〈38話〉少女を拾った
いつからだろうか。
復讐を決めてから、最初の東京壊滅から数年間、多くの命を奪い続けた。
次第に日本だけじゃなく、周辺国にも手を広げ、数多の命を奪った。
そのことに後悔はない。
なんせあいつらは敵なのだから。
奴らが自ら俺を敵と認定したのだから。
そこに悔いはなく、晴れ晴れした気持ちでもすらある。
しかしいつだったか、どこかで1人の子供を拾ってしまった。
その日はいつも通り人が多い場所を狙った。
遥か上空から半分ほどの土地を抉りとり、残りには火の雨を降らした。
抵抗も何も無く、反撃もなく、彼らを護るものいなかった街は簡単に壊滅した。
とても晴れた日で、逃げ惑う奴らの動きがよく見えた。
ある程度処理が終わって、街に降りた。
最近は最後に下に降りて確認することが多かった。
生き残ったやつが居ないかを確認するために。
ここ数年で復讐の芽は摘むべきだと学んだ。
俺が自身がそうだし、実際に生き延びた軍人が復讐心から、たった1人で俺の寝床に奇襲を仕掛けてきた。
奇襲自体は危うげなく対処したが、その男の執念は凄まじく、右腕が無くなろうが、内蔵を引っこ抜かれようが最後まで抵抗していた。
そこで危機感を、恐怖を覚えた。
復讐心は時に身体の限界をも越す。
その経験もあり、その日も残敵を探していた。
丁度真下で逃げていた2人がいたから上空から燃やし、そこから漏れがないよう捜索(いや、殆ど散歩みたいなものだけど)を開始した。
暫く歩いていると、炎に囲まれて倒れた1人の少女がこちらに手を伸ばしているのに気づいた。
「・・・・・・死に損ねたか。俺が楽にしてやる」
その子は体中痣だらけで、痩せ細り、肌は異常なほど白かった。
だからか、どうしても悪魔には見えなかった。
この子は悪魔の被害者だ。
俺や彼女らと同じ側なのだと思った。
だからこそ早く楽にしてあげようと思った。
治すことは出来た。
しかし、その後は誰が面倒を見る?
俺は敵が多い。
それに寝床は常に違う場所で1度使った場所には戻らない。
危険があるからだ。
だから彼女を殺そうとした。
このまま治っても、何もないここで野垂れ死にだけだ。
苦しい思いをした人間が、また苦しい思いをするだけだ。
死んだ方が楽だろう。
「翼を・・・・・・触らしてください」
突如、彼女はそんなことを言い出した。
翼? この女の子は何が言いたい?
そんな物は俺についていない。
俺は人間だ。鳥ではない。
「何を言っている? 俺に翼などない」
言語の壁など、そんな物は俺には無い。
それは頭の悪い悪魔達が言っているだけに過ぎない。
「あなたの、背中に、翼が、ありませんか?」
また翼か、そんなもの俺にはない。
この子は一体何を見ているというんだ。
極度のストレスや重度の病気からの幻覚か?
この地域なら薬をやっていてもおかしくない。
「はぁ、まぁ幻覚でもい」
るんだろう。
そう言葉を続けようとした時、少女は答えた。
あまりにも予想外の答えを。
「少し紫がかった、大きな、翼」
「!?」
想定外な答えが返って来て目を見開く。
紫?
紫がかった翼?
普通ならそんな答えを聞いても幻覚だと吐き捨てるだろう。
だけど、俺には出来なかった。
なんせ、俺の予想が正しければ、俺もそれを見たことがある。
少し、気になってしまった。
この少女のことが。
少女の目を見る。
引き込まれるように奥へ、さらに奥へと潜っていく。
魔素には、その人の全てが詰まっている。
記憶、性格、その時の感情。
全てが詰まっているのは分かっても、はっきりと見えることは無かった。
今までは、殆ど霞んで、その上一部分しか見えなかった。
この少女の目を見るまでは。
「お前、まだ生きたいか?」
この少女に興味が湧いた。
それに単純に少女の過去を覗いて、同情してしまったと言うのもある。
そして勝手に覗いてしまった罪悪感からか。
まぁこの子がそれを望まないなら
「はい」
「俺に着いてくるか?」
「はい」
即答だ。
「気に入った」
安心させるために少し笑ってあげよう。
久しく笑顔というものを忘れていた。
この子は俺自身にとっても、いい刺激となるだろう。
少女の前で膝をつき、ゆっくりと手を出し、怖がらせないように優しく頭に手を乗っける。
「よし、これでいいな」
少女はキョトンとした顔をしていたが、俺を手を話そうとしたら掴んで離さない。
この子は過去は酷いものだった。
それを思い出すと、強引には引き剥がでなかった。
そのまま優しく頭を撫でてあげる。
少女は気持ちよさそうに、嬉しそうに笑っている。
・・・・・・柚葉さんも、こんな気持ちだったのかな。
「よし、行くぞ」
何分やったのか、この子はこれで満足出来たのか。
俺の手で満足できるのならまた何度でもやってあげよう。
誰かに大切にされ、優しくされ、愛を受けるのはとても良いのものだ。
かつての自分がそうだったように。
「着いてこい」
俺は少女の頭から手を離し立ち上がった。
そしてそのままゆっくりと燃え盛る街の中を歩き出す。
少女が着いてこない。
何をしてるんだ?
ああ、まだ気づいていないのか。
「もう歩けるぞ!」
後ろを振り返り、少女に言うと、最初は意味が分からないと言っていた顔をして、自分の体を見て、目を見開く。
パッと立ち上がり、ピョンピョンと跳ねる。
全身で喜びを表現しているみたいで、とても可愛らしかった。
そして俺はまた前を見て歩き出す。
彼女はタタタッと駆け寄って俺の後ろを走って追いかけてきたのだった。




