第12話 三つの力。一に〝神算〟、二に〝鬼謀〟、そして――?
「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇいっ!! なんでこの俺が、こんな腹の立つ戦い方をせにゃならんのだぁぁぁぁぁ!!!」
馬車に乗る私や、その左右で騎馬する曹操様と荀彧殿より、遥か前方で――大いなる怒声を上げながら、夏侯惇殿の率いる百の騎兵が、千人の賊に追い回されて逃げている。
その光景を割と落ち着いて観戦している私たちの内、荀彧殿が左側から馬を寄せ、囁いてきた。
「いやはや、まさか……夏侯惇殿に囮になれだなんて、わたくしでもなかなか言えませんよ。甄嘉殿は思いのほか、肝が据わっていらっしゃる」
「あ、いえいえ、そんな……百戦錬磨の夏侯将軍にしか、頼めないことですから。豪勇でありつつ、実は柔軟な対応もできる夏侯将軍は、ああいう戦い方も得手のはず。それに怒り猛っているように見えて……いえまあ本気で怒っているかもしれませんが、それでも発せられた作戦は、必ずや忠実に遂行してくれる御方ですから」
「な、なるほど。……甄嘉殿は夏侯惇殿と、そう付き合いは長くないはずなのに……その、随分と彼を理解しておられるようですね?」
それはまあ、シリーズ全作プレイして、全ての人物の能力や技能は把握してますから――なんて言っても分かるはずもないので、恐縮して礼をしよう。ぺこり。
と、夏侯惇殿を囮にして逃げ回らせているだけで、軍師同士の話が終わるはずもない。
「さて、夏侯惇殿の見事な囮で、千の賊兵は陣形が総崩れ。ここからの策ですが、こちらの兵力と、相手の戦力とを計算しますと……」
荀彧殿の言葉を頂きつつ、現状の兵力を、ここで軽く説明しておこう。
賊兵、見える分だけで千に対し――こちらは騎兵を主とした、五百のみ。
味方・500の内――
百は、夏侯惇殿が囮として率いている(残り400)
百は、曹操様の親衛隊である、虎豹騎という重騎兵……戦力として最高級の兵なんだけど、主君の万一と防衛を考えて、使うことは出来ない(残り300)
百は、いつでも動かせるように、私と荀彧殿の周囲に控えている(残り200)
そして、姿が見えない残り200の行方は……ヒミツだ!
とまあ、大まかにこういう状況下で――戦場は林道、左右に木々が生い茂るのを見つめる私に、再び荀彧殿が囁いてくる。
「……ふむ。わたくしが見ましたところ、右の」
「右の林に、伏兵が八百――左の、やや私たち側に近い林に二百。う~ん、賊にしては考えていますね。数も思ったより多いですし」
「! なんと……伏兵の配置と、しかも数まで同意見です。しかし今の見通しよう、まるで郭嘉殿のようでしたよ? 教わって、そこまで身に付くものですか……?」
荀彧殿が驚くのも、無理はないと思う。何しろこれが、教わったどころか、郭嘉様からそっくりそのまま受け継いだ技能……に由来する、能力の一つなのだから。
そう、神技能〝神算鬼謀〟の能力は、一つ分ではなく――何と三つ分。
だって本来、〝神算〟と〝鬼謀〟は別々に、独立した技能として存在しているのだから。つまり郭嘉様から受け継いだ神技能は、その二つの能力も内包している。
その一つ一つを、追々適宜で説明していくけれど――まずは、これだ。
――――――★女軍師・甄嘉の技能解説★――――――
1.技能〝神算〟
敵が施した策略の内容を看破できる。しかも見るだけで発動可能。
例えば伏兵の計が仕掛けられていれば、その位置に何人の伏兵がいるのか、まで丸わかりだ。
ぶっちゃけゲームでは便利すぎて、この技能を持つ人物が味方にいるかどうかで、難易度が全く変わってくる。罠とか全然、引っかからなくなるんだもん。ゲームをプレイする人なら、これがどれだけ便利か分かりやすいかな。
だからまあ、さっき戦場に入る前の段階から、伏兵は見えてさえいた。
荀彧殿も〝神算〟は持っているので、同じようなものだろう。
あと個人的な話だけど、生の眼で見ると、丸わかりの伏兵ってかなりシュールだな……発動するまでジッとしてるし。アレ放っといたら、ずっとあそこで待ってるのかな……なんか忠犬みたいだな、泣いちゃいそ。
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この技能が、荀彧殿と同様に伏兵を見抜けたという手品のタネだ。更にここからは、ゲーム知識の経験からの推察だけど。
「考えるに、夏侯将軍に近い、多い方の右の伏兵800で……追いかけられている夏侯将軍に、挟撃をかけるつもりでしょう。ですが恐らく、本命はその後に来る……私たちに近い200。こちらに強兵を固め、必殺の部隊としているはず。敵の狙いは初めから、総大将である曹操様。この統率の取れ方、荀彧殿が仰っていた通り、袁家の残党かもしれませんね」
