第13話 チート級の神技能――〝神算鬼謀〟――!!
賊兵・千人に足すこと伏兵・千人、計二千人の賊兵に、五百の兵力で勝つ。
女軍師・甄嘉のデビュー戦となる戦は、佳境を迎えていた。
今、騎馬して細かに兵を操ってくれているのは、軍師・荀彧殿。
そして、主君である曹操様は――お願いして、私の馬車に同乗してもらっている。
「――よし、甄嘉。これからどうすれば良い?」
「はい、曹操様。これより先、私が合図を出しましたら、間違いなくそのように行動してくださいませ。然らば、伏兵計は最大の威力を発揮しましょう」
「おお、何という自信……あい分かった! 主君だからと遠慮する必要はない、おれを存分に使ってくれ。誰かの命令によって戦をするなど、久しくなかったことだ。久々に、心躍る戦ではないか!」
Ⅹ以前のシリーズや創作における苛烈な印象と違う、やや気弱な印象も、戦となれば鳴りを潜める。このギャップもまた〝Ⅹ〟の曹操様の魅力だ。
さてさて、気合を入れる曹操様の前に立ち、千の賊兵に追い回されている夏侯惇殿を注視し、タイミングを計る。
『ヌオオオオッ……む! 林の中に伏兵の気配……チッ、小癪な! このような小細工、先んじて叩き潰して――』
「夏侯将軍! そちらに構わず、全速でこちらへ駆けてください!」
『! ……フン、この夏侯惇に、堂々と指示しおる……よかろう! 分かった上での差配ならば、どんな不愉快な逃げの命令でも従ってやるわ――!』
指示通り、林道の中央を突っ切るように、夏侯惇殿が百の騎兵を従えて駆け戻ってくる。賊の、八百の伏兵が発動する地点まで、あと数秒……いや、実際の戦場の体感は、ゲームよりずっと早い。もう、一瞬の話だ。
この機を逃す訳にはいかない、絶対に――転生した美女・甄氏としての大きな目を見開き、その瞬間を、見極める――
『『『――オオオオオ!!』』』
賊の伏兵が、鯨波を上げて現れた――ここだ!!
「今です! 我らが二百の伏兵を発し――
曹操様は後ろから、私を抱きしめてください!!」
「ウム! ……最後の必要?」
「ハイ。必要デス、必要デス。ウソじゃないデス」
「あ、ああ、そう。で、では……これで、良いだろうか?
……その、少し、気恥ずかしいのだが」(イケメンの赤面)
「All rightッ……(意訳:ええやん……)」
「おぉらい? 往来?」
「あっいえ。アレです、そう、呪文みたいなもんです。ふう~……んん゛っ(咳払い)。その証拠に……ご覧ください」
「む? ……お、おお、まさかっ!?」
さて、これは〝ロード・オブ・三国志〟の仕様というべきもの――〝士気〟の存在。高ければ高いほど能力や技能の効果が底上げされ、それは計略・策略も同様。
軍に高い〝士気〟が重要なのは当然で、この上下次第で勝敗が決することもある。とはいえ今回の伏兵の効果は、さすがに常識外れだ。何せ八百の伏兵に対し、背後から虚を突いているとはいえ、たった二百で一方的に圧倒しているのだから!
『ウッ、ウッ――ウオオオ!!』『ど、どうしたことだ、これは……』
『甄嘉さまの指揮で……力が、漲ってくるぞォォォォォ!!』
『『『ウオオオオオオオオ!!!!』』』
「!? この伏兵の勢い……兵一人一人が、まるで専諸・荊軻(※二名とも紀元前の烈士)の如き刺客と化しているではないか……ただの伏兵一策で、こんなことが起こり得るのか……!?」
曹操様が驚くのも、当然だろう。この世界に生きる人々が知らずとも仕方ない、これはいわば〝ヒロインの固有能力〟と呼べるもの。〝士気〟が重要で技能の効果が高まるのは、私とて同じだ。
即ち戦場にて、攻略対象と接近することで――その絆により、ぶっちゃけテンション上がった結果、〝士気〟が限界突破して威力が急上昇するのだ――!
※以下、あまりにも納得の理論武装※
だから今こうして後ろから抱きしめてもらっているのも必要っていうのはホントで。ウソじゃないって言った通りで。だから全部が私情ってわけじゃなくて。えっ逆に言えば少しは私情じゃないかって? チッゲーですよ、全ては策の成功のためですよ。それはまあ、このイケメン君主、えらくイイニオイするな~、顔近いな~ってちょっとクラクラしてるけど。まあそれもテンション上げるためだし、それだけだし。そもそも、私の最推しは郭嘉様だし。邪推すんじゃないスよ。乱が起きちゃいますよ?
というわけで、全ては戦に勝利するため、軍師としてやっているのです!
※証明、完了!※
……と言っても、この伏兵の強さは、私自身も想定外だ。攻略対象の好感度も実は計算に関係するんだけど、そんなに好感度が上がることあったかな?
