〈24話〉夢であってくれ
「・・・・・・」
財務大臣と博士に会ってから、何日経ったのだろうか。
あの後部屋を移動させられた時、廊下に出たが鉄製の扉がいくつもり、突き当たりにはまた違った綺麗な扉。
自分はまた別の部屋に入れられた。
そこも前と似たような部屋だった。
端に手入れされていないであろう和式トイレに、少し錆びた鉄製の扉、絶対に手が届かないであろう高さに小さな鉄格子があり、相変わらず薄暗い。
変わった点と言えば部屋の壁に1mほどの鎖があり、先には人間を拘束する為の手錠が付けられていた。
そして今はそこにいる。
もはやトイレも使えない。
1日中ずっとそこで放置されていて、何日いるのかももう分からない。
ご飯は1日一食。
出てくるのは薄く茶色に濁った水と離乳食のような物。
味は最悪だ。
でも、食べねばならない。
生き残る為に。
ここを出て、いずれ柚葉さんに会いにいく為に。
「・・・・・・」
それでも、体に上手く力が入らない。
常に空腹で、身動きは取れず、自分の排泄物で臭いも最悪だ。
こんなクソみたいな環境でいくら気持ちや信念は強くあろうとしても、体は正直でついてこれない。
「・・・・・・ぁ、くっそ」
自分の喉から本当に声が出ているのかも分からないほどか細い音が出る。
ドサッと壁にもたれ掛かり、少しでも腕の可動域を広くする。
上手く力の入らない腕を前に突き出し力を使おうとして、止まる。
「・・・・・・」
ここに来てから何度も脱出するために力を使って試行錯誤してきた。
けど、どう頑張っても自分の使える力ではこの壁を出来なかった。
傷をつけることは出来た。
でもそれだけだ。
どうしても破壊まではいかない。いけない。
本気で火をぶつけて、爆発させて、そしたら死ぬのは自分だろう。
壁を壊せても死んでは意味がない。
鉄製の扉、これはまだ試していないけど今の自分の、あの物を操る力なら強引にこれを引き剥がせる可能性はある。
けれどそこを開けたとして、この建物内には財務大臣についていたような完全武装の人間がいる。
あれに勝てるイメージが湧かない。
正面からだと、確実に負ける。
正直、手詰まりだった。
何をしても、どの選択肢を取っても脱出出来るビジョンが浮かばす、見えるのは死ぬ未来だけ。
その上今や体に力が入らないし、体力もない。
そして何度か力を使うと一気に体力が持っていかれる感覚。
今まではあまり感じなかったが、力を使うとやけに疲れた、そのまま気絶したように眠ってしまっている時もある。
「・・・・・・どうすれば、いいんだっ」
また数日が過ぎた。
もう・・・・・・上手く、頭が回らない。
一体いつまで、ここで監禁されつのだろうか。
時間の感覚が曖昧だ。
ここに来てから、2週間は経っただろうか。
壁にぐったりともたれ掛かり、俯いて時間が過ぎるのをただ待つしか出来なかった。
ギギギィィッと音を立てて扉が開いていく。
ああ、やっと飯の時間か。
そう思って視線だけを上げようとすると、外から入ってくる人影がいつもなら看守の2人分だけだが今回はもっと多く、さらに視線を上げるとあの大臣がいた。
「久しぶりだな神崎憐。1ヶ月ぶりくらいか? 様子を見に来てやったが・・・・・なんともまあ無様な姿になったなぁ、どうだ? 協力する気になったか?」
1ヶ月?
