第19話 蔡琰の野望 ~反逆立志伝・その恐るべき計画の全貌
「……なな、なるほどぉ~……サンゴクシ、あっいえ三国志っていうのは、外国のほうの中国の歴史で、ここは日本じゃない、と……確かに何か、中華料理屋さんみたいな柄、多いな~って思ってましたけど……」
「はい、そうなのです。……まさか転生して中国史の授業するとは、思わなかったわ……しかも一か月もいて、日本と思ってたとか。まあでも、理解してもらえた?」
「は、はいっ! おね教官!」
「誰が〝おね教官〟よ、鬼教官みたく言うな」
「ヒッヒエーッすみませぇん! ……あ、でも、ここがゲームそっくりの世界で、実際の歴史と時間の流れとか違う、っていうのはよく分からないんですけど……あとわたし、日本人なのに、言葉も通じるし文字とか読めるし……」
「いいのよ、そういうのいいのよ、転生ってそんなもんなのよ。正直、私も転生前は疑問だったけど……よく考えれば私達、元は甄氏と蔡琰なんだから、それで分かるんでしょ。そもそも、実際に言葉も文字も分からない状態で放り出されるとか、最悪じゃない?」
「た、確かに! ただでさえ急に転生して意味わかんないのに、想像するだけでゾッとしちゃいます!」
「でしょ。……ていうか蔡琰ちゃん、転生直前は何してたの? 転生するのなんて、大体は死んじゃった結果なんだけど……」
「あ~、それが全然、心当たりないんですよねぇ……この体で目を覚ます直前、浴びるようにお酒飲んでたことくらいしか覚えてなくて、酔って記憶も飛んでて……」
「それは心当たりが無いんじゃなくて、心当たりに気付いていないんじゃない? ホント、言葉ごとにヤバさが積み重なっていくな……ていうか、そろそろ本題なんだけど。……蔡琰ちゃん」
急に真面目なトーンになった私に、キョトン、とする蔡琰ちゃんだけど――私は遠慮なく、本題を尋ねた。
「何で貴女、この宛城で――反乱を起こそうとしているの?」
「えっ。……えええ!? してません、してません、そんなこと! ほんっとーに、全く心当たりナイです~~~!?」
「……はあ、でしょうね……こうやって話をしていて、そうじゃないかと思っていました。では……城内にいる、曹操様の臣下たちの異常な様子に、心当たりは? 明らかに、貴女が関わっている様子でしたけど……」
「! ……っ、そ、それ、は……うう、うっ……ああ、ああっ……」
「!? さ、蔡琰ちゃん……大丈夫? 一体、何に怯えて――」
まさか〝転生者〟云々どころか、事態はもっと最悪だったのかもしれない。
そう、それこそ、彼女を操る黒幕でも存在して――そんなことを考えていると。
『『『――――失礼する』』』
「! あ、あわわ……ま、まさか……ひいいっ!」
「っ。蔡琰ちゃん……くっ、貴方達、女性の部屋に無断で足を踏み入れるなど、無礼ですよ! お下がりなさい!」
『『『…………』』』
「くっ……話が、通じないなんて……」
誰も彼も出ていくどころか、微動だにせず真顔で立ち尽くしている。私の〝鬼謀〟で成功率0%も見えているから、〝一喝〟して追い出すことも出来ない!
そして突然の闖入者は、据わった目で、眉をひそめ――切なげに言った。
『交友したのか……拙者以外の武将と……』
『文を交わしたのですか……自分以外の文人と……』
『内政したのかね……わし以外の文官と……』
「いっ、いっ……いやああああああっ!? また来たぁぁぁぁぁ!!」
「さては蔡琰この人たちに八方美人な態度、取ってたでしょ!? 乙女ゲームなのよコレ、恋愛シミュの要素だってあるんだから……思わせぶりなことして変な好感度の上げ方すると、人物同士でいがみ合って爆弾が出来て、いつか爆発すんのよ!」
『反乱するのか……わがはい以外の奸臣と……』
「もう集まってくんな! 散れ散れ、お散りなさい!」
『『『承りて候』』』
さっきの『〇〇したのか……』を言い終えて少しは満足したのか、成功率が10%を超えたおかげで、すんなりと帰らせることに成功した。しかし異様な雰囲気の大の男たちが、揃ってスゴスゴ帰っていくの、シュールだなぁ。
一方、思いもしなかったこんな窮地を脱して、蔡琰ちゃんが目に涙を溜めて私を見つめてくる。
「わ、わああっ……お姉さま、すごい、すごいです! あの変な人達、最初は人当たり良かったから、コッチも営業モードでニコニコしてたんですけど……なんか気づいたら、あんな感じになって……最近じゃ暇があればわたしを取り囲んで〝〇〇したのか……〟って囁き続けてくるようになって……放っといたら、その内に帰ってはいくけど、でもぉ……怖ぐっで、引ぎごもるじがながっだんでずぅぅぅ……」
「ああ、はいはい、泣かない泣かない。……まあ私はゲーム知識があるから、分かるんだけど……アレもう爆発寸前ね。危なかったわね」
「ひ、ひえええ、爆発って怖いですねぇ……まあでも、女の子向けのゲームなんですよね? じゃあ実際に爆発とかしても、そんなにでも――」
「配慮のなかったシリーズ初期の方だったら……爆弾状態の人数分だけ刺されてバッドエンドね」
「黒ミサとかの話です?」
「三国志も知らない割に、黒ミサとかは知ってんのね……まあ安心して、シリーズ最終作のⅩにまでなると、ある程度はマイルドになっているわ」
「そ、そうなんですか? ホッ……」
「刺してくるのは爆発した一人だけになって、そいつと一緒に船で長江を流れていくバッドエンドになります」
「結末が尖りすぎじゃないです? 乙女ゲームってデスゲームなんです?」
「デスゲームじゃないわよ、ちょっと選択肢の結果が厳しいだけで、かなり頑張れば普通に好きなキャラとイチャコラできるわよ。まあ放っといても勝手に爆弾発生したり、反乱そそのかしてきたりするヤツいるけど」
「かなり頑張らないと無理ゲーなら、わたしゼッタイ向いてないですよぉ……」
「まあそうみたいね。……はあ、まあ同じ転生者で、乗りかかった船だもんね……仕方ないか」
「へ? お、お姉さま? 何が……?」
顔にクエスチョンマークを浮かべる勢いで、首を傾げる蔡琰ちゃんに――私は苦笑しながら告げた。
「蔡琰ちゃん――貴女のことは、私が保護することにします。このまま放っておけば、この宛城は文字通り炎上して、貴女は尖った最期を迎えるはずだから。さすがにそれは、夢見が悪いもんね」
「! あ、あああっ……う、う……うわぁぁぁぁんっ! ありがとうございます、お姉さまぁぁぁぁ!」(好感度↑↑↑)
「い、いいってば。反乱を未然に防ぐのも必要だし、今の状況で宛城を炎上させるわけにもいかないし……それに同じ境遇で、分かり合える子がいてくれるのって……私にとっても、ありがたいんだからっ♪」
「う、うう、お姉さまぁ、女神みたいですぅ……エンジョーがエンジョーとかは、なんかよくわかんない寒いダジャレみたいですけど……」
「シバくぞ」
こうして、初めて出会った〝転生者〟仲間は――まあ随分と尖った前世や性格の持ち主だけど、保護することになった。
私たちは同じ境遇の仲間として、今しばらく言葉を交わすことにする。




