやつ!」
「そうですね。旦那様も使われるものです」
「ふむふむ。人間はこんなものに頼らなければいけないとは残念な連中だな!」
店内に展示されている銃を見て、マルキダエルがそんなことを口走る。
「人間は……?」
「あ、ああ。人の業って話だろう、たぶん」
目を細めて不審がる店主にマルキダエルに代わって俺が弁解。
「……人の業、か。そうかもね……」
店主は少し寂しそうにそう呟く。
「悪い。妙なことを言った」
銃火器で飯を食ってきて、それなりに誇りもあるだろう店主に無神経なことを言ったと俺は頭を下げる。
「……いいえ。あなたは正しいと思うから。私も父からこの店を継がなければ銃なんてない方がいいって思ってたはず……」
店主はそう言って小さく微笑むと俺に金額より少し多めの銃弾を渡してくれた。
「……サービス。今後ともよろしく……」
「ああ。また来る」
俺は店主のサービスに感謝しながら、サタナエルたちを連れて店を出た。
「マルキダエル」
「な、なんだ!」
「正体がばれそうな余計なことを言うな。いいな?」
「いちいちうるさいやつだな!」
「何だ? 家から叩きだすぞ?」
「わ、分かった!」
俺が凄むのにマルキダエルは渋々というように頷いた。
「旦那様、次は?」
「ちょっと見ておきたいものがある。いいか?」
「ええ。もちろんです」
俺はちょっとした臨時収入があったので、新しい装備を見ておきたいのだ。
商業地区を銃火器を扱う店の並ぶ場所から、銃以外の探索者たちの装備を扱っている店舗の並ぶ場所に入る。
そこには面白いものが多くあるのだ。
「新型の強化外骨格か。興味深いな……」
軍から横流しされたものや、民生用の品を改造したもの。
そういう強化外骨格やアーマード・スーツが多く展示されている店で俺は感嘆の息を吐く。
身体を機械化している俺にはあまり必要ないものだとしても、こういう装備は男心をくすぐるものなのである。
「これカッコいいな! 買おうぜ、佐世保!」
「でも、少し高いですね」
マルキダエルが言うのにサタナエルが値札を見て言う。
一番安いアーマード・スーツでも1000万以上する。
俺の財布で手出しできる額じゃない……。
「今回見に来たのはこれじゃないんだ。こいつだ」
俺は店の奥の方に向かう。
そこに置かれているのは4脚のロボットである。
大きさは大型犬よりも大きく、ラバくらいはあった。
「ミュールボット。荷物運びしてくれるロボットだ。使っている連中を見たが、随分と便利そうに見えた」
このロボットは荷物運び用のもので、長期戦になるダンジョン深部を探るならばこの手の装備がなければ補給が続かない。
「そうですね。ダンジョンも長く潜ればたくさんの食料や弾薬が必要ですからね」
「はんっ! 人間とは脆弱だな! 弱い、弱い!」
サタナエルが理解を示し、マルキダエルが笑う。
「しかし、やはり高いな……」
ミュールボットの値段は──1500万円。
これでも安くて簡単なオプションしかついていないものである。
「まだまだ手の届かない品だ。これからも頑張って稼ぐしかないな……」
俺は深々とため息を吐き、肩を落として店を出た。
「旦那様はこれまでこういう装備もなく、49階層まで?」
「ああ。残念なことにな……。だから49階層が限界だとも言える」
パーティを組めばもっと多くの荷物を運び、ダンジョン内でキャンプし、どんどん深く潜れる。
だが、ソロでは運べる荷物の量も、休憩できる時間も場所も限られてしまうのだ。
「軍隊でしっかり教えられたはずなのにな。一匹狼は早死にすると。なのに、俺は何も学習しなかったらしい……」
未だに俺は他人が信頼できずソロを貫いている。
戦場帰りが社会に信頼されなかったように、戦場帰りも社会が信頼できないのだ。
「ふふ。大丈夫ですよ、旦那様」
サタナエルがそこで俺にそう言う。
「これからはボクが一緒にいますから」
サタナエルはにこにこと嬉しそうに笑ってそう言ったのだった。
「そうかい」
俺はその笑みから顔をそらしてそう返したのだった。
* * * *
それから俺たちはスーパーで買い物をした。
スーパーはアサルトライフルで武装した警備員がいる以外は、普通のスーパーと同じである。
「今晩は何にしましょうか?」
「まだできるのは焼くぐらいなんだろう? 野菜炒めとかか?」
「そうですね。少しずつ学習しなければいけません」
俺とサタナエルがマルキダエルを後ろから連れて店の中をそう言いながら歩いていたとき、知り合いに出くわした。
「あーっ! 佐世保さん!」
「九条か」
騒々しく声を上げるのは九条だ。
それからそのパーティメンバーである桜庭がいる。
「あれ? そっちの人は?」
「ああ……。これは新しいストーカーだ……」
「……ストーカーってそんなにぽんぽん増えるものなんです? 怖いんですけど……」
九条がマルキダエルの方を見て怪訝そうにするのに俺はため息を吐きながら説明。
「弱っちそうな連中だな!」
「悪かったっすね!」
マルキダエルがにやりと笑って九条たちの方を見るのに桜庭が睨んでそう返す。
「お前たちも買い出しか?」
「はい! 今日はふたりでお鍋にしようかなって」
「ふたり?」
「ああ。言ってませんでしたね。今、凪ちゃんとルームシェアしているんです。ようやくダンジョンで信頼できる人が見つけられたので~!」
「おお。それはよかったな」
「これも佐世保さんのおかげです。感謝感激! 雨あられ!」
九条は桜庭と一緒に生活し始めたようだ。
ダンジョンと同じくらい治安が悪いここら辺で女のひとり暮らしは危険だ。
俺は九条と桜庭がルームシェアしていると聞いて少し安堵した。
「……なあ、ひょっとして料理はできる方か?」
俺は買い物かごに出汁を取るためだろう昆布などを入れていてる九条に尋ねる。
俺は昆布なんて料理にどう使えばいいのかさっぱりだ。
「それなりには。それがどうかしました?」
「フライパンで焼くだけでできる簡単な料理のレシピって、あるか? あれば教えておいてほしい」
「ふむふむ。そうですね。いろいろありますよ。こんなのでどうです?」
俺のARデバイスにレシピ集が送られてきた。
実際に九条が作っている様子を映した映像付きだ。
「凄いな。自分で作ったのか?」
「ええ。趣味、でしたから……」
そこで僅かに寂しい笑みを浮かべる九条。
九条もダンジョンなどに来なければならなかったということは理由があるのだろう。
俺は足の機械化が理由だと思っていたが、それ以外にもあるのかもしれない。
「助かった。また何かあれば」
「こちらこそ!」
俺は九条に別れを告げて、サタナエルたちとともに買い物を続けた。
「今日はチンジャオロースにしよう。俺が作り方を教える」
「はい、旦那様」
そして俺たちは買い物を終えると自宅に戻った。
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