メガコーポ
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──メガコーポ
俺が目覚めたのは香ばしいパンと目玉焼きの匂いがしたからだった。
「ん……?」
俺が匂いに反応して目を開けるとキッチンでサタナエルが立っていた。
キッチンと言ってもとても簡単なものだが、そこでサタナエルは目玉焼きを焼き、トースターでパンをトーストしていたのだ。
「あらあら? 起きられましたか、旦那様?」
「あ、ああ。お前、何を……?」
「朝食をお作りしようかと思いまして」
そういうとサタナエルはトーストと目玉焼きの朝食を皿に乗せて俺に差し出した。
「……普通にこういうこともできるんだな」
俺は香ばしい香りを立てるトーストと目玉焼きを見てそう呟く。
目玉焼きの焼き加減はちょうどいい感じのサニーサイドアップ。
俺は目玉焼きには何もかけない性質なので塩コショウが多めなのも嬉しい。
俺は箸で目玉焼きを口に運ぶ。
……文句なしに美味い。
「ただ焼くだけの料理でしたらできますよ。まだまだ難しい料理はできませんが」
「そうかい。じゃあ、今後に期待だな」
「ご期待あれ」
俺がそう言うのにサタナエルは微笑んでそう返した。
「いい匂いがする!」
そこでマルキダエルがそう叫んでベッドから飛び出してきた。
そして、俺の食べている目玉焼きとトーストにさっと手を伸ばしてくるが、俺は皿ごとマルキダエルから朝食を遠ざけて防衛。
「これは俺のだぞ」
「ずるい! 俺にも作れ!」
「サタナエルが作ってくれたから、サタナエルに言え」
俺がそう言うとマルキダエルはまだキッチンに立っているサタナエルの方にさっと駆け寄った。
「サタナエル! 俺にもあれ、あれくれ!」
「はいはい。そういうと思って作ってありますよ」
フライパンから綺麗に目玉焼きを皿に移し、マルキダエルに差し出すサタナエル。
「うひょーおっ! 美味しそうだ!」
「食費、あとで収めろよ」
「いちいちうるさいやつだな、佐世保! 懐が狭いぞ!」
「こっちだってかつかつなんだよ」
これまでひとり分の食費でよかったのが3倍になったら3倍稼がなければならない。
……いや、そう考えるとマジで大変だな……。
「ボクはいいですよ。食事は必要ありませんから」
そんな俺の心中を察したのか、サタナエルがにこにこと笑ってそう言う。
「それは助かるが……いいのか?」
「はい。旦那様がボクの料理を食べて喜んでもらえるなら、それで充分です」
「……そうか」
ちょっと感情面で重たい気もするが、料理を作ってくれるのだから文句は言えない。
「さて、今日は昨日稼いだ金で装備を整えるぞ」
「準備してきます」
俺はサタナエルに今日の予定を告げ、サタナエルは着替えに向かった。
「佐世保! 俺にも服買ってくれ、服!」
「衣食住の面倒は自分で見ろって言っただろう。まずは金を稼げ、金を」
マルキダエルはまあワンピース姿でもそこまで浮かないからいいだろう。
女の服ってのは結構な金額がするってのはサタナエルのときに学習したしな……。
「じゃあ、ダンジョンに潜るぞ、今すぐ!」
「ダメだ。今日は準備だ。潜りたいならお前ひとりで潜ってこい」
「そうする!」
マルキダエルがそう言って家から飛び出そうとしたとき俺ははっとした。
こいつにとってクリーチャーと人間の区別をつけて殺すことはできるのだろうかと。
『こいつ金持ってそうだから殺すぞ!』
『ぎゃーっ! 助けてー!』
って感じにうっかりこいつを潜らせて、他の罪のない探索者が殺されたら……。
「──いや、待て! 潜るなら明日一緒に潜るぞ!」
「ん? そうなのか? 分かった!」
意外にもマルキダエルは指示に従った。
「よろしい。では、繰り返すが準備だ。食料や弾薬の調達から新しい装備も見繕っておきたいな。だから──」
そこでピコンとARデバイスにメッセージが着信した音が響く。
「何だ?」
見ればメッセージが何件か溜まっている。
皇からのメッセージと──大井エネルギー&マテリアル……?