まあ、こちらが強くて悪いことはない。散々に打ち破られる八百の伏兵に堪えかねたのか、強兵と予測される二百の伏兵が、こちらに向けて飛び出してきた。
『くっ……こうなれば、曹操を討つしか! 総大将さえ討てば――』
「――この夏侯惇に尻を向け、生きておれると思うな賊徒共!! 溜まった鬱憤のツケ、貴様らの血煙で返してもらうぞ!!!」
『ひっ……ヒイイイッ!!?』
「フン、追う兵の背は脆く、討つは存外に容易い――このような楽な戦、手応えが無さすぎて、逆に不満だぞ!! ハハッ!!」
怒気の囮から一転、不満という言葉とは裏腹の上機嫌で、強兵の二百を百で追う夏侯惇殿――下がってきた将軍が、伏兵の背に迫ることも、計算通り。
けど、私の目的はこれじゃない――私は更に指示を叫んだ。
「夏侯将軍! 目的は平定です、出来る限り戦闘能力を削ぐことに注力し――その上で敵半分の百を、こちらに逃してください!」
「! ッチ、また不快にして不可解な命を! ああ、ああ、これはおまえの戦だ――従ってやるわい!!」
本当に命令に実直で、柔軟で器用な〝名将〟だ。難しい指示だったと思うのに、二百の賊を綺麗に分断し、ものの見事に百の賊兵が向かってくるのを私の技能〝神算〟が見通した。
迫り来るは、残り百の賊徒の強兵――さて、今は味方の二百の伏兵を指揮していた荀彧殿が、こちらの様子を窺ってくる。
「おお、見事に分断を……後は虎豹騎を動かせば、強兵とはいえ賊兵、一瞬で粉砕できるはず。……? え、甄嘉殿……っ、なぜ動かれぬ!?」
距離の離れた馬車からでも、荀彧殿の動揺が見て取れる。迫りくる敵兵に、主君と二人で棒立ちなのだ。自殺行為に見えても仕方ない。
それは夏侯惇殿も、同じらしい。
「な、何をしておる! まさかここへ来て、怖気づいたか!? ッ……虎豹騎、動け! ――許褚、二人を守れぇぇぇえい!!」
『――ん! んんんんんんんん!!!』
夏侯惇殿の大声に、それ以上の爆音が馬車より背後から聞こえるが――もはや賊は、目と鼻の先に迫っている。
『奸臣、誅滅――!!』
『袁家の怨と恨、ご理解あそばせ――ッ!』
『曹操孟徳、いざ討ち取れり――!!』
「ッ――甄嘉、下がっておれ! ここは、おれが――!」
狂奔の勢いで迫りくる賊兵に、曹操様は勇ましく剣を抜き放ち、私を庇うように前に立ってくれる。
さて。
この瀬戸際の状況下で、私は――
最後の計略を、言葉にして放った。
「――あ、賊の方々。降伏してくださーい」(※計略:降伏勧告、発動!)
『――是ッ、ィ喜んでェ――ッ!!』
『恭順いたします! 謹んで降らせて頂きまァす!』
『これは如何にしたことでしょう、心底から感服してございます! 心奥から邪気が抜け出てゆくかの如きでございます――!』
「「「――――」」」
「んあ?」
さて、狂奔の勢いそのままで、攻撃ではなくズザーッと平伏してきた賊兵に――曹操様、夏侯惇殿、荀彧殿が、揃って絶句する。
あといつの間にか、ほぼ間近まで虎豹騎の長……初対面だけど許褚殿が来ており、キョトンと首を傾げていた。この距離なら、防御も間に合ってたかも……それはそうと並外れた大きな体躯に反して、素振りが可愛い(余談)
……さてさて。
どこから見ても、誰が見ても、異常な状況だろう。つい先刻まで目を血走らせていた賊兵が、今は汚れなきキラキラとした眼で平伏している。武器など放り捨て、中には私と曹操様へ向けて、礼を示す者すらいた。
こんなの、もちろん普通じゃない。これこそが郭嘉様から受け継いだ神技能の、最後の三つ目にして、本命たる能力だ。
――――――★女軍師・甄嘉の技能解説★――――――
3.郭嘉専用の固有技能〝神算鬼謀〟→甄嘉専用の継承技能〝神算鬼謀〟
計略・策略に10%以上の成功率がある場合――成功率が100%になる。
本当に、問答無用で、絶対に成功する。
さすがに10%以下・0%ならどうしようもないけど、そこは〝神算〟と〝鬼謀〟で見極めも容易。そう、詰まる所。
ぶっちゃけ――チート級の神技能である――!
私なんかの知力じゃ難しいだろう策も、この技能のおかげで確実となる。先ほどの降伏勧告はもちろん、伏兵についても同様。元・OLが、現実も同然のこの世界で軍師をやろうと決められたのは、この神技能があるからだ。
ましてや三国志でも最大クラスの郭嘉様が使うなら、その効果は推して測るべし。……だからこそ若くして落命する郭嘉様に、この神技能があるのかも……逸話とも合致する能力だけど、だけどさぁ……チクショウ、運命ってやつは、チクショウ……残酷だよぉ……(泣)
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とにかく、賊軍の中でも強兵にして、最後に向かってきた――恐らく彼らの長だろう人間が、あっさりと降伏してしまった。
そのことで、夏侯惇殿を追い回していた賊兵たちも、それぞれの伏兵たちも――計二千もの賊兵が、誰も彼も抵抗を止め、武器を放り捨てて次々と降伏していく。
こうして、女軍師・甄嘉のデビュー戦は――
―― 完全勝利の結果に終わった! ――
……まあ、とはいえ、実は心に引っかかることがある。
それはこの後の、戦後処理で明らかにするとしよう――……。




