第21話 女軍師の帰還――新たなるヒロイン仲間のご紹介! ~ 惨劇を回避せよ!~ ※第二幕ラスト
宛にて蔡琰による反乱を、事前に鎮圧せり――格好だけはそう見えなくもない私が、馬車で復路をまた数日かけて戻っていく。
すると、新野のお城に入った途端、珍しく慌てた様子の文学系イケメンが走り寄ってきた。
「し、し、し……甄嘉殿――ッ! ご無事で何よりでしたっ……うう、申し訳ありません、甄嘉殿を一人で向かわせるなど、わたくしはどうかしておりました……どう考えても、最低でも護衛くらい付けるべきだったのに……!」
「い、いえいえ荀彧殿、顔を上げてください!? そもそも私が言い出したことですし……(〝神算鬼謀〟の効果もあったと思うし、謝らせるのも申し訳ないな……)」
荀彧殿に謝られ、逆にこちらが恐縮していると――今度は青みがかった黒髪が艶やかなイケメン、即ちご主君が駆け寄ってきた。
「うおおおおお!! 甄嘉、甄嘉よ! 無事であったか!? 何という無茶をする、怪我などしていないか――!?」
「ぇ……きゃああああ!? そそ曹操様、近い近い、近いですってぇ!? だ、大丈夫です、どこも何ともないですから……ていうかご主君が一臣下を気遣い過ぎですよ、異常ですよこの待遇!?」
「う、うう、そんなことはない、これでも弁えている……その証拠に、編成中の軍を分けて十万程度の軍で、宛城へ向かう準備をしていた程度だ……全軍で向かわないだけ、自重しているだろう?」
「それで弁えておいでのつもりなら世は乱れっぱなしで治まることなんてあり得ませんねぇ!? ご健康な内に覇道を成したいなら、もっと王者として余裕をお持ちください!?」
「! お、おお、その諌めよう、ハッキリとした物言い……郭嘉を、奉孝を思い出すな……!」(好感度↑)
心臓に悪い急接近を受けて息切れしている私とは対照的に、呑気に仰る曹操様……の横で、先んじて落ち着いた荀彧殿が、ふと声を上げる。
「? おや、あの……甄嘉殿の後ろに隠れておられるのは、どちら様でしょう?」
「あ、はいっ、この子は……今回の騒ぎの中心である、蔡琰殿です」
「!? 何と……つまり此度の、反乱の首謀者――!」
「――いいえ荀彧殿、彼女にそのようなつもりは、一切ありませんでした。ただ彼女の魅力に翻弄された者たちが、何やらおかしな状態になっていただけのこと(ウソは言っていない)……そちらも今は落ち着いているはずです。蔡琰殿は右も左も分からぬ中で、懸命にお役目を果たそうとしていただけ(ウソは言っている)……私は彼女を見捨てられません。どうか彼女を、私の下に付けては頂けませんか?」
「何と慈悲深い……! 甄嘉殿、まさに仁の御方……!」(好感度↑↑↑)
やっぱり素直過ぎる荀彧殿は心配になるけど、とにかく今はサイちゃんに自己紹介してもらうことを優先しよう。
「それじゃ、サイちゃ……んんっ! ……蔡琰殿、お二人にご挨拶を……」
「は、はい。えっとわたし、サイエン? って言いま……え。……――!」
「「??」」
ふふふ、曹操様と荀彧殿を見て、さすがのサイちゃんも驚いているわね……何せ普通じゃないレベルの絶世のイケメンだもの。なんかアレね、自分の推しゲーを人に勧める時みたいな楽しさがあるなぁ。さて、サイちゃんは何て言うのか――
「……うへぇ、イケメンすぎて、なんか逆に胸焼けするわ~……」
「何て?」(曹操、蔡琰への好感度↓)
「はい?」(荀彧、蔡琰への好感度↓)
「ちょちょちょサイちゃん、一回コッチに……戻って、早く、こい!」
「? わんわん」
呼んだら素直に戻ってきたサイちゃん。犬ちゃんの呼び方っぽいけど良いのかな、と思いつつとにかく問いただす。
「いやあの、礼儀とか色々と言いたいことあるけど……あのイケメン見て、何とも思わないの? ドキッとしたりしない?」
「あぁ~……ぶっちゃけわたし、恋愛とかあんま興味なくって……イケメンって言われてもな~、まあカッコイイとは思いますけど、それ以上どうとか別に……」
「サイちゃん何で乙女ゲームのテーマソング歌ってんの? ていうか他にも恋の歌とか歌ってなかった?」
「? 歌詞にそう書いてあったから」
「やっぱサイコちゃんって呼ぶべきなのかな?」
「えへへ、照れます★ ……あっ、甄お姉さまはチョー美人で興味津々ですよ、もっと仲良くなりたいです!」(好感度↑)
「思わぬところで危機感だわ。まさかの展開に私の焦燥感が焚けるわ。いやまあ仲良くしたい、って思ってくれてんのは嬉しいけど、でもね?」
と、女同士で作戦会議していると、曹操様と荀彧殿も何やら言葉を交わしていた。
「……うむ。なんかよく分からんが、甄嘉が楽しそうだし……女人同士で仲が良いのは、見ていて和むな! ならばよし!!」(士気↑↑)
「そうですね、職場が華やいで良いことと思います!」(士気↑↑)
なんかよく分からんですけど、皆の士気が上がったみたいなのでヨシで~す★(勢いで押せ押せ~!)
