第18話 転生者・蔡琰――その驚愕の正体とは――!?
「よ、よしよし……えっと、蔡琰さん……蔡琰ちゃん? 落ち着いた?」
「ぐすんぐすん……うぃす、どーにかこーにか、落ち着きました! あざっす!」
「切り替えの早さエグくない?」
「えへへっ、よく言われま~すっ♪」
先ほどまで泣き腫らしていたのは何処へやら、満面の笑顔の前で「ぶいっ」とピースサインを作り、ポーズを取る蔡琰ちゃん。何か思っていたのとは別の意味でヤベー子かもしれない。感情の波が激しすぎっていうか……ハッ!?
……どうしてだろう、一瞬、郭嘉様を失った後の、泣き濡れた日々を思い出しちゃったけど……関係ないな、ウン! 私の悲哀と悲嘆は、推しを失えば当然の感情だし!
というわけで迅速に結論付けた女軍師・私に、蔡琰ちゃんが語りかけてくる。
「それでそれでっ……わたし達って、一体どーなっちゃったんですか!? 〝転生者〟って言われても、わたし良く分かんないんですけど……」
「あ、うん、そっか……えっと、じゃあ説明する前に聞きたいんだけど……蔡琰ちゃんって、いつ頃この世界に転生してきたの?」
「あ、えーと、確か……一か月くらい前、だったかなぁ? 多分……」
「ああ、じゃあ私と同じくらいか……それだけ過ごしてるなら、もう勘づいているだろうけど。……この世界は〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の世界よ。あの有名な〝三国志〟を元ネタにした乙女ゲームの、ね――」
まあこの世界に転生してくるくらいだ、これくらいは分かり切っているだろう――と考えていた私の楽観は、次の言葉でブッ飛ばされることになる。
「? ?? ……サンゴクシ? って、なんですか?」
「えっ。……は!? ちょ、待っ……知らないの!? 三国志とか三国時代とか、授業なんかで聞いたことくらい、あるんじゃない? ほら、中国の歴史で……」
「……! あ~! 尾道ラーメンとか有名な!」
「それは日本の中国地方なんだわ!! 中国の発音は同じだけども!」
「え~……ややこしくないです? って……ああ~、外国の! アレですよね、中国って、あの……ラーメンが出来たとこ! ……で、サンゴクシっていうのは? ラーメンの種類なんです?」
「あなたラーメンのことばっかね!? いや、ガチで三国志も知らないのに、この世界に転生して来たって、そんな話ある!? コレそんなランダム性が高いの!? じゃあ中華歴史オタでシリーズファンの私が転生したのも、偶然……イヤイヤおかしいおかしい! そんな関係なくても転生してきちゃうなら、この世界、転生者だらけになるわ! 通り魔か何かか! まさかその辺を歩いている人とか賊さんとかも、転生者だったりするわけ!? いやそんなはずあるかーいっ!」
「わ~、お姉さま、すごい喋る~。博識だし、頭いい人っぽい~♪」(好感度↑)
「誰がお姉さまよ! ハア、ハア……いやいや、さすがにおかしいでしょ……この世界に転生した心当たりとか、何かないの!? 〝ロード・オブ・三国志〟シリーズの隠れファンとか、一度くらいプレイしたことあるとか……」
「ええ~? そんなこと言われても、わたしゲームとか、あんまりやらないんで……う~ん、う~……んっ? ……〝ロード・オブ・三国志〟? どっかで、聞いたような……あっ!」
「! なになに? 思いついた? 聞かせて!?」
想像以上にヤベー子が積み重なっていく蔡琰ちゃんだけど、幸いにも――本当に、幸いにも! 何か思い当たることがあるらしい――!
