地獄の声
本日3回目の更新です。
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──地獄の声
「地獄の声?」
藤田の質問に九条は首をかしげる。
「古い都市伝説なんですがね。ロシアで行われた地下探査事件で深い位置に到達した探査用のマイクに人が苦しげに呻くような声が記録されていた、というものです」
「何それ。滅茶苦茶怖いっす!」
藤田が言うのに桜庭が身を竦めて本当に怖がっていた。
「あはは。これはフェイクだって分かっている都市伝説ですからご安心を。しかし、地中深くに潜った結果、地獄が見つかったというのはなかなかにロマンのある話だとは思いませんか?」
「ロマン、ねえ」
俺は藤田の言葉を聞きながら、サタナエルの方を見た。
やつはにこにこと微笑んだまま、藤田の話を聞いている。リアクションはそれだけ。
「このダンジョンも地下深くに繋がっています。そして、すでに分かっていることから言えばダンジョンは地球の地下を実際に穿って存在しているわけではないということです。このダンジョンは入り口を入った時点で、別の空間に繋がっている」
「別の空間……?」
「ええ。我々はその空間について調べているのです」
確かに地球深くにダンジョンが突き刺さっているとは考えにくい。
そんなことがあれば地殻変動や地底の熱でダンジョンは今のような環境を維持できないはずだ。
それなのにダンジョンは存在している。
このダンジョンは地下に向けて伸びているように見えて、実際は他の空間に接続している。それが藤田の考えだった。
「藤田君の発想は面白くてね。私もぜひ確かめたいんだ」
松本も僅かに笑ってそう言う。
「別の空間ってことは地球上ではない可能性も?」
「鋭い。その可能性もあるんだ」
「へえ!」
九条は藤田の答えにやや驚いた様子で手を叩く。
「しかし、地獄の声の話を事前にしたということは、あんたらはもしかしたらこのダンジョンが地獄に繋がっているかもしれないと、そう思っていたりするのか?」
俺はそこで静かにそう尋ねた。
「……私たちの専門は物理学で神学ではないので何とも。ただ……」
「ただ?」
「このダンジョンは人を引き寄せている。それが私たちには不気味に思える」
ダンジョンは危険な場所にもかかわらず、大勢の人間が富を求めて集まっている。
まるで誘い込まれているかのようにして。
それはダンジョンで探索者をやっていない人間から見れば不気味に思える光景なのかもしれない。
「しかし、ダンジョンの最深部にはお宝があるんじゃないっすか?」
ここで桜庭がそう尋ねる。
「その話、いつから出回っていると思います? ダンジョンが出現した直後にはもう広まっていたんですよ。その噂の事実を確かめた人間はいないのに、誰もがそれを信じている。それもまた不気味です」
俺がダンジョン最深部の噂を聞いたのは、ダンジョンが生まれてからしばらく経ったときだった。
噂として流れてきたそれに俺は食いついたが、この噂を確かめた人間はいないのか。
「ともあれ、ダンジョンについて分かっていることはそうありません。今はダンジョンはダンジョンであるとしか言えませんね」
藤田は長々と話しておきながら、そう結論したのだった。
「なら、それを──」
「お喋りはそこまでだ。お客さんだぞ」
九条が何事かを言おうとするのを遮って俺が警告。
俺の耳はゴブリンらしきクリーチャーの足音を捉えていた。
そのことに遅れて九条たちも気づく。
「りょ、了解です。みんな、藤田さんと松本さんを守って!」
「あいあいっす!」
サムライである桜庭が前に出て、ゴブリンの襲来に備える。
それから3体のゴブリンが廊下の角から現れ、九条たちに襲い掛かった。
いずれもこん棒で武装しているだけだが、対処を間違えば死ぬこともある。
「それっ!」
桜庭が超高周波振動刀で一閃。ゴブリンの1体が頭を刎ね飛ばされる。
しかし、その間に桜庭の横を抜けてゴブリンが九条に迫った。
「狙って、狙って……!」
九条はそれに対して猟銃で攻撃。銃声が響き、ライフル弾がゴブリンの頭を貫いた。
ゴブリンの脳漿が後頭部からまき散らされ、ゴブリンはぐらりと揺れて倒れる。
しかし3体目がすでに九条に迫っていた。
「わわっ!」
「撃つな、九条。俺が対処する」
慌てる九条の肩を叩き、超高周波振動ナイフを抜いた俺がゴブリンを切り払う。
ゴブリンは喉を裂かれて鮮血を吹き上げ、そのままげぼげぼと呻くと息絶えた。
「た、助かりました、佐世保さん!」
「気にするな。だが、次からはフォーメーションを改良しないと危ないぞ」
「はい!」
狭いダンジョンでは工夫してフォーメーションを組まないと連携できずに各個撃破されたり、または友軍誤射が発生したりする。
しかし、俺はずっとソロで潜ってきた探索者なのでフォーメーションについてアドバイスできることはない。
近接戦闘における軍隊のフォーメーションと求められるものは被っている点もあるにはあるが。
「お優しいですね、旦那様」
俺が九条と話していたのを見て、サタナエルはそう言う。
「相手が誰であれ、罪のない人間が無残に殺されるのは気分が悪いからな」
「ふふ。そういうところがとてもお優しいのですよ。けど、少しばかり嫉妬もしてしまいますね……」
サタナエルはそう言って微笑む。
「それより」
俺は九条や藤田たちに聞こえないように声を落としてサタナエルに言う。
「地獄についての話は本当なのか? このダンジョンが地獄のそれだという話は」
「前にもお話した通りですよ。ダンジョンは地獄に繋がっています。ボクの生まれ育った場所である場所に」
「そうか……」
地獄──。
それは死後の世界だ。そして、死後の世界に行って戻ってくることはできない。
生きたまま死後の世界を旅した人間はいない。せいぜい神話で語られる程度だ。
だとすれば、ダンジョンの最深部に到達したとして戻ってこれるのだろうか……。
「ご心配なく。確かにダンジョンの最深部には富がありますし、それを持ち帰ることもできます」
「だといいんだがな……」
サタナエルが言っているだけならばただの妄言と言えたが、帝国大学の学者まで地獄云々と言い始めたら心配になってくる。
権威主義的かもしれないが、学者の言うことは無視できない。
「いやはや。ダンジョンには本当に変わった存在がいる」
藤田たちの方は斬り捨てられ、射殺されたゴブリンの死体を検分していた。
「この死体はどうなるのでしょうか?」
「放置しておけば自然と分解される。ダンジョンのクリーチャーはそれを掃除するスカベンジャーたちによって綺麗に片付けられているんだ」
藤田が尋ねるのに俺はそう答えた。
「なるほど。興味深い」
藤田たちはそれから腰を上げ、再び5階層に向けて前進した。
1階層から9階層までには前にも言ったように大した脅威は存在しない。
それを知っているから皇も九条たち初心者チームにこの仕事を任せたのだろう。
「ここが5階層ですよ!」
無事に5階層に到着し、仕事は何事もなく終わるかに思われた。
しかし──。
「く、九条さん! あ、あれは!?」
「え?」
藤田が青い顔をして見るのは──。
「ミノタウロス……!?」
そう、10階層のエリアボスである牛頭の悪魔ミノタウロスが5階層に出没したのだ。
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