第16話 反乱の兆し――?
「ところで甄嘉殿、宛城にて反乱の兆しがあるという噂をご存知でしょうか?」
「……え、ええっ?」
城内で内務を教わっていた最中、荀彧殿が世間話のような気軽さで、えらく物騒なことを尋ねてくる。間抜けな声を漏らしてしまった私に、彼は学士らしい清廉な表情は崩さず、視線は文書に向けた横顔のまま続けた。
「いえ、わたくしもまだ、詳細な情報は掴んでいないのですが……宛城は、この新野からも遠くはない。曹操軍は荊州への南征を準備している最中。万が一でもあれば、と思うと……後顧の憂いは、捨て置けぬかと思いまして」
「な、なるほど。……う~ん、ですが荀彧殿……それこそ私たちは南征に向けて軍備を固めている最中で、主要な家臣は、この新野に集められていますよね? 末席の愚考で申し訳ないですが……反乱を起こせるほどの御方って、失礼ながら他にはあんまり思い浮かばなくって」
「ふふっ、さすが甄嘉殿、わたくしもそこは、同じ考えなのです。……なのですが、少々、人望というか、妙に人が集まっているというか……いえ、もはや勢力と呼べそうなほどの膨れ上がり方が、異常に思えまして」
「!? 勢力、って……そこまでになるなんて、大ごとじゃないですか! う~ん、誰だろ、高幹殿? 昌豨殿? う~ん……?」
「お、おお、際どい所を突いてきますね、さすが……まあ確定ではないのですが、疑惑がある人物の名は、報告が上がっております」
荀彧殿こそさすがの仕事ぶりで、改めて問題の人物の名をあげた。
「動機が全く不明で、不可解ですが――蔡琰殿という――」
「――――」
「? 甄嘉殿、どうなさいました? ??」
顔を覗き込んでくる勢いで、荀彧殿が心配してくる。それもそうだろう、その名を聞いた瞬間、私は思いっきり絶句していたはずだから。
とはいえ、おかしな反応をしてばかりもいられない。私はすぐさま気を取り直し、荀彧殿に告げる。
「なるほど、御話は分かりました……荀彧殿のご懸念、尤もだと思います。軍略は、微に入り細を穿つことで成り立つもの。少しでも懸念があれば、捨て置くべきではない、と……きっと郭嘉様も、考えたことでしょう」
「! おお、おお……ええ、その通りです! 郭嘉殿の先見は、それほどまでに冴え、細かく行き渡っていた! 甄嘉殿に相談して、正解でした!」(好感度↑)
「そんな、大げさです。……さて、そういうわけで……宛城には私が赴き、様子を見て参ります。ご主君や諸将の皆様にも、どうかお伝えいただければ……」
「……えっ!? な、何も甄嘉殿が赴くことなど……いえ、せめてわたくしもご一緒します! お一人でなど、行かせられません!」
「ふふっ、ご心配なく。幸いにも、この間、直属の兵を二千も頂いておりますし……それに」
ここは自信を示し、はっきりと〝説得〟を発動するが吉、と〝神算鬼謀〟が示してくれる。
「私には、この件を解決するにあたって、策がございます――必ずや事を収めて参りますので、どうかご安心くださいませ!」(〝説得〟成功率100%!)
「お、おお……何と頼もしい! かしこまりました、ご主君や皆への説明、わたくしにお任せを! 甄嘉殿……どうか、どうかお気を付けて……!」
――というわけで、どうにかこうにか思惑通り、一人で〝宛〟へ向かう許可を得た。
そう、今回は一人で行くべきだ。その理由は、先ほど耳にした名前にある。
〝蔡琰〟は――甄氏もそうだけど、実在の人物とされる――女性。
そして、乙女ゲーム〝ロード・オブ・三国志〟シリーズにおいては、
彼女もまた――プレイヤーとして選べる人物なのだから――




