第20話 転生ヒロイン同士、紡がれし絆――ほら百合だぞ喜べよ(計略・虚報)
蔡琰ちゃん――転生前はSi-Renという活動名の歌手で、本名は彩子ちゃんだという。乙女ゲームのヒロインである蔡琰として、真ん円な瞳と人懐っこい雰囲気の美少女で、特徴的な美声がしっくり来る。
どこか妹っぽさを感じる彼女が、思いついたように声を上げた。
「あっ、そうだ! さっきから、その……サイエン? って、ちょっと違和感あるんですよねぇ、サイレンとも違うし……だからお姉さま、わたしのこと、もっと気軽に……名前のほうで、彩子とでも呼んでくださいっ!」
「あ、じゃあサイ、コちゃ……うん、コンプライアンス的なアレやコレやを鑑みて……蔡とも合うし、サイちゃんって呼ばせてもらうねっ♪」
「え~っ、愛称みたいで嬉しい~! わたし転生前ぶっちゃけ引きこもりだったし、友達とか初めてだから……えへへ♪」
「わあ、しっとりと闇を感じるわ……ま、まあそれはともかく。……じゃあサイちゃん、私からもお願いがあるの」
蔡琰――改めサイちゃんは、首を傾げつつ、私の続く言葉を聞いてくれた。
「私、この世界では甄嘉って名乗っているんだけど……転生前は、嘉那慧って名前だったの。それを知っている人も、もうこの世にいなくて……あんまり呼ばれないでいると、忘れちゃいそうだからさ。二人きりの時は、サイちゃんだけでも、私のこと……嘉那慧、って呼んでくれない?」
「! ……お姉さま……」
「うふふっ……なんか照れるけど、ねっ♪」
照れくさくなって、鼻の下を軽く指先で擦っていると――サイちゃんは、輝くような笑顔を向けて、こう言ってくれた。
「う~ん……呼び分けとかめんどいですし、甄お姉さまで良くないです? あっ、覚えやすいし、しっくりくるっ。甄お姉さま、よろしくです~っ♪」
「貴様ッ……!!」
「ほへー?」
なんか転生前、この子に友達がいなかったの、分かる気がするな。まあでも悪気は無いのだろう、仕方なく〝甄お姉さま〟とやらを受け入れることにした。
……それに、この〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の世界に、いきなり放り込まれた〝転生者〟同士なのだ。私はシリーズファンだし、心から喜べる部分も多いから良いものの、ゲームを良く知らないサイちゃんは、そうではない。
仲良くして、気遣ってあげなくちゃね。本当に妹が出来たような気になっていると、そんな彼女が手を叩いて言った。
「……あっ! 甄お姉さま、思い出した! わたしわたしっ、このゲームで好きなキャラ、ちゃんといましたっ!」
「……え~っ、なにそれ、話を合わせようとしてるだけじゃないの~?」
「そっ、そんなことないですってぇ~! そいえばプロモーションビデオとかも見ましたし、パッケージにもデッカくイラストあったし……めっちゃカッコイイ~! って思ったキャラ、いましたよ~!」
「え~っウフフ、ホントに~? ホントかな~? ウフフフ♪」
その割にゲームを開封もしていなかったっていうのはアレだけど、でもきっと、サイちゃんなりに仲良くしようと、頑張って思い出してくれたのだろう。
何だか胸が温かくなりつつ、サイちゃんの推しキャラを拝聴して――
「趙雲ってヒト!!」
「敵!! それっ私らの勢力の敵!!!」
……う、うんまあ、趙雲、乙女ゲーム的にも正統派の超イケメンで、人気もめっちゃ高いし、仕方ないッスね……サイちゃんなりに、頑張ってくれたんだしね……ぶっちゃけ曹魏勢力以外でも、私だって好きな武将とか一杯いるもん。
そう、私は押しつけがましいオタにはなりたくない。趣味なんて、人によって違うんだし……そうだ、私はしっかり自制して、理解のあるオタであらねば!
なんてことを考えていると、まだサイちゃんには推しがいるらしく――
「あっ、あと真田幸村とか♪」
「ジャ・パ・ン!!! Not三国志!! Yes戦国時代!!」
「ほえー?」
いやまあ、私も戦国時代好きだけど、でもやっぱり、相容れない部分も多いかもしれない。思った以上にヤベー女だと、改めて分からされつつ、先行きがそこそこ不安になる私だった。




