〈41話〉決断
「ただいま」
いつも通り少しボロボロな木造の家へと帰ってきて玄関扉を開くと、子供達がおで迎えしてくれた。
「「「「「「「お、おかえりなさい!!」」」」」」」
子供達がひょこっとリビングから顔だけを覗かせて挨拶を返してくれる。
全員元気そうでよかった。
「おかえりさない! 憐様!!!」
さらに奥、姿は見えないが声だけでベルだと分かる。
多分今はキッチンでご飯を作っているのだろう。
「ああ、ただいま」
靴は脱がず、そのまま中へ入っていく。
「もう少しでご飯ですので、座らせておいてくださいませんか!?」
「分かった。手洗ってそろそろ座れよ〜」
リビングに入ると料理中のエプロン姿のベルが見える。
そのまま彼女は俺に子供達を任せてきたので、声をかけると、子供達はすぐに手を洗いに行って終わった順からスっと椅子に座っていく。
なんだ、素直でいい子たちじゃないか。
ちゃんと必要な言うことも聞いてくれるし。
「憐様それだけじゃこの子達は、って! え!? もう皆座ってる!? てもピカピカだ!
私のときは全然言うこと聞いてくれないのになんで〜」
ベルが少しからかい気味に後ろを振り向くと既に子供達は全員手を洗い終えて着席していた後だった。
ベルの様子を見るに普段は結構やんちゃみたいだな。
弱音を吐いて涙目になりながらトコトコと鍋を長机に運ぶベル。
元気なのはいいことだが、ベルに負担をかけすぎてるか。
7人の子供だしな。
これからは俺も積極的に手伝えるから少しはマシになると思うが。
「いただきます」
俺とベルで料理を運び、長机に並べ、皆で座り手を合わせる。
俺がいただきますと言うと、その後にベルと子供達がいただきますと言い、食事が始まった。
無駄に騒がしく、好き嫌いや軽い喧嘩などをベルは叱り、食卓は賑やかだった。
こういうのも、悪くないな。
・・・・・・柚葉さんや千代さんがいれば。
そう口に出てしまいそうになって、飲み込む。
いや、それはこんな場所で言うべきではない。
彼らはもう亡くなったのだ。
俺の中で生きてさえいれば、それでいい。
俺があの人達との思い出を、記憶を、性格やどんな人だったかを忘れずにいれば、それで。
食事も終わり、皆で今日あったことを雑談したりしながら時間を潰す。
2時間後には子供達は皆眠りについた。
スヤスヤと寝息を立てながら安心しきった顔で眠っている。
「ベル、話があるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
2人だけ残ったリビング。
先程のような賑やかさは消え、どこか寂しい気持ちはあるけどこういうのも悪くない。
ベルは俺の言葉に返事をしながらお茶の入ったコップを俺の前に置き、椅子を引いて前の席に座る。
両手でコップを持ち、湯気が立つお茶をフーフーと冷ましている。
「・・・・・・ここから離れようか」
「え? それはまた急ですね」
「ああ、今日な、世界に向けて伝えてきたんだ。俺はもう人を殺さないってな」
「え・・・・・・それは、大丈夫なんですか?」
ベルが心配そうな顔をしてこちらの顔を伺う。
彼女には俺が復讐をしている理由なども伝えているから、心配してくれているんだろう。
「ああ、大丈夫だよ。それにもう俺は1人じゃないしな。ベルや子供達のことも考えないといけないだろ?」
「! そう、ですね。ありがとうございます」
ベルは嬉しそうにニコッと笑う。
・・・・・・この笑顔を見ると、柚葉さんを思い出すな。
見ている側も笑顔にさせて元気をくれるような、そんな笑顔。
「でも、一つだけ心配もあります」
「なんだ?」
「憐様が辞めたとしても、奴らは来るかもしれません」
ベルのコップを持つ手に力が入り、その声には不安が混じっている。
彼女のその心配は痛いほど分かる。
俺自身も危惧していることだから。
「そうだな。それはそうだ・・・・・・もしそうなったらそいつらを滅ぼすよ」
ここまで敵を作ってしまったのは俺の責任だ。