――なんて、そんなことを城内の通路で話し込んでいると、廊下の更に奥から眼帯の偉丈夫が歩を進めてきた。
「――甄嘉殿! 話は聞いたぞ、一人で宛城の反乱を治めに向かったとか!? 全く、そのような無謀、軍中の軍師として自覚が足りんのではないか!! そもそも軍を離れるなら、この夏侯惇に声をかけるべきではないか!? 最低でも護衛くらい付けてやるというに、フンッ!!」
(意訳:声をかけてくれたら付いて行ってやるのに……)
「あっ、夏侯将軍……いえ、夏侯惇殿。申し訳ございません、急ぎでしたのでお伝え出来ず……ですが、無事に帰還いたしました! 反乱も実際には起きておりませんし、どうかご心配なく!」
「フン、別に心配など……まあいい、無事に戻ったなら。……ん? 何だ、見ない顔がおるな。また新顔か?」
そこでやっとサイちゃんに気付いたらしく、夏侯惇殿が精悍な顔で覗き込むと――サイちゃんは反射的に後ずさった。
「え。……ひいっ!? こ、怖っ! どう見てもカタギじゃないですよ、この人! まさかヤのつく自由業の方!? ひえええ話とかしたら事務所に怒られる~!?」
「ああん? ……フン、別に……女子供に怖がられるのなど、慣れておるわ。この夏侯惇が、今さら気にすることなどない……」(蔡琰への好感度↓・士気↓)
「ま、まあまあ。……私は夏侯惇殿、カッコイイと思いますよ? 体躯も逞しくて頼りになりますし、誠実でお強いですし!」
「! ふ、フンッ、そんなおべっか、この夏侯惇に通用すると思わんことだな、甄嘉殿! ……フンッ、フンッ!!」(甄嘉への好感度↑↑↑・士気↑↑↑)
まあサイちゃんも、このゲームプレイしたことないらしいし、夏侯惇殿のツンデレ知らないから怖がっても仕方ないけど……何はともあれ、上手く仲裁できたかな? どうだろ、う~ん?
そうして私が頭をひねっていると――城中の通路で立ち話をしているのを見かねてか、皆の生活を世話する官人の人達が、ヒソヒソ話してこちらを見ていた。
「おっと……曹操様、荀彧殿、夏侯惇殿。私はこのまま、新入りのサイ……蔡琰殿を案内しますので、これで失礼いたします。積もる御話はまた、後程にでも。……さ、行きましょ、サイちゃん」
「あっはいっ、甄お姉さまっ。それじゃ、シツレーしますっ!」
ぺこっ、と営業モードのお辞儀をするサイちゃんを連れ、イケメンお三方に微笑ましく見送られると――はた、と気付く。
先ほどの官人たちは、まだこちらを見て、ヒソヒソ話をしていた。
(何だろ……う~ん、まあ前線基地みたいなお城で女が二人って、目立っても仕方ないか。気にせず行っちゃえ)
「? 甄お姉さま、どーしました? 早く行きましょ~よ~、お腹減っちゃったし、なんか食べましょ!」
「え、ええ、サイちゃん結構よく食べるわよね、お酒も好きだし。…………」
――ふと。
サイちゃんを――私と同じ〝転生者〟を見て、思うことがある。
今こうして、ここに甄氏である私と蔡琰……プレイヤーとして選べるヒロインに、私たちが転生しているのなら。
別の勢力にも存在するヒロインにも――誰か転生しているのだろうか――
考えても分かることじゃない。けど、そう考え始めると、このゲームはもっと早い時期からスタートすることだって出来る。
だとすれば、そこのヒロインにも……いや。
(――な~んてね。実際にこの世界や、曹操様の国を見た感じ、今のとこ大きな変化は無いみたいだし、ナイナイ。もっと前に他の転生者なんていたら、もっと分かりやすく状況が変わってるハズだもん。サイちゃんも私と同じくらいに転生したなら、その辺が何かの基準なのかなぁ)
「甄お姉さま~! は~や~く~!」
「あっ、はいはーい。もう、先に行かないでってば、そっちは違うわよー?」
「え~、なんだぁ。……ちなみにコッチ、何があるんです?」
「捕虜とか拘束するための牢屋だったかな、確か」
「怖っ。……早く離れましょ、ごはんごはん!」
手を引っ張ってくるサイちゃんに、はいはい、と軽く返事しながら――私たちは、その場を離れた。
◆ ◆ ◆
甄嘉と蔡琰が離れてからも、官人はひそひそ話を続けていた。
「……やれやれ、また女人ですか。この城は最前線に近いというのに、異常ですな。全く、女人が戦に、何の役に立つというのか」
「あいや、滅多なことを言うもんじゃありません。何せあの女軍師さん、丞相様(※曹操のこと)のお気に入りのようですし。……それに」
ふう、と一つ間を置いて、述べた言葉は――
「かつて、魔王と恐れられた董卓を自ら討った――貂蝉殿という前例もありますし」
その言葉は、二人の官人の間でのみ交わされ、甄嘉に届くことはなかった。




