〈30話〉神に愛されし者
「は・・・・・・?」
なんだ、これ。
バッと葉さんの方を見ると、柚葉さんもプロジェクターに映し出された映像を見て目を見開き、驚きを隠せないでいる。
柚葉さんもこうなっていたことを知らなかったのか。
プロジェクターで映し出されていたニュースの内容は、犯罪者を匿った祖母と孫の2人暮らしの家庭。
それについて有名人?弁護士?どこかのお偉いさん?が話し合っている。
「どうなって・・・・・・」
ニュースの画像が切り替わり、一本の映像が流れる。
それは自分が何故か警察官を力を使って浮かしたり、燃やしたりして襲っている映像。
その他にも自分が鬼塚を燃やした時の映像やもう1人のチンピラを吹き飛ばした時の映像も流れ、テロップでその2人は後に死亡したと、そう記載されていた。
「・・・・・・なんだよ、これ」
こんなこと、自分はしていない。
でもそれならなんでこんな映像が?
いつから広まった?
どれくらい拡散されている?
自分がこんなことをやっていないとすれば、これは捏造された映像ということ。
・・・・・・でも、これが捏造だったとして、見抜ける人はどれくらいいる?
「これは先日ニュースになっていたものだ。神崎憐、お前が警察署に詰め込み警官を脅している姿だ」
「こんなこと、やってない」
「ああ、知ってるぞ。なんせこれは捏造された映像だからな。いやあ最近の技術は素晴らしいものだな」
「なっ・・・・・・!?」
やっぱりこれは捏造された映像だったか。
「なんでこんなことを」
自分がそう聞くと、大臣は笑顔を見せる。
いやらしく、憎ったらしい笑顔だ、悪事を企んでいるのが見え透いている。
いや、隠す気もないのか。
「そうだな、教えてやろうか。神崎憐。
これも全部お前のためなんだぞ?
まずこれを見た日本国民はどう思うだろうなぁ?
話題の不思議少年は警察官を脅し、人を殺した犯罪者!
相手も犯罪者だったとは言え、愚民どもはそんなところ見ちゃあいない、あいつらが気にするのはお前が人を殺したかどうか。
そこだけを見た人間が広め、さらに間違った情報は広がっていくだろうなあ?
特にそう言う奴らってのは声がデカいんだよ。
そうなればもはやお前を擁護する声も聞こえなくなるだろう」
まるで演説者のように手を広げ、楽しいそうに大臣は話す。
「そしてその後は? どうなると思う?
次第にお前を非難していた奴らはそこの女を非難し出す!
犯罪者、人殺しを匿った家族としてな!
日本中に広まることになるだろう!
そうなれば街に戻ったところで、お前らの居場所なんてない。
どこにも就職なんて出来なくなるだろうし、目立ちたがりのSNSに頭を侵された目立ちたがり屋のバカ共の嫌がらせもくるだろうなぁ?
そんな中で、お前は生きていけるか? んん? どうだ、天城柚葉」
大臣が柚葉さんに顔を近づけていき、煽りを入れて話しかける。
それを見て、少し怒りが湧いた。
「っその、お前の汚い顔面を柚葉さんに近づけるなッッ!!」
最近ずっと声が出なかったとは思えないほど、怒気が篭った大声を放つ。
しかし兵士に取り押さえられている中、必死に暴れてなんとか抜け出そうとするが、抜け出せない。
「はっはっは! いい声を出すじゃないか、それを聞きたかったんだ! ・・・・・・おい神崎憐、この女がそんなに大切か? ん? どうだ、俺はこんなことも出来るぞ?」
「っう、い、いや・・・・・・」
さっきの話を聞いて少し涙目になっていた柚葉さんに大臣が手を伸ばし、胸を揉むと、柚葉さんは拒絶の声を出す。
「やめろおおッ!」
こんな目の前にいるのに柚葉さんを助けることは出来ないのか。
自分は、それほどまでに弱かったのか。
かつて自分を助けてくれた人が、命を救ってくれて家族のように優しくしてくれた人がこんな目に遭っているというのに・・・・・・まだ、力を出すのを渋るというのか。
そうだ、ここで使わなくて、いつ使う。
もうこの世界には敵しかいない。
ならもう力を使っても、もういいじゃないか。
お前なら出来るはずだ。
だってそうだろ?
お前は一番好きだった母に嫌われて、拒絶されて、バケモノと呼ばれても必死に生きて来たじゃないか。
これからどれだけ多くの人間に拒絶されようと。
どれだけ多くの人間に嫌われようと。
もうどうでもいいじゃないか。
もう既に嫌われたのなら、力を隠す意味も無いな。
「! うわッ!? ぐッ!!」
「なんだ!? ぐはっ!?」
自分を捕まえていた兵士2人に向かって後ろで手錠によって縛られた腕を左右に振り回すと同時に力を使い、兵士2人を掴み、壁へ吹き飛ばす!
兵士2人は背中から左右の壁に衝突し、痛みから目を見開き悲鳴を上げる。
「柚葉さん!!!」
柚葉さんを助けてここを出る!
もうこの国に自分達を助けてくれる人間は居ないかもしれない。
それでも、ここよりかはマシだろう。
もう嫌われていると知っているなら何も気にしなくていい。
「何をしている! 早く止めろ役たたずどもめ!!」
「はッ!」
大臣の言葉に彼の近くにいた兵士が前に出て一斉に銃を構え、照準をこちらに向ける。
「邪魔だあ!!」
腕を右に振り払うと、兵士達が横からスピードが出ている大型ドラックに轢かれたかと錯覚するほどの勢いで右に飛んでいく!
