〈39話〉復讐は終わらない
「拾ったはいいが、どうするかな」
もうどこの山や森の中で暮らしても簡単に生きていけるほど慣れた生活の中で、俺は焚き火の前で1人考えごとをする。
悩みの種は、目の前で蝶々を楽しそうに笑顔で追いかけている1人の少女。
昨日の街を壊滅させたときに拾った女の子だ。
彼女は俺とは違えど、およそ人間に対するものとは思えないような扱いを受けてきていた。
それに、彼女は男の俺とは違う苦しさも味わっていた。
人間不信になっているのかもしれない。
そう心配していたんだが・・・・・・。
「憐様! どうかしましたか!?」
つい悩みこんでいた俺の目の前に、横からパッと顔を覗いて視界に入ってくる少女。
「大丈夫ですか?」
そう、めちゃくちゃ人懐っこかった。
いや、とてもいい事ではあるんだが、少々元気過ぎるというか、そのテンションについていけないというか。
「ああ、大丈夫だよ」
少女はキョトンした顔をする。
そういえば、ここに来る途中に俺の名前を教えただけで、この子の名前を知らないな。
「そういえば名前聞いてなかったな。なんて呼べばいい?」
「・・・・・・私は、自分の名前が嫌いです。もしよければ、憐様がつけてくれませんか?」
「そうか、わかった・・・・・・」
まぁ嫌なら無理に名乗らなくてもいいか。
またこれからこの子は新しい人生を生きる。
新しい名前を得るのに丁度いいタイミングだ。
「考えるからちょっと待ってくれ」
「はい!」
少女はそう言ってニコニコしたままソワソワし出す。
いい名前をつけてあげたいな。
あまりセンスは無いが、頑張ろう。
う〜ん。
少女、新しい人生、リスタート、可愛らしい、活発、人懐っこい。
難しいな。
あ、花の名前でもいいな。
他にも色んな要素はあるが、そうだな。
「ブライダルベール、とかどうだ?」
ブライダルベール、花言葉は幸せを願っています、願い続ける、鮮やかな人などがある。
そしてブライダルベールは1cmにも満たない小さな花が沢山ついている観葉植物だ。
これからは多くの人を笑顔にさせるだろう彼女には最適な名前だと思う。
今まで苦しい人生を生きてきた彼女には、幸せに生きていて欲しい。
そんな俺からの名前のプレゼントだ。
この子は、気に入ってくれるだろうか?
「ブライダルベール、ですか・・・・・・ふふ、いいですね。可愛いです。ありがとうございます!」
ブライダルベールは手を口の前に持ってきて嬉しそうに微笑む。
目からは涙がポロポロと落ちてくる。
「だ、大丈夫、か?」
「はい! 大丈夫です! 嬉しすぎて、涙がッ、ぅ」
ブライダルベールは必死に流れてくる涙を拭う。
それでも涙は止まらず、流れ続ける。
「今までよく頑張ったな」
ブライダルベールの頭に手を乗せ、出来る限り優しく頭を撫でてあげる。
そしたらもっとして、と言っているかのように頭を手に押し付けてくる。
2人しかいないこの森の中で、焚き火に温まりながら彼女の涙が止まるまでそうしていた。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
久しぶりにそんな感覚を思い出せてくれた彼女に心の中で感謝した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数年後。
「・・・・・・」
俺は上空から、今にも燃え尽きそうな街を眺める。
悪魔共は逃げ惑い、悲鳴と絶叫に街は支配されていた。
火が移ってしまった奴は海に飛び込む。
波を少し強くし、陸に戻れないようにする。
そうすればあとはあれは無視でいい、いずれ溺れて死ぬ。
「憐様! 子供を拾いました! 近くの森に避難させてます!」
1人の少女がおぼつきながらも憐の隣まで飛んできてそんなことを言う。
「はぁ、ベル。これで何人目だよ」
「だって仕方ないじゃないですか!? 可哀想ですよ! それに憐様も満更じゃ」
「うるせえ」
「アタッ」
ブライダルベールことベルの頭に軽くチョップをかます。
