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人ならざる力がバレて世界中に狙われた少年、何故か人類の敵と認定されて大切な人を奪われたので復讐を決意します  作者: 寒い


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幸せな家族

 ある一つの家庭に、1人の男の子が産まれた。

 その男の子は神崎憐(かんざきれん)と名付けられた。


 母である神崎麻里亜(かんざきまりあ)は専業主婦で、父である神崎誠司(かんざきせいじ)は大手航空会社のパイロットだった。

 誠司は職種柄家に帰れる事が少なかったが、麻里亜を心の底から愛してやまなかった。そして憐の事も。

 麻里亜は幽霊や怖い話などが大の苦手で、誠司と一緒に観に行った映画で少しでも幽霊などの話が出るとすぐに帰ろうとしたりするが誠司はそれすらも愛おしく感じて、憐はよく目を瞑っていて、でも呼んだらすぐに目を開けるから、寝ているのか起きているのか分からないけどへにゃっと笑うその笑顔が癒しだった。

 もっと多くの時間を家族と過ごしたいと思っていたが、誠司は家族を養う為に家に帰れずとも必死に働いた。

 帰ってきた時は必ずお土産を買って帰ったりなど、マメな性格だった。


 誠司は元々、不出来な人間だった。

 勉強も運動も得意では無くて、話す事さえ苦手だった。

 だからか、長い間彼女なんて出来た事なんてなくて、だからこそ麻里亜と出会えて感謝して結婚もして、子供を欲しがっていた麻里亜の為に、唯一興味がって収入が高いパイロットを目指して、何とか就職できた。今では機長である。


「ただいま」

「お帰りなさい! ほら憐、お父さんだよ〜」

「パパっ! おかえりっ!」

「ただいま憐! 今日はケーキ買ってきたぞお!」

「やったあ! パパ、これあげる!」

「おっありがとうな! 憐、これはなんて恐竜さんかな?」

「ティラノ!」


 家に帰ると麻里亜と憐が笑顔で出迎える。

 憐も3歳になり、走ったり、クレヨンで絵を描いたり、簡単な会話なら出来る様になっていた。

 順調の様に思えていたが、昨年ほどから誠司の居ない間に奇妙な事が起こっていると麻里亜は言った。

 曰く、勝手に物が動いていたとの事だ。

 麻里亜は極度のホラー嫌いでビビりだったから、たまたまだろうと思った。 

 実際、最初はどれも小さな物ばかりだったらしく、憐が当たったりして動いた物だと麻里亜も思っていたらしいが、ある日、憐は目を瞑って寝ていたはずなのに消しゴムや飴ちゃんが宙に浮いているのを見たと言った。


「憐が投げちゃったとこじゃないのか? その場で浮くなんて事は流石に、見間違いじゃないか・・・?」

「本当に浮いてたの!! 信じてよ!」


 麻里亜は自分を疑ってばかりで信じてくれないの誠司に対して声を荒らげる。


「何で信じてくれないのよ!」と、半ば半狂乱になりながら涙を流す麻里亜見て、誠司は只事じゃないとすぐに謝り慰めた。

 麻里亜はその出来事に恐怖を感じていたようだった。

 誠司は麻里亜が1人で育児家庭をこなすストレスでこうなったのだと思い、病院へ連れて行くと軽い鬱だと判明した。


 この状況で1人にさせるのは不味いと思い、有給を使って麻里亜が落ち着くまで家にいて家事と育児を手伝った。

 その間に麻里亜が言っていた出来事は一度も起こらなかった。



「じゃあ、行ってきます」

「ええ・・・・・・いってらっしゃい」


 暫く経つと麻里亜も元気を取り戻した為、誠司は仕事に復帰した。

 今まで麻里亜は自分の為に殆どお金を使ってこなかったが、最近は何かを始めた様で、貯金が少し減っていっている。

 それを見た誠司は喜んだ。

 趣味が出来て元気にやってくれているのまらそれでいいと思ってからだ。

 麻里亜と憐のために、誠司はさらに仕事を増やした。


 色々あったが、側から見ても幸せな家庭だっただろう。

 と、誠司は思っていたし、実際近隣住民から見てもそうだった。

 しかし、それも憐が4歳の頃までだった。


 麻里亜が浮気をした。


 たまたま仕事が空き、サプライズでケーキを持って家へ帰った誠司は、憐を部屋に閉じ込めてリビングで金髪の男と体を重ねていたのだ。


「麻里、亜・・・・・・?」

「え? せ、誠司!? なんで、まだ帰ってこないんじゃ・・・」

「あ? これが麻里亜の言ってたたおっさんか?」

「誰だ? その男は」

「あ、いや・・・・・・」

「誰なんだ!?」


 誠司は麻里亜を男から引き剥がして詰め寄る。


「あ、せ、誠司・・・」

「おいおっさん、邪魔なんだよ!」

「ぐうっ!?」


 誠司は金髪の男に蹴り飛ばされ机の角に頭を当てて薄れていく意識の中で会話を聞いていた。


「うわっ・・・めっちゃ血出てんじゃん。だるっ、早く行こうぜ」

「え、ええ・・・あ、待って憐が」

「ああ・・・・・・まぁ一応連れて行くか」


 床に倒れても何とか意識を保ちながら見た光景は、麻里亜と金髪の男が憐を引っ張って外へ出る最悪の場面だった。




「ここ、は・・・・・・?」


 目を覚ますと、カーテンで囲まれた白い部屋にいた。

 窓から眩しいくらいの陽の光が入ってきて、一輪の花が飾られていた。


「お目覚めになられましたか神崎誠司さん」

「あの、一体・・・」

「あなたは机の角に頭をぶつけて意識を失っていたようです。相当強いぶつけ方をしたようですね。幸い、命に別条はありません」


 夢ではなかった。


「そう、ですか。いつ、退院出来ますか?」


 早く家に帰って知りたかった。

 今どうなっているのか。

 麻里亜は何故あの男の元へ? 憐はどこに? 浮気したのは自分のせいなのか? 金が足りなかった?


「動けるのなら、すぐにでも退院出来ますよ。どうしますか?」




「は、はは。ははは、ふざけんなよっ・・・・・・」


 家に帰ると、泥棒に入られたかのように家はぐちゃぐちゃになっていた。

 銀行から今まで貯めてきていた金も無くなっていた。

 こんな事出来るのは妻である麻里亜だけだ。

 金も、愛する妻も、息子も、全てを失った。


「・・・・・・ああ、無理だこれ」


 そして誠司は憐に買ってあげた縄跳びを手に、机に登った。


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