手を伸ばした先に
「あれ? 何で火が点いて・・・・・・?」
さっき火が点かなくて諦めていたのに、何故か今目の前で集めた木の枝が燃えている。
「あったか・・・・・・」
火があるだけで体感温度が全然違う。
周りの気温が数度上がった感覚だ。
「でもどうしてついたんだ。今は火の想像をしてただけなのに・・・、もしかして・・・」
目を瞑り、腕を前に出して掌を上に向ける。
想像するのは炎、火傷するくらいの炎の固まりを掌の上に生み出すイメージを。
出ない。
手を枝に向けて伸ばしそこに火が燃え移るように想像する。
暫く試行錯誤していると、
「ついたっ! やっぱりか!」
目の前に置いた木の枝が燃えていた。
何となくだけど、自分のこの力が分かってきた気がする。
今まで物を操ることしかしてこなかったが、恐らく自分のこの力はもっと多くの事が出来るはずだ。
例えばそうだな、水とかも出せるんじゃないだろうか?
「やってみるか・・・・・・」
水、水か、水といえば、水道水、川、雨、川で水が流れる音。透き通った綺麗な水だ。
そのまま出ると溢れるか、水を球状にして、物を操る力を使って浮かす。
「出来たっ!」
掌の上に水球が出来て、宙に浮かんでいる。
それを今はもう慣れた物を操る能力で水球を自由自在に動かす。
「おお! こんな事出来たのか!?」
驚きを隠せないでいつになくはしゃいでしまうが、これは仕方ないよね。
寒さも忘れて焚き火から離れて色々試してみる。
物を操る能力を応用し、空中に小さな川のような物を生み出してみたり、水球と同じ様に火球を生み出したりなどをしていたら、急に眠気がしてきた。
今日はなんだか疲れたな。
数日後、いよいよ所持金が底を尽きた上に、雪が降って来た。
飲み水に関しては幾らでも出せる様になったから問題ないが、食糧問題が深刻だ。
それに防寒具はやはり必要だな。
本格的に冬が始まってきて最近は焚き火があっても寒い。
街へ降りよう。
・・・・・・人が多いところだとバレてしまうから力は使えないけど、山で過ごすよりはマシな筈だ。
スマホの充電は大分前に切れていてSNSなどで情報を得られないから、前の動画がもう収まっていることを願うしか出来ないが。
太陽が完全に沈み切ってから山を降りた。
この時間なら人も少ないはず。
真冬に入ってからは夜は寒すぎて耐えられ無くなってきた。
24時間営業のコンビニを探して朝まで耐えるのが理想だが・・・・・・上手く見つかるだろうか。
完全に賭けだが、この数日間で一気に寒くなって来たから言ってる場合じゃない。
「ねぇねぇあの子ってさ・・・・・・」
「あ、やっぱり似てるよね? 私も思ってた!」
「めっちゃ寒そうな格好してるな。若いのは元気だな」
「お前もまだ若いだろっ! にしても半袖半パンは流石に若いな」
街を歩いていると通りすがりの人がよく視線をこちらに向けてはひそひそと何かを話している。
ただ前回みたいに直接話しかけてくるなんて事は無かったから、こちらも反応はしなかった。
それにしても沢山の人に見られるのと無意識に緊張してしまう。
この世界にはこちらが何もしなてなくても攻撃してきたり嫌悪してきたりする奴がいる。
実際に殴って来たり、暴言や悪口を言ったり、無視されたり、仲が良くてもどれだけこちらが相手を愛していようが拒絶されることがある。
そして会う人間の数が多くなる程に、そう言った人に会う可能性も高くなる。
他人が怖い。
視線が怖い。
誰を信じればいいのかも、もう自分には分からない。
自分を守ってくれる人も、味方する人もいない中で、いつどこで誰が攻撃してくるか分からない中で街を歩くのは恐怖でしかなかった。
「あっコンビニ・・・・・・」
コンビニを見つけてはすぐに中へと駆け込む。
そこで店員さんに注意されるまではずっと中で待機しておく。
大体1時間くらいで注意されてしまう。
何回かやると注意されるタイミングを掴めてきて、店員さんがこちらへ近寄ってきたらすぐに退店して他のコンビニを探す。
迷惑をかけているのは理解しているが、他人のことを考える余裕は無かった。
「ふぅー、ふぅー、全然ない・・・・・・」
両手を繋げて間に息を吹き込み寒さを紛らわす。
気がついたら辺りに街灯が少なく人も歩いている人を見かけないほど山の近くへ戻って来ていた。
当然そんな場所にはコンビニも少ない。
・・・・・・一つ前のコンビニを出てからどれだけ歩いただろうか。
いまだにコンビニは見つからない。
夜の寒さの凍えそうだ。
意識が薄れていく。
まともに目を開けられず、雪も強くなってきて前も見えない。
「・・・・・・しぬ」
本当にこのままでは死んでしまう。
ここはどこだろうか。
視界は悪く、元いた山にさえ戻れない。
ダンボールや毛布は目立つから山に置いて来てしまったが、それが仇となったか。
大人しく山へダンボールで周りを囲んで、毛布に包まって焚き火を点けていればもう少しマシだったかもしれない。
「ぁぁ、ぁ」
喉が震え、上手く声も出せない。
狭かった視界がさらに狭くなり、段々と目の前が暗闇に包まれていく。
ああ・・・・・・流石に、これは・・・・・・もう、・・・・・・。
地面が目の前にある、足はもう動かない。
寒い・・・・・・。
首を動かし視線を前に向けると、遠くの方にうっすら人影が見えた気がして、薄れていく意識の中で必死に手を伸ばした。




