〈33話〉その時はまだ・・・・・・
「柚葉さん・・・・・・」
部屋を出る前に、最後にもう一度だけ彼女を見る。
もう、これで最後だ。会えることは無くなるだろうな。
もう、死んでしまったから・・・・・・自分のせいで。
悪魔達のせいで。
「今までッ、ありがとうございました」
最後に1度、冷たくなった柚葉さんの体を抱きしめる。
もう、このが動くことはない。
もう、この人と話せない。
もう2度と、この人のあの笑顔は見れない。
何度も自分を救ってくれて、元気にしてくれたあの笑顔は、2度と・・・・・・。
「もう、行かなくちゃ」
燃やして、土に埋めて、彼女の好きなものをお供えして・・・・・・そういえば、この人の好きな物、知らないな。
こんなに沢山のことをしてもらって、沢山自分の話を聞いてもらったのに、自分は結局この人のことを殆ど知らなかった。
本当に、後悔しかない。
自分がこんな力を持ってなかったら、あるいは幸せに暮らせたかもしれない。
でも、そうしたら柚葉さんには会えなかったかな。
・・・・・・それは、少し嫌だな。
覚悟を決めたはずなのに、どうしても足が立ちすくんでしまう。
人を殺す覚悟は出来た。
もう既に数え切れないほど殺した。
もうあの人達には顔向け出来ない。
今の自分は彼女達を殺したあの大臣と同じ人間だから。
そしてこれからそれ以上の人を殺すことに・・・・・・いや、俺が殺すのは悪魔だ。
気にする事はない。
「・・・・・・ふぅ」
柚葉さんの体を丁寧に地面に寝かせ、ゆっくりと立ち上がり1歩後ろへ下がる。
土に埋める暇はない。
すぐにでも世界を浄化するために。
このままあの人の体が腐ってしまうなら、せめて俺が・・・・・・。
「・・・・・・」
パチパチと燃える柚葉さんの体をただ黙って眺める。
千代さんの遺体も柚葉さんと一緒に燃やした。
「・・・・・・よし、行くか」
彼女達の体が天に還るのを最後まで見届けて、覚悟は決まった。
ずっとこんなところでクヨクヨしているわけにも行かない。
重い足を動かし、部屋の扉へ向かおうと振り返ろうとすると、
「おい神崎憐」
「!?」
生き残りがいたか!?
突如声が聞こえ、バッ振り返ると同時に腕を突き出し握りつぶそうとするが、そこに居たのは顔見知りだった。
「おいおい俺だよ。出るんだろ? ほらよ!」
そこに居たのは久世さんだった。
唯一ここで話してくれた存在。
自分を人間として扱ってくれた人。
「久世さん? これは?」
「出るんだろ? 周辺の地図と数日分の食料を入れて置いた。あと、出るなら正面から出ない方がいいぞ」
久世さんが俺に投げ渡したのは小さめのリュックだった。
中を見ると言っていた通り周辺の地図と多数の保存食。
「なん、で・・・・・・」
「あ? 外は今めちゃくちゃ警察やらいるからだよ。
そんな力あるなら空とか飛べんだろ? だから正面玄関以外から」
「あ、いや、違くて!
なんで、ここまでしてくれるんですか?
あなたが、俺に優しくする意味なんてないんじゃ」
「言っただろ。協力するってな」
「でもッそれだけで」
そんな簡単に俺を信じていいのか?
こんなにも多くの命を奪った張本人が、目の前にいるというのに。
「気にすんな。
それに俺もこの環境に辟易してたんだ。
この気持ちの悪い社会にもな。
それに、今俺はめちゃくちゃ興奮してんだよ」
「な、なんで?」
「あ? そりゃ決まってんだろ!!
これから世界は変わるぞ!
神崎憐! お前を中心にな!
そんな世界が変わっていく流れのスタートを見れたんだ!
嬉しいに決まってる!」
そう喋る久世さんはどこか嬉しそうで、今まで溜まっていた鬱憤が晴れたような顔つきだった。
「だから神崎憐、俺はお前を応援するよ。
だから見してくれ、理不尽な社会に、世界に全てを奪われた神の如き力を持ったお前の思い描く世界を!!!」
「・・・・・・神は嫌いです。無能なので」
「そうか、悪かったな。
なら人ならざる力を持ったお前のしたいことをしてくれ。
それが俺の望むものだ。
そのためなら協力も惜しまないつもりだ」
「ありがとう、ございます」
「ほら、とっとと行った行った!
あんまりモタモタしてると増援が来るぞ!
上への階段はあっちだ!」
「助かります!」
久世さんが言い切ると同時か、久世さんが指を指した方向に間髪入れず俺は走り出す。
別れも言わず、最後は目も上手く合わせずにすぐに走り出した。
言いたいことは沢山ある。
聞きたいことも沢山ある。
だけど今はただ、力強く背中を押してくれた久世さんに感謝を。
ただひたすら階段を登る。
息が切れても止まることはなく、ただ登り続ける。
飛ぶ。
それとも跳ぶ?
それじゃ意味無いか。
多分逃げきれない。
警察と戦ったところで意味は無い。
たった少数の悪魔を相手するのに力を使うのは勿体ない。
それに疲れたな。
そうだ、数日は休みたい。
久世さんに貰った食料分だけ休んで、そこから始めるとしよう。
悪魔の大量虐殺を。
「っち! 閉まってるか!」
最上階に着くが、屋上に出るための扉は鍵が閉まっており固く閉ざされている。
が、これくらいどうとでもなる。
バキッドゴオオン!!
っと力を使い扉を吹き飛ばし開ける。
「よし」
屋上の縁に立ち、下を見ると沢山の武装した警官に迷彩色の兵士。
もう既になだれ込んでいる最中だった。
飛べるか。
いや、飛べ。
それくらい出来るだろ。
やれ。
お前の目的はなんだ。
この世界を壊すことだろ。
空も支配出来ない奴が、あの悪魔共に勝てるか?
否、勝てるわけが無い。
だから飛べ!!
「ッッッ!!!」
恐れることはない。
俺は完全武装したあの量の悪魔を1人で殺した人間だ。
人ならざる力を持った人間である俺なら、それくらい出来なければ困る。
助走をつけてダッと飛び出す。
飛び方なんて知らない。
今までそんな発想すら出なかった。
けれど、今ならなんでか飛べる気がする。
宙に体が浮いて、落下していく。
空を見上げる。
暗く、曇った空。
太陽の光を遮る雲。
その下で一匹の鳥が飛んでいた。
その小さな体で、大きく翼を広げ、力強く羽ばたかせている。
この広い世界を遙か上空から見渡し、自由に生きている。
何とも羨ましいんだ。
俺もその翼が欲しい。
自由にこの世界を羽ばたける。
そんな翼。
戦う為にも。
「うおっ!?」
急激に落下している最中で、グンッと上に引っ張られる感覚。
そしてそのまま落ちることなく、浮遊し続ける。
「はは、出来た・・・・・・」
これで俺は自由だ。俺を止められるものはいない。
「・・・・・・いくか」
最後に1度だけこの施設を振り返る。
ここで沢山のことがあった。
しかし、詳しく思い返すことは無い。
これから始まるのは、大切な人を殺された俺の復讐だ。
もう二度と振り返ることはなく、ただ遠くを、誰もいない場所を目指し飛び続けた。
力を蓄えるために。
この国に巣食う悪魔共に、復讐を。




