第30話 荀彧殿より、衝撃の告白
さてさて、長坂の戦いでは民の確保……良く言えば保護を重視する、という方針を取ったため、事後処理は大変なものとなっていた。
具体的には、劉備に追従しようとしていた民を元の荊州に還し、ある程度の生活を保障するなど、色々な施策が必要となる。
この辺り、政治力がズバ抜けて優秀な荀彧殿が、八面六臂の大活躍だった。ゲームならともかく実際の政治や内務なんて全く分からない私に、色々と教えてくれながら、他の人より何倍もの仕事をこなしているくらいである。
今日も今日とて、万を超す保護した民のために内政していた。荀彧殿と二人で作業するのも多くなり、慣れてきた頃、不意に彼は呟いてくる。
「ふう……甄嘉殿は呑み込みが早いですね。政治は分からないと仰っていましたが、そうは思えないほどです。教え甲斐がありますよ、ふふっ」(好感度↑)
「え、ええっ? そんなことは……帳簿をつけたり、確認作業をしたり、まだ単純な作業くらいしか出来ませんから……」
「いえいえ、そういう地道な作業を嫌がらず、しかも確実にこなせる、というのも素晴らしい才能ですよ。……郭嘉殿なんて能力は抜群なのに、〝私は軍師なので〟とか言って怠けようとしていましたし……全く……」
「あ、あはは……」
ああ、想像つくなぁ……というかゲームでも〝サボりを誘ってくる〟とかイベントあったし。真面目で上品に見えて、意外とハッチャけたとこもあるんだよね~……でもそのギャップがまた堪らないっていうか~!
なんて、また〝思い出し悶え〟しそうになっていると――荀彧殿が、近ごろの出来事を思い返すように口を開いた。
「甄嘉殿は、まだ単純なことしかできない、と仰いましたが……むしろ甄嘉殿にしか出来ないことも、あったではないですか。ほら、民を帰順させるため……」
「あっ。……あ、ああ~……ありましたねぇ……説得」
荀彧殿に促されるように、私もまた、最近の記憶を思い出す。
――――――★女軍師・甄嘉のおしごと回想★――――――
劉備に追従していた民を捕らえ、荊州に還す――言うだけならば簡単だが、元々は曹操に背き、曹操から逃げるため、住居すら捨てた民衆だ。
当然、帰順させるなど容易ではない。中には反逆を企て、実際に暴れ出す者すらいる……のだが、神技能〝神算鬼謀〟を郭嘉様から受け継いだ、私は違う。
『うう、恐ろしや、恐ろしや……あの乱世の奸雄に囚われてしまうなど、わしらはどうなってしまうんじゃあぁ……』
『ああ、もうおしまいじゃ……劉備さまに付いて行きたかった……』
『おのれ曹操、その姿を少しでも見せれば、喉首に喰らいついてくれるわ……!』
「――はいっ、民衆の皆さ~ん。曹操様は良い君主ですよ、一度はおいで~。ちゃちゃっと帰順しちゃってくださ~い」(計略:説得・成功率100%)
『ンンン~~~ッ是ッ! ィ喜んでェ~~~~ェ!!』(ロングトーン)
『ヤッタァァァァァ!! 平和だァァァァァ!!』
『空は澄み、地は潤い満ちる。心の乱世は終わりました。もはや後は田畑を耕し、人を恐れず恨まず穏やかに過ごすばかり♪』
民衆の一人一人が、憑き物でも落ちたように目をキラキラさせているのを見て、荀彧殿はぽつりと問いかけてきた。
「……甄嘉殿、説得という名の妖術でも使っておられる?」
「いえ荀彧殿、そんなことは……無いはずなんですけど、ちょっと自分でも、疑問に思い始めてます、ハイ……」
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と、大体こんな感じで、特に厄介な民衆には何度か繰り返していた。あっ妖術じゃなくて、説得をですけどね?
「……ま、まあ私で役に立てることなんて、それくらいですし……出来ることなら、がんばりますよ~っ」
「……ふふっ、またそんな、ご謙遜を……それくらい、だけではないでしょう? わたくしは存じておりますよ、甄嘉殿が……説得し、帰順を終えた民を後で訪問し、気遣っていらっしゃることを」(好感度↑↑↑)
「! ……ご、ご存知でしたか、こっそり行っていたつもりなんですけど……」
「ええ、それはもちろん……わたくしも、諜報は得意ですから。なんて、冗談ですよ? ふふふ……」
図星を突かれ、つい恥じ入ってしまう私に、荀彧殿は冗談を交えつつ穏やかに微笑んで続けてきた。
「帰順させてしまえばそれで終わり、ではなく……その後まで気にかける。しかも一度は我ら曹操勢力に背いた、しかも一般の民草に。仁、義、礼、智、信、と口に出して言うだけなら簡単……ですが甄嘉殿は、実践を伴っておられる。誰にでも出来ることではありません。貴女に気遣われた民は、それこそ貴女を信奉し、まるで女神のように讃えている者までいるのですよ」
「そ、それは、その……本当に、大げさすぎますから!? もうホント、出来ることが少ないから、出来そうなことをやっているってだけで――」
「謙虚とは、己を誇示せず素直に学び、成長できる者のことを言います。そんな貴女は……いえ、そんな貴女だからこそ。…………」
「い、いやいや、過大評価で……ん? あの、荀彧殿、どうかしましたか?」
問いかけるも、荀彧殿は微かに頷き――戸惑いつつ呼びかけていた私の手を急に握り、ジッ、と見つめてきた。
「えっ。……えええ!? あの荀彧殿、一体どうしたので――」
「甄嘉殿――どうか、お聞きください。わたくしは、貴女に……告白したいことが、ございます」
「えっ。二度目のぉ~……ええええええっ!? こここ、告白って……いやいやそんなフラグ立ってなかったはずですけどっ!? ナゼナニ、どーして――!?」
みっともなく慌てふためく私の妙な言動すら、もはや荀彧殿は気にすることもなく、熱っぽい瞳で見つめてくる。
「これは、郭嘉殿が亡くなる前に、聞いていたことです。甄嘉殿……いえ」
「はわわわ……えっ?」
思いがけず出た推し様の名に、不意打ちを喰らったように、私は呆けてしまう。
荀彧殿は、ゆっくりと――告白を、口にした。
「嘉那慧殿――で、合っておられるでしょうか――」
「――――――」
最近は、まるで呼ばれなくなって、他人の名前のようにすら聞こえてしまう――
転生前の私の名が、荀彧殿の口から、告げられたのだった。