「! 何と、そこまで戦の全容を見通しておいでとは……この荀彧の眼をもってしても、見抜けませんでしたぞ。……はっ! そういえば甄嘉殿は、かつて袁家に囚われて……敵の動きを的確に把握できるのは、その覚えがあって……?」
(えっ。……あああ、そういえばそうだった! 私が転生したのって袁家滅亡終わった後だから、そんな意識、全然ないんだよな~! で、でも知らないっていうのも不自然だし、ここは話を合わせて……)
こほん、と咳払いして――私は涙を覆い隠すように、よよよ、と馬車に立てられている傘の中棒にしな垂れた。
「そうなのです……とはいえそこまで、良く知る訳ではありません。私は当時、恐ろしくて屋敷に籠りがちでしたので。もし曹操軍に救われていなければ、今頃どうなっていたかと思うと、恐ろしくて仕方ありません……よよよのよ」
「……! これはっ……わたくしとしたことが、不用意に踏み込んだことを……! 申し訳ない、甄嘉殿! わたくしで良ければ、いつでも話を伺います。どうか御心を安らげる、お手伝いをさせてください……!」(好感度↑)
(なんか荀彧殿、ゲームでもそうだったけど、素直すぎて心配になるな。イマイチ戦に弱いのも、なんか納得しちゃうな……こういうとこなのかな)
『ウオオオオ!! ぅオイっ! 俺はいつまで逃げてりゃいいんじゃあ!!!』
「おっと。ああー、夏侯将軍が、夏侯将軍が大変ですー。さあさ荀彧殿、策を、策を進めねばー」
「はっ……そうでした! さて、改めて……甄嘉殿の伏していた策が、これで活きてきますね!」
わあ、すごい素直、罪悪感が湧く……と、そうも言っていられない。荀彧殿の言う通り、実のところ私は、既に策を伏している。
文字通り、伏兵を――そう、ヒミツにしていた残り200の兵士は、右の林に隠しているのだ――!
「さて甄嘉殿、準備は万端でしょうが……戦は水物、絶対はありません。策が失敗することもあります、そのために次善の策も――」
「大丈夫。必ず、成功しますよ」
「!? な、なぜ言い切れるのですか?」
「伏兵を行う者は、更に自分が伏兵に遭うと、想像していません。そういう虚を突かれれば、伏兵とは驚くほどに脆い。私には既に、この策が成る結果が見えています」
「なんと、そこまで戦を理解して……いえ、これは……」
何か考え込む荀彧殿――そう、私には、見えている。
その理由は、技能の2つ目の効果にあった。
――――――★女軍師・甄嘉の技能解説★――――――
2.技能〝鬼謀〟
策略の成功率が確認できる。しかも仕掛ける時点の段階で。
つまり極論、100%成功する場所に策を施せば、その策は必ず成功するということになる。成功率90%くらいだとしても固いし、それが事前に分かるなんて、ゲーム的にはぶっ壊れ性能だ。
更にヤバイのは、策の成功率が分かるのは、敵味方で関係ない――つまりもう一つの技能〝神算〟と合わせれば、敵の策の成功率が分かる! こうなると、敵の策が100%成功する場合、回り込んで発動させないようにするなど可能。
もちろん〝神算〟が無く〝鬼謀〟だけだとしても、この技能を持つ人物が味方なら頼りになること、この上なし!
ちなみに三国鼎立の頃にもなると、相手方にもこの技能持ちが多くなって、攻略も一筋縄ではいかない。たとえば法正とか周瑜とか。
……ちなみに言いにくいんだけど、荀彧殿は持っていない。いやその、仕方ないんだけどね、うぅん……(もごもご)
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「……甄嘉殿、その確固たる自信、未来を見通すかのような言いよう……ああ、ああ……まるで、郭嘉殿が……帰ってきたかのようではないですか……!」
「! …………」
荀彧殿の言葉は、光栄で――でもやっぱり、過分だ。だって私は、いくら技能があったって、実際の知力なんかじゃ、郭嘉様や荀彧殿の足元にも及ばない。何なら、城中で見た汎用の方々にだって敵わないはずだ。
……でも。
それでも。
私には――10年以上、全シリーズをプレイし続けてきた、経験がある。
ゲーム知識が、ある。
神技能を持っていたって、足りない能力については――
〝ロード・オブ・三国志〟への、文字通りの〝愛〟で、補うとしよう!
「――策の事前準備は、成りました! あとは……曹操様!」
「! ……ああ!」
待っていました、とばかりに、さりげにそわそわしていた曹操様が返事し、私は続けて要請する。
「この策の威力を、最大限に発揮するため――
どうかお力添え、お願い申し上げます!」
「当然だ、甄嘉――何でも言ってくれ!
この戦をキミに預けたのは、おれだ。
おれに出来ることは、何でもするぞ!」




