〈25話〉悪魔
「あまりに滑稽だと思わないか? なぁ、神崎憐?」
「ぅ、うそ・・・・・・」
どうか、どうか嘘だと言ってくれ。
そうでなければ、頭がおかしくなる。
だって今まで、あの2人は自分を嵌めたのだと思っていて、あの優しさもただの嘘で裏切り者だと思っていたのに・・・・・・。
ガラスの先では絶えずあの2人は自分のせいで暴行を受け、それはさらに激しくなっていく。
「や、止めろ! 止めろお!」
ガラスに張り付き拳を殴りつけてもビクともせず、自分にはただ眺めることしか出来なかった。
「どうだ神崎憐、面白いものを見れただろ?」
「な、何を言って・・・・・・これのどこがっ!」
「面白くないか? そうか、私達は趣味が合わないな。やはりお前とは仲良くなれそうにない」
「ふざっけるな! なんでこんなことをっ」
「なんで? 分からないとは言わせないぞ、神崎憐。お前が私の協力を断り続けているからだ。覚えているか? 私とお前が初めて対面した日を・・・・・・私はずっと覚えているぞっ、お前のような馬鹿でアホでマヌケで愚かなガキが、私の申し出を断り反抗したことを!」
大臣が震えるほど拳に力を込め、憎たらしい目でこちらを睨む。
「あの人たちは、関係ないはずだろ・・・・・・」
「いいや、関係あるさ。お前との関係がな。だから奴らをお前の目の前で痛ぶって嬲っているんだ」
「っ、・・・・・・協力しなかったからか?」
「ああ、そうだ」
こんな奴に力なんて貸したくはない。
自ら協力を申し出ておきながらほぼ強制させるような、こんな扱いをする悪魔のようなこいつに、協力なんてしたくない。
こいつの言う協力は絶対に対等なんかではない。
博士は言っていた、自分のことを研究対象だと。
・・・・・・一体何が起こるのか、何をされるのか、怖くてたまらない。
もうここから出られないんじゃないかと、柚葉さんに会うことは、もう一生無いんじゃないかと。
けれど、自分のせいで、自分に優しくしてくれた人が酷い目に遭っている。
それを見捨てるのはいいのか?
いいや、良くない。
そんな自分を柚葉さんは許さない。許してほしくない。
これは償いだ。
自分を思っていてくれていたのあの2人を、裏切り者だと考えていた自分への、償いだ。
彼らを信じきれなかった自分が本当の裏切り者だったんだ。
「・・・・・・すぅ、ぁぁ」
喉が震える。
緊張している。
今から言う言葉は、これからの自分の一生を変えていくことになるだろう。
勇気を出せ! 覚悟を決めろ!
「ぁ、あなたと協力しま」
「神崎憐」
「っ、?」
します、とそう言い切ろうとしたその言葉を大臣が遮る。
「私にこれだけの手間をかけさせておいて、今更協力なんて考えているのか? はぁ、これだから愚民は嫌いなんだ」
な、何を言って・・・・・・
「私はお前と初めて会ったあの日、あの後決めたんだ。上級国民である私に反抗したこの愚者を、徹底的に追い詰めて、絶望させて、協力なんかじゃない、私の命令に従順に従う奴隷にしてやろうと」
「そ、そんなことがゆる」
「許すも何も、決定権は全て私にあり、お前には拒否権などない。ふむ、そうだな。まずはあいつらを数日ほどこのままにしておこう。ああ、安心しろ。こちらは常に交代出来るだけの人員がいる、だから24時間ずっと苦痛を味わせることも容易だ。そして飯は奴らのクソをそのまま食わせ、飽きたらあらゆる人体実験を奴らで試させよう。そうだな、それがいい。その方があやつらみたいな底辺の人間でも役に立つだろう。どうだ神崎憐、完璧な計画だと思わないか?」
大臣はガラスの先を見つめながら薄笑いを浮かべいる。
まるで天罰だとでも言うように。
「・・・・・・うが、」
「あ? なんだ? 声が小さいぞ?」
「クソ野郎があああ!」
頭に血が昇っていてまともな判断も出来なかった自分は、両手を使えない状態だと言うのに大臣のつっこんだ。
両手が使えない?
関係ない、足は動く。
ならば走れ。
体当たりでも頭突きでもなんでいい。
あいつを、この悪魔をっ!
「止まれ!!」
「がはっ!?」
「押さえろ!」
横からタックルを喰らい、体格差もあったからか簡単に吹っ飛び床に倒れる。
その隙に数名の兵士が自分を取り押さえ、どれだけ抵抗しても身動き一つとれない。
「はぁ、これだから馬鹿なガキは嫌いだ」
そう言ってコツコツと音を立てながら大臣が取り押さえられている自分の目の前へと近づいてくる。
首を動かして視線を上げる。
そう言えば、前にも似たようなことになっていたことがあった。
あれから1ヶ月ほど経っているというのに、結局何も出来なかったし、何も思いつかなかった。
「まぁ、ふっ、それも仕方ないか。なんせお前を産んだ女が馬鹿だもんな」
「・・・・・・は? 何を言ってるんだ」
「いや何、少し君について調べたら、君の母親を知ったんだ。いやぁあれは本当に面白い話だ! エリートな男と結婚しておきながら、その男を捨てて金も知能も権力も何もないただのクズについてき、股を開くことでしかそのクズからも愛情を貰えない出来損ないの馬鹿女の元に産まれたんだから。そりゃあ仕方ないよなあ? はっはっはっはっは!!」
蘇るは苦い思い出、辛い記憶。
初めて拒絶され、嫌悪された日。
けれどそのもっと前の、幸せだった頃の記憶。
もう殆ど掠れて見えないけれど、その時は確かに幸せだった。
「お・・・・・・」
「ん?」
「お、お前にっ! あの人の! 何が分かるッッ!!」
「分からないに決まっている。分かるはずもない。その女のことも、そしてお前のこともな。なんせ私は産まれた時から勝ち組だったのだから。私は神に愛されているのだよ。親にすら愛されなかったお前とは違ってね」
神?
神だと?
そんなものがこの世界に居るわけがない。
居たらこんなクソったれな世界になっていない筈だ!
もし居ると言うのなら、こんな不条理な世界を創ったその神とやらを殴ってやる!
「どうした? 反抗する元気も無くなったか? 残念だな、まだ遊びたりなかったがお前は今日はこの辺にしておいてやる。あの若い警察官のことも見してやりたかったが、反応が無いと面白く無いからな」
それって、もしかして・・・・・・
「・・・・・・おい、誰のことだ?」
止めろ、聞くな、後悔することになる。
何も知らないままが一番気が楽なんだ。
なのに、なぜ聞く。
「ん? 気になるか? 名前はなんだったか。う〜ん思い出せんな」
「結城と篠原です」
「ああ! そうそう! そいつらだ! 私の命令に背いた奴らだ! 確か女の方は顔よかったよな? いい声で泣いてたなあ。あれは唆るものがある。男の方は必死に女を庇っていたけど、自分をヒーローだとでも思っているのか? 本当に馬鹿だよなあ。これだから顔だけが取り柄のやつは頭が悪くて嫌いだ」
・・・・・・ああ、本当にこの世界に神がいると言うのなら、この悪魔を殺さなければならないだろう。
次話更新は12月13日予定