追ってきたというのなら、それがベルや子供達に危険を齎すのなら、それを滅するとしよう。
「それでは、憐様の負担が・・・・・・私も手伝います」
ベルは優しい。
どこまでの俺の心配をしてくれる。
だけど、その優しさに甘えるのはよくないと思う。
「ありがとう、ベル」
「なら!」
「でも、それは俺が1人でやる」
「ッ! なんで、憐様は全部1人でやろうとするんですか?」
「俺のまいた種だから、俺が処理する。それに、俺とお前の2人が離れるのはよくないだろ。俺が攻めて、ベルは守る。ベルだって重要な役割だ」
「それは、そうかもしれませんが・・・・・・」
今にも消えてしまいそうなほどか弱い声でベルは言った。
「頼む、ベル。俺の代わりに守護者となってくれ」
数え切れないほどの命を奪った俺は、これからどう動こうと世界の敵だ。
だけどまだ人を殺したことのない彼女なら、心優しい彼女なら、守護者として最適な人物だろう。
それに、彼女に自ら命を奪う行為をさせるのは俺が嫌だ。
「俺のわがままを聞いてくれ。ベル」
「・・・・・・分かりました。私はあなたに従います。憐様」
「ありがとう。助かるよ」
「はい・・・・・・」
最終的にベルは了承してくれた。
不本意だっただろうけど、彼女の思いとは違う結界だったろうけど、彼女は許してくれた。
そんな彼女に失望されないように、俺は頑張ろう。
「それで、住む場所を変えようと思うんだけど、森の中だと敵を見つけるのも遅れるし、ある程度次の場所は考えているんだが・・・・・・」
「それは良いと思います。けれど、皆この家を気に入っているようなので、ここから離れるように説得しないと・・・・・・」
「そうか、ならこの土地ごと移動させよう。そうしたら子供達も安心するだろう。家もそのままだ」
「え? で、出来るんですか?」
「もちろん」
俺の言葉にベルはそんな馬鹿なと驚くが、俺が当たり前だと言わんばかりに自信満々に答えると少し吹き出す。
「ふふ、憐様は本当に凄いですね。それで、移動場所はどちらに?」
「ああ、太平洋の中央、海の真ん中だ」
「え、ええええ!? ハッ!」
大きな声が出しまったベルは子供達寝ていることに気づきすぐに両手で口を覆う。
「ほ、本当に言ってますか?」
「ああ、殆ど人が通ることもないだろうし、見渡しもいい。守るには最適な場所だ。食料は俺が適当に取ってくればいいだろうし」
「ま、まぁ憐様がいいんなら私はいいんですが・・・・・・本当に規格外ですね」
「ベルも、ずっと力を使い続けていたらこれくらい出来るようになるさ」
「そうですねかねぇ」
「なれるさ、きっとな・・・・・・」
そこから暫し沈黙が続く。
ベル俺のお茶を飲む音だけが部屋に響く。
ふわぁっとベルが片手で口を隠しながら可愛くあくびをする。
「もう遅いし寝るか」
「そうですね。私も眠たくなってきました」
「ああ、俺が片付けとくから、寝てこい」
「ありがとう、ございます・・・・・・おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
目を擦りながらゆっくりと部屋へ戻っていくベルを見送り、俺は2人分のコップを洗い食器棚に置く。
「さて、最後の一仕事するとしますか」
そう言って俺は家を出て、周辺に昼間と同じ罠を仕掛ける。
あまりここから遠くへは離れないが、念の為かけておこう。
そして向かった先は家から少し離れた木々がさらに多い場所。
暗い森の中、月明かりだけが周りを照らす。
そこを進むと、1つの大きく立派な威厳すら感じる大木の元で、1人の男が身動きひとつとらず地面に伏せていた。
「遅くなったな。これからお前を地獄に落としてやる」
「あ、ぁぁあああああ!?!?」
パチンっと指を鳴らすと男は動き出し、涙も鼻水も止まらずに顔をぐちゃぐちゃにしながら夜の森のさらに奥へと逃げ出す。
「追いかけっこをご所望か?」
その夜、日が開けるまでの数時間、男は途切れることなく絶叫し、悲鳴をあげ、絶望の淵に落とされ、苦しみと痛みによる地獄を見た後、死亡したのだった。




