第40話 私の主君は魏武の強♪
『……ど、どうなっているのだ、これは……』
サイちゃんの歌が、干戈の交わる音よりも、火計による悲鳴よりも、戦場に大きく響き渡ると――
『かっ――体の底から力が湧いてくるぞォォォ!!』
『今ならば、誰にも負ける気はせぬ……我、烈士の魂、身に宿せり!』
『この程度の炎、生ぬるいわ! 怯まず敵を押し返せェェェ!!』
圧倒的に劣勢だったはずの状況下で、既に倒れていた兵士さえ起き上がり、手には剣や槍を携え交戦する。
しかも一人一人の兵士が、まるで武将のような勇猛さだ――!
そう、これこそサイちゃん、即ち蔡琰の〝固有技能〟。
――〝歌姫〟――!
――――――★女軍師・甄嘉の技能解説★――――――
・蔡琰専用の固有技能〝歌姫〟
詩歌に秀でた蔡琰、とはいえ当然、武将としての能力は低い……けれど、それでも戦場に連れて行きたくなる固有技能こそが〝歌姫〟!
何せ戦場で蔡琰が歌うと、広範囲に渡って〝自勢力の兵士たちの士気が爆増する〟のだ。士気の上下は戦局を左右する大きな要素の一つ。
今まさに〝苦肉の大火計・三連〟で底に落ちていた曹操軍の士気も、むしろ戦闘前より上昇しているほどだもん。これほど強い技能はなかなか無い!
―――――――――――――――――――――――――
「――甄お姉さまぁ~! 来れたから来ましたよ、ダイジョブでしたか~!?」
「サイちゃん……ッ。まさか来てくれるなんて……ありがとう、ホントに助かったわ!」
「いえいえ★ 五杯目に手を付けてたら危ないトコでした、えへへ♪」
「ありがと……ホント、ギリで自重してくれて……ありがと……! ……で、ちょっとどうしても、気になることあるんだけど……」
援軍に来てくれただけでなく、シリーズファンとして生演奏の感動もあり――だからこそ私は、問わずにいられなかった。
「あのね、歌、すごい気持ち入って聞こえたし、兵士さん達も士気・爆上がりなんだけど……ホントにアレ、何かこう、感情とか無いの? こっちの世界でもちゃんと歌えるくらい覚えてるわけだし、実は思い入れあるとか……」
「? 歌詞と音程が、ああなってたから。あとわたし、一回歌えば何となく覚えちゃうんですよね~ワハハ」
「そう……一回歌えば覚えるって天才感が、逆にヤバイ子を増長するわね……にしたって歌詞とか結構、漢字イッパイで難しいと思うんだけど……」
「あ~歌詞、最初っから全部ひらがなで書かれてました! 事務所のマネージャーさんが〝そうした〟って~」
「そう、そうなの……マネージャーさん、さすがサイちゃんのこと、良くお分かりで……」
正直、何も知らぬ新鮮な状態で聴きたかったな、と思います……フフッ(哀愁)
なんて呑気してる場合じゃない。軍の士気を巻き返したとはいえ、目の前の脅威は相変わらずなのだ。
『うっ――ウオアアアアア! 無念、無念ですぞ――!』
「――ハハッ♪ 面白れぇけど……雑魚じゃウチを止められねぇよ♪ そっちのお嬢ちゃんも転生者なら、ついでに連れてくか……軽く撫でて、大人しくさせてからな――っとぉ!」
「! サイちゃん……逃げて!」
「へ……フギャーッ! し、甄お姉さま!?」
押し飛ばしたサイちゃんは、大げさな悲鳴を上げて離れた――けれど、私は完全に無防備になる。
ほんの一瞬、あっという間に距離を詰められ、大喬さんの巨体に迫られる。これが〝小覇王〟の威なのか、それとも本人の迫力なのか、私は身動き一つできない。
ただ、やられるだけ――そう、思っていたけれど。
『――貴様、甄嘉に手を出すな』
「あん? ……うおっ!」
刹那の間隙に割り込んできた一閃で、大喬さんが飛びのく。
そして、私は――彼の左腕に、抱かれていた。
そう、主君である――曹操様の腕に――!?
