第15話 奸雄ミッドナイト★ ※第一幕ラスト
〝許昌〟からの移動中、遭遇した賊軍を平定した私たちは、そのまま〝新野〟の入り口付近のお城へ入っていった。
簡単に言えば、徐々に南へ向けて移動しているところだ。そして時間は少し過ぎて夜半ば、私は今、手配してもらった部屋に一人でいる。
デビュー戦を経て、体は疲れているのに、目が冴えて眠れもしない……いや、初めての戦を体感したからこそ、眠れるわけがない。
思い返せば、勢いとはいえ、ゲーム知識があったとはいえ、神技能を継承していたとはいえ――随分と、無茶なことをした。
10%以上の成功率があれば〝確定成功〟なんてブッ壊れチート技能〝神算鬼謀〟を持っていた、けれど――実のところ、話はそう簡単じゃない。
賊兵に対して、私が速攻で〝降伏勧告〟を使わなかった……使えなかったのには、大きな理由がある。
単純に、開戦時には10%以上の条件を満たしていなかった――〝鬼謀〟で確認した限り、1~2%がいいところだったのだ(※まあゲームでも、いきなり降伏勧告の成功率が高いことは、早々ないんだけど……)。
だからこそ私はあの時、夏侯惇殿に囮を頼んだり、伏兵計を使ったり、戦場を差配して優位に進め、敵の士気を下げ――成功率10%以上をどうにか確保する必要があったのだ。
さすがに最後に迫られる段階までには……具体的には伏兵を破った辺りで、降伏勧告の成功率は確定になっていたけど……どこかが綻んでいれば、ああも上手くはいかなかったはず。
あの時は、勢いに乗って、どうにか強がれたようなもので……本当、今さらになって、事の大きさを振り返ると……。
「……は、はぁぁぁ……こ……怖かったぁ~……ていうか上手くいって、ほんと良かったぁ~……そこが一番、心配だったし……」
『――そうか、キミも本当は緊張していたのだな、甄嘉』
「――――!?」
突然に声をかけてきた人物は、〝女の部屋に勝手に!〟などと怒るのも憚られる……のはこれで二度目の人物。
曹操孟徳――曹操様が、神妙な表情で現れた。
「夜分遅くにすまないな、甄嘉……無断で足を踏み入れて、悪いとは思うが」
「女の部屋に夜中に訪ねてくるのが趣味だったりします?」
「うぐうっ! そ、そういう訳ではないのだが……す、すまぬ」
軽めに突いてみると、素直に謝ってくる乱世の奸雄。やっぱり戦場での様子とは、随分と雰囲気が違うなぁ。
けれど、どうやらそんな雰囲気のままで、彼の話は続くらしい。
「だが、どうしても……甄嘉、初の戦を終えたキミに、何かありはしないかと……気になったのだ」
「へ? あ……ま、まさか、私なんかのことを心配して――」
「――甄嘉!」
「へっ。……ひゃ、ひゃわわわわぁ!? ちょ、曹操様、近っ……!」
ぐわっ、と物凄い勢いで近づいてきた曹操様が、私の両手を握る。いや心臓に悪いなイケメン急接近! ゲームで画面越しに見るのと、生で目と鼻の先で見るのとは、当然だけど全然違うわ! てかてか、こんなイベント知らないんですけど――!?
目をグルグルさせる勢いで戸惑う私に、曹操様はあくまで神妙な表情のまま、本当に心配そうな声音で問いかけてくる。
「甄嘉、何か調子の悪いことはないか、無理をしているのではないか? 初の戦だし、キミは女人……戦など、男でも心胆を潰す者もおるくらいなのに。……まさか怪我などして、それを隠してはいないだろうな!?」
「えっ、えっ!? ななな、ナイです、ナイです! あっほら、最後だって曹操様が守ってくれましたし……た、確かに緊張はしていましたし、後になって怖くもなっているのは、否定しませんけど……調子の悪いとこは、全くナイですから!」
「本当か? 本当に、本当か? ……本当だろうな?」
「ほ、本当に本当ですよ、大丈夫です! 信じてくださいってば!」
何度も念を押してくるものだから、ついつい強い語気で返してしまう……と、ドキリとするような大きな目で、ジッ、と見つめられ――暫くして、彼は大きく息を吐いた。
「……は、はぁ~~~~……そ、そうか、よかった……本当に、良かった……キミが無事で、本当に……」
「…………えっ?」
「キミに何かあったらと思うと、どうしようかと……すまぬ、偉そうなことを言っておいて、本当に心胆を潰していたのは、おれのほうだったんだ。……だが、良かった……甄嘉が大丈夫というなら、それで……」
「…………」
時の最高権力者が、新参者の家臣を、これほどまでに気にかける。それだけでも充分に異例で、いっそ異常事態とも言えるだろう。
けれど、つい先ほどの私以上に、私のことを気遣ってくれる――そんな曹操様を見て、私は思わず、胸を押さえてよろめいた。
「――――くっ!!」
「!? し、甄嘉……どうした!? やはりどこか、調子でも――」
「……ふっ、ふふっ……うふふっ!」
「え? し……甄嘉?」
戸惑う曹操様に、つい失笑してしまった私は、堪えきれないまま返事する。
「ふふっ、ご、ごめんなさいっ……だって曹操様、私本人より、焦ったり安心したりして……お、おかしくって、うふふ!」
「あっ……し、甄嘉、引っかけたのか!? 全く、人が悪いぞ――」
「いえ、ドキッとして胸を押さえたのは本当ですけど」
「甄嘉――! 大丈夫か甄嘉、心の臓はまずいぞ甄嘉――!」
「だだ大丈夫です大丈夫です! ふ、ふふ……あははっ♪」
〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の曹操様は、気弱な印象――だけど、そうだ、彼が城中や戦場で、その気弱さを見せることは滅多にない。
その顔を見せるのは、ヒロインにだけ――今で言えば、私にだけ。
そのことが、何だかとても、むず痒くて。
また〝まずい〟とご評判の心の臓が、どくん、と跳ねる。
デビュー戦の後から来る緊張感なんて、いつの間にか蹴散らして――私は心から、笑ってしまうのだった。
――――…………。
とはいえ。
それでもやっぱり、気は晴れない理由が、私にはある。
終わったことを言っても仕方ないけど、賊との戦いをもっと簡単に、一瞬で終わらせるなら――伏兵を〝火計〟で焼き払うとか、味方の能力に恃んで容赦なく全滅させるとか、容易な方法は幾らでもあった。
それを出来なかったのは、〝人を殺す〟という覚悟が、元はただのOLだった私には無かったからだ。
この世界で人々が確かに生きていることを知ってしまって、賊ですら容赦なく殺すなんて、出来なかった。
……一応ゲームなら、〝捕縛〟や〝降伏勧告〟などを駆使し、〝殺さずの縛りプレイ〟とか出来るんだけど……。
ここでは〝セーブ〟や〝ロード〟なんて、出来ない。やり直しは、利かない。
それなのに……こんな甘々な私に、出来るんだろうか。
この先に待ち受けている、運命の戦いを、攻略することなんて。
それは三国志を知る者なら当然で、知らぬ者でさえ《《聞いたことはある》》人も多いというほどの、大戦。
――――〝赤壁の戦い〟――――
避けられぬ運命の大戦を想い――今度は緊張感のために、私の心の臓は、どくん、と跳ねた。
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