第29話 眠りから覚めたら、目の前にご主君がいるの――心臓に悪いわ賛歌
――――――★女軍師・甄嘉のやわらか人物評★――――――
『趙雲』敵対勢力
字を子龍。劉備勢力でも筆頭格の将軍の一人で、〝五虎将〟もしくは〝五虎大将軍〟の一人として有名。四天王の五人バージョンみたいなもの。中華はこの〝五虎将〟みたいな枠組みがやたら好きで、魏にも五将軍がいたりするわ。
劉備と義兄弟の契りを結んだような関係ではないにも関わらず、趙雲は忠実すぎるほどに尽くした忠臣。しかも素行も良く、仁義に厚く、とにかく誠実……数多の武勇伝にも事欠かない、と非の打ち所がない完璧超人。
まあ〝三国演義〟の印象も強いかもだけど、三国志モチーフの創作としては扱いやすいヒーロー的な存在だと思う。
〝ロード・オブ・三国志〟シリーズでも、全ナンバリング通して乙女ゲーム的に正統派すぎるイケメンヒーローとして描かれているわ。人気も全勢力を通してすら常に上位ランク、何度もパッケージを飾ったシリーズの顔よね。
……ぶっちゃけ、私もめっちゃ好きデス(小声)
本当に非の打ちどころが無さすぎて、今回はネタに出来る部分がないのが辛いとこね。まあ別にしなくていいんですけど……。
……ところで本気で関係ないし、言わないほうがいいかもなんだけど……存在そのものが胆力の塊っていう意味の〝全身これ胆〟って……。
全身が胆(※内臓)だとしたら、って想像したらちょっとエグいわよね★ ……やっぱ言わない方が良かった?
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「……ふへえっ!? 胆が、でっかい胆が槍持って襲い掛かってきて……あ、れっ? ここ、どこ……あれ、襄陽の、私の部屋?」
なんだかエグめの悪夢を見ていた気はするけど、おかげでスパッと目が覚めた……とはいえ、状況が良く分からない。私、確か長坂で戦してて、最後は曹操様と夏侯惇殿の大声に挟まれて……う~ん、それから、どうなったっけ……?
まだ寝ぼけているのだろうか、そういえば真夜中だもんね、と窓の外の月を見上げ、頭を掻こうとすると――上げようとした左手が、動かない。
……ま、まさか私、戦で何か怪我を!? と青ざめつつ左を見る。
「えっ。……ちょ、えっ……そそ曹操様!? ふえええええ!?」
「……ん、んん……甄嘉、甄嘉よ……」
なるほど、動かないわけだ。寝台の横から体を預けて眠る曹操様が、私の左手を握っているのだから――ていうか気付かないとか、鈍すぎるでしょ私。イヤでも寝て起きたら左手を握られてるとか、転生前でも経験なかったからなー……ウフフ、思いがけず私の心にダメージ★
と、おちゃっぴい(※お喋りみたいな意味)な思考を繰り広げてみたおかげで、どうにか落ち着くことが出来た。これが女軍師の智謀ですわ、とくと御覧じあそばせ。うん私、まだ全然落ち着いてないな。
……うう、だって、だってぇ……目が覚めたら、いきなりご主君がいる……って、家臣なら驚いて当然でしょ!? 心臓に悪いわこんなん!
うう、う~~~……ああもう、誤魔化すのはやめよう。そう、前にも思ったけど……ホント、顔がいいのよ、曹操孟徳。こんなイケメンが寝起きに手なんて握っていて、無防備な寝顔を晒しているなんて、ドキドキしたってしょうがないでしょ!