この子はここ数年で力の才能を開花させ、俺と同じく力を扱えるようになった。
俺の予想通りこの子が見えていたのは魔素だった。
恐らく初めて俺に会った日、紫色の翼と言って見えていたのは俺の魔素。
俺と会うまでの過去の記憶には魔素が見えている感じはなかった。
多分普通の人の何百倍もある俺の魔素だから感知出来たのだろうと予想しているが、実際は分からない。
他にきっかけがあったかもしれない。
とはいえ、先駆者として教えられることは沢山あった。
力に関する俺の経験と知識、あとは予想などをベルに叩き込んだ結果、ベルは圧倒的成長速度で力を扱い出した。
覚束ないことも多いし、まだまだ未熟なところもある。
が、若いしそこは問題ない。
これからがあるから。
しかし問題は他にある。
「そろそろ数が多いな。面倒見きれないぞ」
「任せてください! 私が面倒を見ます!」
たまに子供を拾ってくる。
正直俺の復讐の邪魔でしかない。
ベルだけならいい。
力も扱える、自衛も出来る。
俺が面倒を見る必要はないからだ。
けれど、彼女が拾ってきた子供達はベルと違い力を使えない。
そもそも魔素が見えないのだ。
同情してしまったら、弱点になる。
だから捨てようかとも考えた。
だけど、彼ら彼女らは皆等しく俺やベルのような子供達だった。
辛く、苦しい生活の中で、地獄に絶望してなお生きることを諦めなかった。
だから、同情してしまった。
自分の過去と重ねてしまった。
俺は人間だと自分に言い聞かせてきていたが、やってることは悪魔と呼ぶあいつらと変わりは無い。
そんなことは初めから理解している。
もうそんなことはどうでもいいんだ。
悪魔とか人間とか。
ただ俺が殺したいから殺していた。
篠原さんや結城さん、柚葉さんに千代さん・・・・・・俺が奴らを殺すのは、大切な人達を殺された腹いせだ。
「帰るぞ。拾った子連れてこい」
「はい!」
とはいえ、最近はそうも言ってられなくなってきた。
子供が増え、毎回寝床を変えることも出来なくなった。
そして今はそれが弱点となってしまっている。
どこで誰に狙われているか分からない以上、俺かベルが彼らを守らないといけないだろう。
いや、ベルではまだ心配なところがある。
彼女一人なら何とかなるかもしれないが、子供達を守りきるには彼女ではまだ力不足だ。
そうなると必然的に俺が守らないといけなくなる。
「復讐も・・・・・・そろそろ終わりでいいかなもな」
「え!? 何か言いましたか!?」
「いいや、なんでもない。行くぞ!」
「?」
ベルが煤で汚れた女の子をおんぶしながら飛んでくる。
女の子はベルの背中で安心しきったように眠っている。
ベルに伝えるのはもう少し自分の中で整理がついてからだな。
〜〜〜〜〜〜〜~〜〜
「帰ったよー!」
先にベルが子供をおぶったまま木で作られたボロボロな家の中に入っていく。
ここはベルが見つけた山奥にあった廃墟だ。
子供が増えて、俺やベルがいない間、彼らだけで森や山の中では辛いだろうからとこの廃墟をある程度片付けて暮らしていた。
ちなみに今は家に7人いる。
男の子が4人で、女の子が3人。
ベルが背負っている子も合わせれば丁度4人ずつだな。
ベルほど活発な子はいないが、皆素直でいい子だ。
それはそれとして、この人数の食料の調達は少々面倒ではある。
子供の面倒を見るのが苦手な俺は食料調達班だ。
子供の面倒は殆どベルが見ていて、寝る前に子供達に何かを言い聞かせていたりする、多分昔話とかだ。
よく懐かれている。
俺にはあまり近寄ってくれない。
それはそれで少し寂しいが、まぁ彼らが楽しく暮らしているならいい。
「ベル、俺は飯とってくるか、ら? ベル?」
「れ、憐、さま」
扉を開き、ベルに少し離れることを伝えようとすると、目の前でベルが部屋の中を見て固まっていた。
その表情には驚きと不安が混ざりあって今にも泣きそうな表情だ。
嫌な予感がする。
「何があった?」