「あったあった、〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟……わたし、歌ったわ~主題歌!」
「は。……はい? え……主題歌? えっ?」
「あれ、ていうか挿入歌とかもだっけ……ん~、よく覚えてないけど、まあ歌った歌った、歌いました! そんな感じですけど……あれ、お姉さま?」
「ちょちょちょ、待って待って、追いつかない……頭と気持ちの整理が、追いつかない……あの、蔡琰ちゃん……その、転生前のお仕事は……何をなされて?」
「なんですか急にかしこまって~。えっと、何をって一応、歌手を?」
「……んんっ、ん~っ……それって、まさか……」
いや、だとしたら私にとっては、衝撃の事実すぎるんですけど。
シリーズファンとして、忘れ得ぬ名を――私は口にした。
「〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の、曹魏勢力のテーマソング含む歌全般、ご担当なさった……歌手のSi-Renさん、であらせられますか?」
「あ、そです、そですっ♪ もちろん活動名で、本名は彩子っていうんですけど……あ、でもお葬式の歌は歌ってませんよ~、多分♪」
それは曹魏じゃなく葬儀やろがい、なんてツッコミも出ないほど、私は絶句し――こんがらがった頭のまま、次の瞬間には口を開いていた。
「わ、わぁ~っSi-Renさん!? うっそ~、信じらんな~い! 〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の歌、めっちゃ感動しました~! 三国志への深い想いとか、歌を通して伝わってきて、すっごい好きで! もうずっとずっとファンですって伝えたくて~!」
「え、ホントです~!? も~めっちゃ嬉しいです★ ワハハ――」
「だがしかし。……三国志、ご存知ない、と? ……テーマソング歌った〝Ⅹ〟のことも、よく知らない、と?」
「へ? あ、えーと……あっ、でも確かにメーカーさんから、なんかパッケージ版とか何とか届いてたかも♪ でもゲームよくわかんないし、確か開封もしてないや。サンゴクシっていうラーメンも食べたことないですし。あはは」
「ほう。……ほうほう、ほうほうほう……」
……うん、そうよね、まあ……まあまあ、ね? テーマソングを歌っているからって、そのゲームのこと知らなきゃいけない、なんて義務ないだろうし。それこそ押しつけがましいし。そもそも本人は仕事だろうし、ね?
うん、理解しよう……理解を、した上で……私の口は、勝手に動いていた。
「蔡琰殿。……そなたのこと、討ち取らせて頂いてもよろしいか?」
「な、ナゼ!?」
ナゼもクソも。
とにかく、こうして……会うべきか、会うべきでなかったか、ちょっと判断が付きにくい、〝転生者〟同士の出会いが――
私のハートに、まあまあの引っかき傷をつけて、果たされたのだった。
――――――★女軍師・甄嘉のやわらか人物評★――――――
『蔡琰』プレイヤー選択可能キャラ(ヒロイン枠)
字は文姫、もしくは昭姫。男尊女卑ハンパねー中国史に、名前どころか字まで残っている稀有な女性。それほど優れた文人で、詩歌の達人だった。
元は北の異民族(恐らく匈奴)に浚われ、曹操のおかげで帰国できたという、シャレにならない経歴の持ち主。経歴でシャレにならないのは甄氏とかも似た者だけど。
ちなみに〝ロード・オブ・三国志〟でプレイヤー選択可能になったのは後期のナンバリングで、北の異民族に浚われた蔡琰を曹操勢力のイケメン達が救う、というドラマチックなイベントになっている。
配慮の薄いシリーズ初期のほうで登場していたら、どんな目に遭ってたか考えるだに恐ろしい。後の方で良かったね!
プレイヤー以外としての登場人物になると、お淑やかで気弱な、文人らしい子のはず……だったん、だけど……。
『Si-Ren=本名・彩子ちゃん』転生者……だそうです……
元々ソーシャルメディアで歌動画を上げ、そこから人気になって歌手デビューした。基本的に高音が得意、な割に低音までこなす幅広い音域。何より肺活量の限界に挑むようなロングトーンは、聴く人を悉く驚嘆させ魅了するほど。
もう私も大ファンでっ、〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟で聴いてからハマったんだけど、今じゃSi-Renさんの歌は全部聞いてるくらいで~!
でもでも事務所さんの意向で〝取材、絶対拒否!〟なんだってぇ~……でもそこがまたミステリアスっていうかぁ~!
理由、わかったわ、今。
知りたくなかったわ、理由。
転生先で、まさかこんな事故に遭うなんて思わなかったわ。
ワハハ(哀愁)
――――――――――――――――――――――――――――