それはもう、変な勘違いをしてしまいそうなほどに……と、とにかく、早く起こさなくては。月明かりに照らされて、眠っていても秀麗な横顔に向け、おずおずと囁きかける。
「あ、あの~、曹操様……曹操様~? 起きてくださ……」
「……ん、んん……甄嘉……甄嘉よ……」
「あ、はい、甄嘉ですよ~。ご心配おかけしたかもですけど、状況が分からないので、早く起きて頂けると~……」
「……甄嘉……どうか、どうか……死なないでくれ……!」
「! …………」
どうやら私は、随分と心配をかけてしまっていた、らしい。何だか胸が締め付けられる思いがして、私は……私はっ――
――空いている右手で、思いっきり曹操様の肩をゆすった。
「勝手に! こ・ろ・さ・な・い・で・く~だ~さ~い~! 曹操様~!?」
「……ふへえっ!? 甄嘉が、甄嘉が……全身が胆の槍使いに刺されてっ……んっ? おや、ここは一体……」
「なんか変な悪夢、見てますねぇ……ん? 何だろ今の、私にも刺さったな……まあいっか」
「ん……ん、んん!? し、甄嘉……甄嘉――! 峠を……峠を越えたのだな!? 一命をとりとめて、良かった……本当に、良かった……!」
「……えっ!? あ、あの、まさか私、そんなに危険な状態だったんですか? 私が気付いていないだけで……!?」
「うう、うう……医師団などは〝怪我とか一つも無いです〟〝疲れて眠っているだけです〟と言っていたが……」
「じゃあ何事もないんですよ。信じてあげてくださいよ。疲れていただけですってば、もう~……」
さすがに少しばかり呆れている、と――ガバッ、と身を乗り出してきた曹操様が、急接近して言ってくる。
「だが、そうは言ってもだなっ……長坂での戦いが終わり、甄嘉、キミを馬車に乗せた瞬間……臥すようにして意識を失ってしまったのだぞ!? いくら声をかけても目を覚まさぬし、心配しても仕方ないだろう!?」
「えっ、あ……そ、そうだったんですか? うわあ、それは……ご、ごめんなさい……あっいえ、申し訳ございません。ご心配をおかけ――」
「そんなことは、よい! 取り繕って、畏まる必要もない……甄嘉よ」
「え……う、うひゃあっ!? ちょちょ、何で急に手を握って……近い近い、顔も近すぎですってばぁ、曹操様!?」
慌てふためく私に、何とも乱世の奸雄な曹操様は、構うことなく――大きな目で、真っ直ぐに見つめてくる。
ひゅんっ、と思わず息を吸い込んで動けなくなる私に、沁み渡るような声で告げてきた。
「おれと……せめて、二人でいる時は。主従のように畏まらず、自然体でいてくれて、良い。いや……そうしてくれ。それこそ、奉孝の弔いに涙していた、初めて会った……あの夜のように」
「! ……あっ……そ、曹操様……」
「あの時の……割と容赦なく謎の罵声を浴びせてきて、少々出来がアレな、よくわからない詩を歌っていた……あの夜のように」
「だから放っといてくれません?」
「ひいっ!? ……そ、そうそう、そんな感じの」
軽く怯えても、握った手は離さない――そんな曹操様の言うことは、何だか自分でもおかしいと思うくらい、温かに感じて……つい、私は言い放った。
「……わ、わっ……私の最推しは、あくまで郭嘉様なんですから――勘違いしないでくださいよねっ――!?」
「えええあまりにも性急なる感情の発露!? されど新たなる時代を感じさせる、おれも知らぬ詞藻が、よもや此処に!? ならばあの時のアレな出来の詩も、よもや名文の可能性が……くっ、視野が狭かったのは、おれの方か! 急ぎしたためて、後世に残しておかねば!」(好感度↑・士気↑)
「うおおおおやめとけやめとけ! どう考えても失笑を買うだけですよ、歴史的失笑を! 別の意味で死んじゃいますよ私、やめてくださいねホント!?」
「ええと、確か……推し、失くせり、この世界など。甲斐なし、価値なし、生ける意味なし。死して――」
「よく覚えてやがりますねぇ、さすが文人としての才能もお有りで! まあ記憶力の話なんで文才、関係ないかもですけど! もお、や~め~て~!?」
まあ本当、私の突発的な転生後・黒歴史を記録にも記憶にも残すのは、勘弁してほしい。
けれど……外では軍師として、なんて格好つけて構えていた私は、確かに気を張りすぎていたのかもしれない。この夜は、何だかそんな緊張が、ほぐれている気がする。
曹操様も私の前では気弱な顔も見せてくれるように――
私も、曹操様と二人の時は、自然体でもいいのかな――
なんて、考えてしまわなくもないのだった。……ちょっとだけね!
「……あ、そうそう甄嘉、惇がな、キミが起きたら二十四時間の説教を敢行してくれるわ、と涙ながらに息巻いていたから、気をつけてな?」
「えぇ……そこは曹操様、ちょっとこう……取り持ってくださいよお……」
……まあちょっと、先行きに不安もあるけれど。
久しぶりに、自然体で夜を過ごせた気がした――