伝えてそのまま離れる気だったがベルの様子が気になり、家の中へと入っていく。
普段は聞こえる子供達の騒がしい声がここまで来ても聞こえない。
玄関に入ってすぐ右に、子供達がよく固まっているリビングへがありそこを覗く。
「は?」
俺やベル、子供達と皆で片付けた部屋の中は荒れに荒れて、壁や床には血や銃弾の跡がついていた。
そして6人の子供達がそこで倒れている。
血塗れで、年長の子は他の子を守ろうとしたのか体を被さって倒れている。
「れ、憐様・・・・・・」
今にも泣き出しそうなほど弱々しい声でベルが俺の名前を呼ぶ。
「ッ!!」
そんな声を無視し、子供達へ駆け寄り体を確認する。
幾つもの箇所に銃で撃たれた跡がある。
それも胸や頭ではなく、腕や足や腹。
それだけじゃなく拾った時に治した痣の跡も新しく出来ていた。
一撃で殺さず、蹴ったり殴ったりして苦しめたのだろう。
やはり、あいつらは悪魔だ。
俺の考えは間違ってなどいなかった。
あいつらと俺は一緒なんかじゃない。
どうしたらこんなことが出来ようか。
「ッ!? まだ息がある」
「ほ、本当ですか!?」
俺の傍にベルが駆け寄ってこちらを必死に見つめる。
その目には涙が滲み、今にも零れそうだった。
「ああ、治せる。容態が酷い子から治すから、細かい治療は任せる」
「は、はい!」
細かい傷はベルに任せ、命の危険がある箇所だけを治していく。
人は死ぬと、魔素が体から離散していく。
生死の境を彷徨っているときも少しずつ魔素は無くなっていき、それが自然に戻ることは無い。
だから誰かから魔素を受け取るかまた増やすしかない。
受け取る場合は、時間をかけて受取人の体に馴染ませなければいけないが、時間がない。
今は強引に俺の魔素で補わせてもらう。
どんな影響が出るかは分からないが、一命を取り留めるにはこうするしかない。
「・・・・・・ふぅ、とりあえずこれでいいか」
その場にいた6人の一命を取り留め、軽傷の部分はベルが治療をする。
「ん? もう1人はどこだ?」
「あ、そういえば・・・・・・」
7人居たはずだ。
けれどここには6人しかいない。
どこにいった?
周囲をよく観察すると、少量の血が繋がって奥の部屋へと続いていた。
「ベル、治療を続けてろ」
「は、はい」
俺の様子を察したのか、ベルは子供達の治療を続ける。
しかしその顔には今だ不安が消えないようだ。
そしてそれは俺も同じだ。
胸騒ぎがする。
見たくない。
この先の部屋には絶対に嫌な光景が広がっている。
部屋に近づく度に嫌な臭いがする。
何かが焦げたような臭いも。
覚悟を決め、部屋を覗く。
「ッ!?」
「治療終わりました・・・・・・何かありましたか」
「来るな。来なくていい」
「っ、はい・・・・・・」
その部屋にいたのは、女の子だ。
歳は12歳くらいか、中学生くらいの子だ。
ベルに見せる必要は無い。
見せてはならない。
ベルだけでなく、他の子供達にも。
「あの子達の面倒を見ておけ。ここは俺が処理する」
その子は既に死んでいた。
ベットの上で、手と足を鎖で縛られ抵抗できないように。
ベルが用意した服は床へ破り捨てられていて裸だった。
体中に目を背けたくなるほど痛々しい打撲の痣や切り傷、脇腹には何か高熱のものを当てられたのか焦げ剥がれていた。
彼女の遺体に近づくと、ベットの上に1枚の紙が置いてあった。
【国際最重要危険人物、神崎憐。
世界を敵に回した己の愚かさを思い知れ。
貴様の大切な子供達が弱って死にゆくのを、何も出来ずに見ていろ。
それとそこの娘、中々良い具合だったぞ。貴様如きには勿体ない代物だから、我々で楽しませてもらった】
グシャっと紙を握り潰す。
俺の復讐とは無関係な子供達を殺そうとしたあげく、汚し、暴力を楽しんだゴミクズ共がいる。
やはり神など存在しない。
こいつは悪魔以下の存在だ。
そんなやつがこの世に存在出来ている時点で、神など居ないも同然。
神罰を下さない神など無能もいいところだ。
俺の手で殺さなければならない。