「う、うーわー!? 曹操様、急に何を!? ちょちょ近いですって、離れて……というか本陣は、黄蓋の奇襲を受けていたのでは!? 何でここに……えっ」
曹操様がいたはずの、本陣の方角に視線をやると――奇襲の被害など、何処へやら。私の陣営へと一直線に、炎の道を斬り開かれたように、孫権軍の兵が無造作に倒れていた。
『う、うぐぐ……な、なんじゃあ……あまりにも、強すぎる……!』
『まさか黄蓋様が、為す術なく退けられるなど……信じられぬ……』
『これが、これが乱世の奸雄……中原の覇者……曹操、孟徳……!』
「……えっ、えっ? ど、どうなって……」
見えるだけでも数十人に及ぶ敵兵は、どうやら曹操様が薙ぎ倒してきたらしい。しかし当の本人は来た道に目も向けず、右手に持つ剣を大喬さんに突き付けて言った。
「……貴様、甄嘉を連れ去ると……攫う、と言ったのか。おれの……この俺から、攫う、と?」
「あ、あの……曹操、様?」
何だろう、様子がおかしい――乱世の奸雄、とはいえ〝Ⅹ〟の曹操様は、強がっていたとしても気弱な性格が本性。でも今は、そんな雰囲気はまるで感じない。
どころか、腹の底から響かせるような低い声で、斬りつけるような鋭い眼光で――とんでもないことを仰った。
「甄嘉は、俺のモノだ――誰にも、渡さぬ――」
「え。……え、えええ!? どどどういう意味で、それっ……そ、曹操様?」
驚く私に、呆然を上塗りする、予期せぬ出来事。
艶やかな青みがかった黒髪が、微かにうねった。
そして焔光を反射して、青い炎の如く、力強い輝きを宿す。
まるで――いや、明らかに人が変わったように、彼は力強く吼えた――!
「今より、この戦場は俺が、俺たちが支配する――
曹操軍の〝魏武の強〟刮目して見るがいい――!!」
――――――★女軍師・甄嘉のやわらか人物評★――――――
『曹操』攻略可能キャラ
字は孟徳。三国鼎立を成立させる曹・孫・劉の、最大勢力にして三国時代の最高権力者として君臨する、全ての能力値がトップクラスの英傑。
〝乱世の奸雄〟と呼ばれる苛烈な戦いぶりも有名で、成し遂げてきた偉業の反面、創作などでは悪役として描かれることも多い。
〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟では、そんな苛烈な印象とは逆に、気弱な性格が前面に押し出され、ギャップと美形っぷりで人気だった……けれど。
今の様子は、明らかにおかしい。でもシリーズを制覇してきた私には、覚えがある。
それは、三国志の英傑・人物たちの、常に最前線を走り続けた、自力の人。
あらゆる困難を打ち破り、あらゆる逆境を跳ね返し、天すらも掴む怪物。
固有技能〝魏武の強〟――自らを超強化し、戦場の全軍をも強化する。
全シリーズ通して〝最強の曹操〟と称される――〝9〟の姿、そのものだ――
――――――――――――――――――――――――――――
『『『ウオオオオオオオ!!!』』』
〝魏武の強〟で明らかに強くなった兵士たち、あの青い炎のような髪、間違いない――〝9〟の曹操様だ。けど、どうして!? 前のナンバリングに変身するとか、そんなシステム、聞いたこともない……一体何が起こっているの……!?
尋常じゃない事態に、混乱の極みに陥る私に――曹操様は、短く一言。
「甄嘉」
「!!」
切り裂くような、鋭い眼が――真っ直ぐに、私を見つめ、瞬きほどの一瞬。
二人の時にだけ見せてくるような、柔らかな眼差しに変わった。
「――行くぞ」
「ッ、はっ――是、曹操様!!」
反射的に返事をした私の心中から、さっぱりと迷いは晴れた――曹操様の変化について考えるのは、後回しだ!
今は、サイちゃんの〝歌姫〟と曹操様の〝魏武の強〟で、もはや逆転しているほどの戦況に、最後のひと押しを加えねばならない。……サイちゃん、既に程昱殿の軍の方に逃げてるけど、まあそれはそれで安心安全なので、ヨシ!
ただ最後の一手という考えは、大喬さんも同じようだ。
「ッ、コリャ参ったね……でもよ、コレはどうだ? ウチの愛する妹様が、こう言えば分かるだろう、つってたぜ――〝東南の風〟、ってな♪」
「…………!!」
まさに、その言葉のタイミングで――曹操軍の陣営に放たれた炎を煽るような暴風が、赤く染まる断崖の隙間から吹き抜けてくる!
なおさら燃え上がる炎を背景に、大喬さんが呵々大笑した。
「――ハッハァ! スッゲェな、こりゃあ! そらそらどうする? ケツに火ィ付いたぞ! 甄嘉ちゃんよ、ココにいると燃えちまうぞ、大人しく攫われなってェ!」
「……フン。この程度の小火で、俺の道を焼けると思うたか。渡すものか、俺の道を……甄嘉は決して――」
「是。曹操様……(なんか聞き捨てならないこと言われそうになったのは、一先ず置いといて……)想定内です。ご安心ください――」
「「……なに?」」
敵の大喬さんと、左腕で私を抱きっぱなし(そろそろ離して欲しい)の曹操様の声が重なった。
対して私は、今こそケリをつけるため――曹操様に倣い、高らかに吼える!
「策は、成りました。今こそお見せしましょう。
郭嘉様より受け継ぎし〝神算鬼謀〟を――!」
大きく腕を振り、指示した、その先で――
長江の遥か向こう――孫権軍の陣営の背後で、大火が巻き起こった!!