「っ! 化け物め!!」
目の前に残るは大臣と今の出来事に驚愕を隠せないでいる柚葉さんだけ。
先に大臣を倒して、その後に柚葉さんを・・・・・・・いや、あいつは攻撃手段を持っていないし、他の人を殺した恨みはあるが、今は柚葉さんを優先して脱出するべきだ!
彼らの前に辿り着く数秒の間に考え、転びかけるも足を前に出して耐え、再度前を見据える!
「あれ?」
そこには机に伏した柚葉さんの姿しか無かった。
大臣は・・・・・・横の壁付近にいた!
柚葉さんを諦めたのか?
いた、今がチャンスだ!
何も考えずにただあの人を助け
ーーー瞬間、背後から銃声が聞こえた。
それも数秒の間途切れることなく。
「ぐッ!」
手足が燃えるように熱い。
銃弾が止み、痛みを感じる部分を見ると、元々赤黒かった包帯は、溢れ出る鮮血によって真っ赤に染められていく。
撃たれた。
後ろから。
大臣が横に行ったのは諦めたのでも逃げたのでもなく、攻撃をするためだったのか。
「はっ、柚葉さんは!」
柚葉さんは大丈夫か!?
足を撃たれてあまり力が入らず、地面にへたりこんでしまったため、顔だけ上を向くと、柚葉さんは机に伏していたためか銃弾を食らった様子は無かった。
「柚葉さん・・・・・・」
「憐君・・・・・・・だ、大丈夫、なの?」
柚葉さんは顔をこちらに向ける。
その表情はとても弱々しく、目元や頬には涙の跡がり、声は震えていた。
「自分は、大丈夫です・・・・・・よかった、柚葉さんも無事で」
「うん・・・・・・」
自分の目の前にいた柚葉さんは当たらなかったようだ。
兵士が自分を殺さないように手足部分に撃っていたのもあるだろう。
「やってくれたなああ神崎憐ッッ!!!!」
横から怒りの籠った声が聞こえ、振り向いた瞬間に顔に痛みが走る。
「このクソガキがッ! よくもやってくれたな!!」
大臣に顔を思いっきり蹴られ、後ろに倒れそうになっているところを更に追撃を食らう。
「おら! おらあ!! はぁ、はぁ、はームカつく野郎だ。私に勝てるなどと付け上がるなよ愚民ごときがッ!!」
「がッ!? ぐッ!」
仰向けに倒れた自分の顔面や腹に大臣が足を踏み下ろす。
苦痛に耐えながらチラッと視界に移ったのは、柚葉さんが大臣を止めようとして兵士に止められ殴られていたこと。
力を使っても自分に助けることは出来ないのか。
また自分のせいで大切な人を、恩人を死なせてしまう。
「素晴らしいいい力だ!!!!
これぞ神に愛されし者の力!!
あぁ! なんと美しいんだぁあ!!
神よおお!! ありがとうございます!」
突如横から聞こえたその声に大臣の動きもピタッと動きを止め視線をそちらに向ける。
「博士、少し静かにしていただきたい。
今はそんなことを言っている余裕は」
「なぁあんだ君は!?
今の出来事を見ていないのか!?
まるで神と間違う程の超常の現象だ!!
科学なんて人間の次元では到底理解の及ばない事象だ!!!
それに君も興奮していたではないかッ!! 」
博士、あんな感じの人だったか・・・・・・?
まぁいい、そのまま大臣の注意を引き付けて
「無駄なことを企むなよ」
「ぐ!?!?」
腕を踏まれ、大臣はグリグリと足に力を入れる。
「っち、ムカつく野郎だ」
自分にしか聞こえないほどの小さな声で博士を見ながら大臣が呟く。
「博士!
全てが終われば後はあなたの自由にさせます! それまでは自粛していただきたい!!
あと少しなんです! 邪魔しないで頂きたい!!」
「その条件なら仕方ないな!!
すぐに終わらせたまえ!!」
そう言って愉快に笑いながら博士は部屋を出ていった。
「さて、まずはお前らからだ・・・・・・おい、持ってこい!」
そう言われると白衣を来た数名の人間が早足に部屋を去っていく。
「お前らに見せたいものがある。そこで大人しく待っておけ」
そうは言うが、もう暴れようにも暴れられない。
腕に力が入らないから力を使えないし、足は痛みで動かない。
もう、逃げることは絶望的だ。
柚葉さんは兵士達に取り押さえられている。
必死にもがいているが、鍛えられた大の大人の拘束を女子高生1人で抜け出せるわけも無かった。
「財務大臣」
「来たようだ。あれを見ろ神崎憐、天城柚葉お前もだ」
柚葉さんが力無く視線を扉の方に向け、それにならって自分も視線を向ける。
ああ、やめてくれよ。
これ以上、自分を嫌いにさせないでくれ。
どうして自分の人生はいつもこうなんだ。
いつだって大切な人が自分の傍から離れるのは自分のせいだ。
「おばあちゃああんッ!!!」
扉が開いた先の光景を見て、柚葉さんが悲鳴に満ちた声を出す。
開いた扉の先には複数の兵士と白衣に身を包んだ研究者のような人物に囲まれたベッドの上で、千代さんが眠っていた。