俺はARデバイスを操作し、内容を確認する。
「こいつは……」
「どうされました、旦那様」
「……どうやらかなりの大物に目を付けられたらしい」
大井エネルギー&マテリアルの人間が皇の紹介ということで、俺に会いたいと言うメッセージを送ってきていたのだ。
* * * *
俺たちは指定されたアレキサンドライトのVIPルームを目指している。
「またお前たちか」
アレキサンドライト周辺を警備する民間軍事会社のコントラクターがうんざりしたように俺たちの方を見る。
「お前らの親分に呼ばれて来たんだ。文句言うなよ」
「親分? 生体認証するから動くな」
そういうとコントラクターが俺を生体認証し、そしてぎょっとする。
「クソ。親分ってそういうことかよ。行っていいぞ」
「ありがとさん」
ここら辺のコントラクターはほとんど大井が雇っている。
連中にとってはまさに雇い主であり親分だ。
「佐世保様ですね。こちらへ」
それからアレキサンドライトの用心棒が俺たちをVIPルームまで案内した。
だが、今回はVIPルームへ直通とはいかなかった。
VIPルームの前にひとりの男が立っている。
大柄でソフトモヒカンにした頭。年齢は20代後半ほどだろう。
「あんたが佐世保朔太郎? 思ったより冴えない顔だな」
「お前は?」
「護衛だ」
その男はブランドもののスーツに蛍光カラーの入ったジャケットを羽織り、腰には刀を下げていた。
間違いない。こいつも相当な部位を機械化したサムライだ。
「そっちの美人さんふたりはお呼びじゃない。外で待っていてもらおう」
「あらあら。それは困ります。ボクの旦那様をひとりにするなんて」
「安心しろ。妙なことをしなければ五体満足でお返しする」
「信用しろと?」
「するしかないんだ。いいな?」
サムライがそう言うのにサタナエルが目を糸のように細める。
不味い。あの男はサタナエルの間合いに入っている。このままでは焼き殺される。
「大丈夫だ、サタナエル。少し話してくるだけだ」
俺はサタナエルを宥め、男が焼死体になるのを防ぐ。
「……それでしたら。いってらっしゃいませ、旦那様」
サタナエルはにこりと微笑み手を振った。
俺はサムライの方に歩み寄るとやつは俺の方に顔を寄せて囁く。
「あの美女ふたり、人間じゃないな?」
「……さてな」
「ふうん」
サムライはVIPルームの扉をノックし、電子ロックされた扉が開く。
「君が佐世保朔太郎君かな?」
部屋の中にいたのは皇と見たことのないイタリア製ブランドのスーツの男。
黒いジャケットに灰色のシャツ、ネクタイは白い。
その年齢は40代前半ほどで端正な顔立ちに細身のひょろりとした長身だ。
「お前は?」
「失礼。私は司馬宗一郎。大井エネルギー&マテリアルの、まあ、渉外担当者のようなものだ」
男はそう名乗った。
「皇君から君の実力は聞いた。戦場帰りの優れた生体機械化兵であると。10階層のドラゴンに加えて、噂の20階層のドラゴンを倒したのも君なのだろう?」
「だとしたら?」
「我々が優秀な人材に投資していることは知っているだろう?」
「……聞いたことはある」
メガコーポがスポンサードしている探索者の話は何度も聞いた。
それこそ皇のような大手クランにもメガコーポがいくらか出資している。
「我々は君にも出資を考えている。どうだね。我々ととともに働く気はないかね?」
司馬と名乗った男は俺にそう尋ねたのだった。
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