楽しい中学校生活
憐が小学校を卒業した頃、家の中はゴミが散らかり物は壊れて滅茶苦茶になっており、麻里亜は完全に壊れてしまっていた。
今までは憐に対して無視する事はあれどその中に怯えたり、恐怖感を抱いたり何かしらの反応はあったが、今ではもう完全に居ないものとして扱っており、隼人への依存度がさらに上がり、急に何処からか金を持ってきては隼人に渡していた。
しかし、そんな状況でも隼人はお構いなく他に複数の女と関係を持っていた。
憐は何となく気づいていたが、完全に周りが見えなくなっていた麻里亜が気づく事は無かったし、憐が教える事もなかった。
中学校に入学するに当たっての入学金などは隼人が払ってはくれたが、家庭内での暴力は増えた。
「余裕がねえってのに、余計な金を増やさせやがってよっ! この女ももう完全にイカれちまったし・・・クソがっ!」
「うっ! ・・・・・・ごめんなさい」
「謝るくらいなら金稼いでこいやゴミがっ!」
「・・・・・・」
「っち! 俺は出るから、こいつの面倒見とけよ」
「うん・・・・・・」
「はやとくんっ!? まって! わたしをおいていかないで! おねがいっ! はやとくんっ!! わたし! こんだけかせいできたよっ!? ほらっ!? すごい!?」
「・・・ああ、凄いよ麻里亜。やっぱお前だけが頼りだよ。ありがとう。でもちょっとだけ待っててくれないか? 俺はもう行かないと」
「ぇ・・・・・・ど、どこに? わたしをおいていくの?」
「すぐに帰ってくるから、麻里亜なら待てるよね?」
「う、うん。まてる・・・・・・」
「よし、えらいぞ」
そう言って麻里亜を置いて家を出ようとして憐の隣を通った隼人の「なんだこれすっくね・・・はぁだる。そろそろ切りどきかな」という言葉を憐は聞こえてしまったが、憐には母親が酷く扱われるのをただ眺める事しか出来なかった。
憐が中学生になっても、いじめは無くならず家の雰囲気も変わる事は無かったが悲しむ事は無かった。
憐はこの時には理解していた。
自分に味方は居ないのだと。
だからそこ1人で生きていける術を見つけようと、周りのクラスメイトがスマホやゲームで遊んでいる時に、本を読み沢山の事を取り入れようとした。
そして中学生になってからも秘密基地によく行っては不思議な力を使いこなせる様に練習した。
将来自分の武器になる事を信じて。
今ではリュックも簡単に浮かせられ、それだけでなく少数だが複数の物を自由に宙を舞わせる事も出来る様になった。
自分を助けられるのは自分しかいない。
中学生にして憐はそう考えていた。
半年が経ったある日の夜中。
珍しく隼人が家に居て憐が八つ当たりで殴られていた時、家のインターホンが鳴った。
「石橋ぃ、来てやたっぞ。急げよ」
「あっ鬼塚さん! すいません、すぐに開けます!」
隼人がインターホン越しの人物に気付き急いで玄関の扉を開けると、現れたのは黒いスーツに金のネクタイを締めたイカつい大柄の男で、後ろには2人のチンピラのような男達がいた。
「お、鬼塚さん・・・・・・」
「ガキは?」
「ぁ、す、すいません。こいつです。お願いします」
「連れてけ」
「へい兄貴」
「っ!? なっ何を、うっ!」
憐が目を見開いきながらよろよろと立ち上がっていたところを、鬼塚の後ろにいたチンピラが殴りかかり、憐は抵抗する間もなく気を失ってしまう。
「これで今回は見逃したるわ。次はないぞ。そこの女にも言っとけ」
「は、はいっ! もちろんです! ありがとうございます!」
「ふんっ、行くぞ」
鬼塚がチンピラと憐を連れて出ていった途端、隼人は空気が抜けたように床に倒れた。
「はぁぁ・・・くっそ、今回はあのガキで何とかなったけど、次はもうないぞ・・・どうするどうするっ!?」
「ねぇはやとくん? なにしてるの? さっきのひとはだれ?」
「うるっせえ! お前が訳わかんねーところから金を借りるからこうなってんだ! お前はここで大人しくしてろ!!」
「ねぇはやとく」
「俺の名前を呼ぶんじゃねえ! ムカつくんだよ!」
「うっう・・・ごめんなさい」
多くの学生が二学期に入り始めた頃、憐は隼人と麻里亜の借金の肩代わりとして売られたのだった。