もう、そんなに経っていたのか・・・・・・。
「っ、ぁぁ」
あれ? 声が掠れて、上手く言葉が出ないな。
たった数日前までは、まだ・・・・・・。
「あ? なんだって? もう少しはっきり喋れ。ま、今日は機嫌がいいからもう一度チャンスをやる。協力する気になったか?」
「・・・・・・お前、みたいなやつと・・・・・・誰がっ、協力するか・・・」
「・・・・・・馬鹿なガキだ。お前のような愚者を見ていると私は心底腹が立つ。しかし、まぁいいだろう。どうせお前は私に従う事になる。その時までせいぜい・・・・・・」
コツ、コツ、コツと財務大臣がゆっくりと近づいてくる。
「そうしておけ、よっ!」
「ッッッ!」
「ふっ、今日はこれくらいにしてやる。神崎憐、お前のその顔が絶望に染まるのを楽しみにしているよ・・・・・・いくぞ!」
「・・・・・・」
ああ、やはりこいつとは協力するべきじゃないな。
協力を申し出る相手にこんな扱い、許されるわけがない。
信用できない。
自分は絶対に屈指はしない。
何があってもチャンスを狙ってここから出てやる!
「神崎憐、あれが何か分かるか?」
「・・・・・・」
さらに数日が経ってまたいつもみたく大勢の完全武装した兵士と一緒に大臣が現れた。
その時は博士も一緒にいて、鎖から外され、代わりに体の後ろに両手を回されて手錠をつけられた。
「着いてこい」と大臣は言い、兵士に囲まれながらヨタヨタと後ろを着いくと、廊下の先、自分がいた牢屋のような部屋が多くあったから打って変わって建物内はどこもかしこも綺麗で、白を基調として作られており、たまに全身ガラス張りの部屋もあった。
その部屋の中は全く皆目見当もつかない機械がいくつも置いてあった。
そのままずっと大臣は歩いて行く。
誰も何も言わない。
自分も何も言わない。
そして大臣は立ち止まっていて、何かを言っている、。
「〜い、〜〜ん、おい神崎憐、無視をするなよ」
「・・・・・・」
ああ、そうだ。
こいつに話しかけられていたんだった。
なんだと思い、大臣の顔に視線を向ける。
「そうだ、それでいい。あれを見ろ。なんだと思う?」
「・・・・・・?」
大臣が指を差した方向に視線を向けると、そこにいたのは、
「!?」
「ふっ、見覚えが」
ダンッ! と勢いよくガラスに張り付き、下を覗く。
あいつが何かを言っていたが、そんなものはどうでもいい。
なんせ、ここに連れてこられてしまった元凶がここにいたのだから。
「あいつらっ! やっぱりお前と繋がってっ!」
今にもガラスを破りそうなほど顔を近づけてみたその部屋の中には、ここに連れてこられる前夜に交番に自分を連れていった2人の警察官だった。
服装は警察の制服を着ていないが、顔は間違いなくあの2人だ。
「ふざけんなっ! あいつらのせいで!」
あの2人ががここにいるってことはやはりこいつらと繋がっていたのか!
嵌められたという事と、あの優しさは嘘だったという事に心の底から沸々と怒りと悲しさがが湧いて混ざり合う。
「・・・・・・神崎憐、お前はあれが憎いいのか?」
「当たり前だっ、こうなったのも、最初はあいつらが騙したからっ」
「く、くくく、はっはっはっは! 神崎憐、たまには面白いじゃないか」
「は? 何を言って・・・・・・」
「いいから見ておけ、面白いものが見れるぞ」
「なにがおもしろ・・・・・・は?」
目の前で始まったのは目を疑うような、意味が分からない光景だった。
2人が後から入ってきた数人に立たされ、その手には手錠が着いており、無抵抗なまま警棒のようなもので叩かれたり、水が満タンのバケツに頭を入れさせられて強引に押さえつけられたり、爪を剥がされたりする狂った光景だった。
「は? は? なにをしてる? なんでこんなこと」
だって、お前らは仲間のはずなんじゃ・・・・・・。
「神崎憐、お前は酷い奴だな。せっかくお前みたいな生意気なガキに優しくしてくれて、私達がここに連れてきた後も奴らはお前についてうるさくてな。ま、だからここで罰を与えている訳なんだが、知られた以上は対象しなければならないからねえ・・・・・・」
止めろ。
その話を止めろ。
どうか嘘だと言ってくれ。
「ふ、ふふふ、はははは! それほどまでに彼らは君の心配をしていたと言うのに! ・・・・・・本人には敵だと思われている。ふっ、あまりに滑稽だと思わないか? なぁ、神崎憐?」




